【壱】受け継がれし桃の意志2
男と美咲が待つこと約十五分。スーツとその上からトレンチコートを着た如何にも刑事といった雰囲気の中年男と、まだまだ新米の雰囲気が漂う同じくスーツ姿の若い男が建物内へ姿を現した。
「おう、桃! また派手にやったのか?」
中年男は低めの渋声で男を桃と呼び片手を挙げた。
「西城さん。お疲れ様です」
桃は西城と呼んだ中年男へ丁寧に会釈を返す。
そして顔を上げると西条の後ろに立つ若い男へ視線を向けた。
「今日は灰田さんとご一緒ではないんですね」
「あぁ。あいつも俺も今となってはベテランという名のおっさんになっちまったからな。新人を育成する側だ。しっかし、時が経つっつーのは早いもんだな。こんなんじゃあっという間に引退しちまいそうだ」
あっはっは、と西城は大きく声を出して笑い、桃は微笑みを浮かべていた。
「西城さんは生涯現役って感じがしますけどね」
「おいおい。俺だって老後はゆっくり過ごしてーよ」
「あの。西城先輩こちらの方は?」
すると後ろに立っていた若い男は我慢無いと言うように西城へ耳打ちするように尋ねた。
「そうだな。お前もこの仕事をするならこいつは知っとかないといけねーな」
そう言うと西城は桃の隣へ並ぶとポンと肩に手を置いた。
「コイツは、桃太郎。まぁ桃って呼べばいい。本名は知らん。AOF社っつうEOCBのお偉いさんに実力を認められて過激派組織との戦闘を許可された数少ない民間企業の代表だ。ちなみに個人としても認められているのはコイツだけだな。いや……コイツらか」
「警備や護衛、人探しなど手広くやらせてもらっていますので何かあればいつでもどうぞ」
そう言うと桃はスマホレットを着けた方の手を何かを握るような形にすると顔前へ。
するとそのスマホレットからは映像型ディスプレイが出力された。それはスマホの待ち受け画面。
それを何度かその画面を操作した後に映像は消え桃は、そのまま左手を差し出す。
「EOCB第三課、高見裕二と申します」
自己紹介をしながら差し出された手を握る高見。その手とは逆に桃と同じ(だがデザインが異なる)スマホレットは着けられていたが、二人の手が離れると互いのスマホレットには既に相手の名刺が登録されていた。
「そう言えば、西城さん。救急車の方は来てますか?」
「あぁ。呼んでおいた。もう来ると思うが」
するとタイミングを見計らったかのように救急隊員がバッグを持ち廃工場へと入ってきた。
「こちらの女性をお願いします」
手を挙げた桃から声をかけられた救急隊員は椅子に座る美咲へと真っすぐ向かった。
「救急車ありがとうございます。いつもしようとは思っているのですがEOCBに連絡したら忘れちゃうんですよ」
「お前から連絡がきたら大抵ケガ人がいるからな。もう慣れた」
「私はなるべく平和に解決しようと思ってるんですがね」
「これがお前の言う平和ってやつか?」
御伽達が転がる光景を親指で指差す西城の言葉からは皮肉っぽさが感じられた。
「警告はしましたが襲われたので仕方なくですよ」
「まぁいいが。あまり無理すんじゃねーぞ」
西城は桃の背中を軽く叩き転がる御伽達の所へ歩き出した。そんな西城に高見も続く。
一方、桃は救急隊員に手当されている美咲の元へ。
「どうですか?」
「掠り傷などはありますが、大きな怪我はありません。手当は済みましたが、もし何かあればまずはお近くの病院へお願いします」
後半部分は美咲へ顔を向けていた。
「はい」
「では我々はこれで」
二人の救急隊員は一礼をするとその場を後にした。
「大丈夫ですか?」
「はい。――あの。ありがとうございます」
美咲は座りながら頭を下げた。
「いえ。私は依頼された仕事をしたまでです。では貴方をご自宅までお送りしますので少々お待ちください」
「はい」
そして美咲から離れた桃は西城の元まで歩いた。
「西城さん。後は任せていいですか?」
「あぁ。任せろ。記録はちゃんと送っとけよ」
「分かりました。ではよろくお願いします」
丁寧にお辞儀をした桃は再び美咲の元へと戻る。
「では行きましょうか」
「はい」
そして桃は美咲を連れ廃工場をあとにした。
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