二人の提案
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「そ、そんな馬鹿な話」
「信じられないのは道理です。ですが、それが真実です」
「しょ、証拠は?」
「証拠と言えるかどうかはわかりませぬが……」
エリザベーテは
ゲームに登場する人物や設定──公爵家の紋章。王太子殿下の生い立ち。死刑執行人の出生の秘密。各種ルート分岐の方法。
呆然と聞き入る
エリザベーテが語る内容は、すべて『アンジェ・メモリーズ』で、彼女が製作した内容そのものであった。未発表の、自作した乙女ゲームの内容を、だ。
彼女はもはや、疑う余地のないことを知らしめられる。
「ほ、本当に〈悪役令嬢〉、ヴィランズ公爵令嬢、なの?」
「はい。そう言っております」
「うそ……嘘、うそ、ウソでしょ?」
「事実です」
意識が混沌と化し、こめかみをきつく押さえるパソコン研究部の部長。
さもありなんと思うエリザベーテ。彼女本人も、三ヶ月が経った今でも信じることが難しい事態だ。
しかし、これこそが現実なのである。
「私からも質問いい?」
アンジェは
「なんで私たちの名前をゲームに使ったの? 偶然にしては出来過ぎだと思うんだけど?」
金髪碧眼の少女は、まるで責めるような語調で問いただす。問いたださずにはいられなかったというべきか。
「主人公の名前はアンジェ・
「す、すみませんでした!」
「ゲーム制作・シナリオを書くにあたって、勝手にお二人の名前を
女生徒の平謝りする姿に唖然となるアンジェとエリザベーテ。
「それは別に
「えと、実は私、お二人のこと、その、ストーカーと思われるかもですけど、入寮式の時から、絶対、ぜったいゼッタイ、お、お似合いだなって」
「……え?」
「まさか気づいて?」
「──気づく? 何に?」
「あ、いや、こっちの話」
アンジェが間一髪のところで隠し通した。
「えと、ですね。とくに印象深いのは一年の時。副会長さんがアンジェさんのために切った
「は……はぁ」
「それに、植物園で樹木や花畑を世話してらっしゃる時の二人と言ったら! もはや天使降臨! みたいな!」
実にいじらしく、純な乙女の仕草である。
「そ、それで、その、お二人がそういう関係に、な、なれないかなって、イラストとか夢小説っていうの書いてて、二年になったら絶対に自作ゲームの
「な、なるほど?」
彼女の情熱の炎が、乙女ゲームを自作させるほどの熱量を発し、昨年の十二月には完成を見た、ということらしい。
「でも、まさか、私ごときが作ったゲームのキャラクターさんが、実際に目の前にいるなんて──とても信じられない、き、奇跡です!」
「──ええ、それは本当に」
エリザベーテは思い知った。
目の前にいる彼女こそ、自分たちの世界『アンジェ・メモリーズ』の、いわゆる創造主である事実を。
「待って、エリザ。私はこの人に言っておきたいことがある」
アンジェは許しがたいものを見る瞳の色で、床に座る少女を睨みつける。
「私たちをモデルにしたことは、この際だから
彼女にしては強い拒絶の発露だった。
アンジェは恋人の代わりに、創造主である少女に歩み寄って不満の怒声を発する。
「どうしてエリザを〈悪役令嬢〉なんかにしたの? そのせいで、ゲームで彼女がどれだけ
「そ、それは、乙女ゲームの〈悪役令嬢〉ですから。それに、最後のトゥルーエンドだと」
「〈悪役令嬢〉なんかにするなって言ってるの!」
金髪碧眼の
「私、エリザから聞いたよ。エリザはゲームの世界で、
「アンジェ、落ち着いて!」
エリザベーテの方が体格が良くて助かった。アンジェは体ごと制止され、
安堵の息を吐いて、〈悪役令嬢〉は自分の創造主の手を引いて立ち上がらせる。
「創造主さま、いえ、
「も、元の世界って言われても」
彼女自身にも、どうやってエリザベーテを元の世界に、ゲームの中に帰せるのか、まるで判然としない。
「おそらく、あなたがゲームを、『アンジェ・メモリーズ』を完成させれば、きっと帰還の糸口となるはずです」
「でも、動作不良から三ヶ月経っても、その、原因が」
「それなら大丈夫。
先ほど画面に触れて、少しだけですが
「ふへ?」
疑問符を浮かべる製作者。
おそらく、エリザベーテだけが、この事態の真相──真実に一番近い場所に立っている。
エリザベーテは創造主に告げた。
「私が、ゲーム制作のお手伝いをいたしますわ」
「え?」
「エリザ!」
アンジェが悲鳴にも似た声を発するが、エリザベーテは柔らかい笑みを浮かべる。
「大丈夫です。私は公爵令嬢──ゲーム制作とやらでも、この能力を
「でも……それじゃあ、エリザは!」
泣きじゃくるアンジェの涙を、エリザベーテはハンカチで
「こうすることが、私たちがあるべき姿に戻れる唯一の方法なんです。わかってくれますわよね?」
「…………わかった。でも、その代わり、私も手伝うから」
「ありがとうございます、アンジェ」
エリザベーテとアンジェは、『アンジェ・メモリーズ』の創造者へと、改めて振り向く。
「
エリザーベーテは宣言した。
それに対し、『アンジェ・メモリーズ』の創造者は、なんとも覇気のない声で「は……はい」と答えるのが精一杯だった。
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