番外編 澪の相談

「さて、皆様に集まっていただいたのは他でもありません」


「今日の夜陽太との初めてをどうしようかって?」


「優正がなにを言ってるか分からないけど、目標は照れさせること」


(無理でしょ)


 私は優しいから本人に伝えたりしない。


 でも伝えてもいいかと思ってしまう。


 いくら私が譲ったからと言って、私に普通相談するか?


「澪に陽太君を照れさせること出来るの?」


 確か澪のお姉さんの冷実さんは家族だからかストレートに言う。


「出来るかどうかじゃないんだよ、やるしかないの」


 なんだかかっこいいこと言ってるけど、意味が分からない。


「陽太を照れさせてなにがしたいの?」


「可愛くない?」


「同意しか出来ないことを言うな」


 確かに照れた陽太はもっと虐めたくなる感じに可愛い。


「陽太君って照れたことあるのかな」


「あるよ」


「え?」


「私と水族館行った時に私の告白聞いて照れたよ。言ってなかったっけ?」


 そういえば言ってなかったような気がする。


「あ、澪が固まった」


「澪、現実を受け止めて。多分澪も陽太君を照れさせたことあるはずだから」


「……いつ?」


「私に聞かれても……」


 私の知る限りでも陽太が照れたところを見たのは水族館の時だけだ。


「澪が童帝を殺すセーターでも着ればいいんじゃない?」


「陽太君だと恥ずかしさより心配が勝ちそう」


 確かにいくらセーターと言っても布面積が少な過ぎて寒くないか心配しそうだ。


「陽太君ってどんな服が好きなのかな」


「澪って陽太君に選んで貰った服持ってなかった?」


「あるよ」


 そう言って澪は嬉しそうにクローゼットの中から衣類カバーを掛けた服を取り出す。


「他のには付けてないのに」


「陽太君が選んでくれた服だよ? 大事にするのは当たり前でしょ」


 澪は陽太から貰ったものは全部大事にしている。


 髪留めは毎日付けているのに綺麗なままだし、確かハンカチも貰っていたけど、それも大切に使っている。


「部屋も陽太君が綺麗にしてくれたから汚さないんだもんね」


「違いますー、元から綺麗ですー」


 澪の部屋が汚部屋だったのは初耳だ。


 陽太から貰ったものを大切に扱っているから、物の扱いには気をつけているのかと思っていた。


「それより服。このセーターって陽太君の趣味って感じしないんだよね」


「確かに。澪に似合う服を選んだって感じ? 私も選んで貰おうかな」


 私の服は全部お兄ちゃんが選んだ服だ。


 服に頓着がなかったから適当に選んでいたらお兄ちゃんが「優正ちゃんにほこういうのが似合うよ」と、選んで買ってきてくれるようになった。


「陽太君って好きな服があるんじゃなくて、澪なら澪の着てる服が好きなんじゃない?」


「だよね。陽太君に選んで貰う時も好きな服を選んで欲しかったけど似合う服を探してたからね」


「じゃあ変に考えないで仲がいい相手にしか見せない服を着てったら?」


「と言うと?」


「パジャマ」


 パジャマなんて友達でも滅多に見ない服だ。


 私だって澪のパジャマ姿なんて見た事ない。


「陽太君のは毎日見てるけど、私のは一回しか見せてないか」


「何? さりげマウントですか」


「バレた?」


(絶対後で辱める)


「でもパジャマはいいかもね。新鮮だし」


「服は考えたってしょうがないから。陽太ならなんでも喜ぶし、全部に可愛いって言うから」


 馬鹿にしてる訳ではない。


 陽太は本心から可愛いと言ってくれるから悩むだけ時間の無駄だ。


 それなら他のことに時間を使った方がいい。


「じゃあどうやって陽太君を照れさせるかだね」


「とりあえず手を握る?」


「効かないのに?」


「そこからよ。手を握って上目遣いならの男子だったら一撃だよ」


「陽太君に上目遣いとか効かないけど」


「知ってる。そこからは澪のアドリブで」


 正直陽太を照れさせるのは無理に等しい。


 私が照れさせられたのだって偶然で、今もう一度出来るかと言われても出来るか分からない。


 多分服を脱いだところで目は逸らしても心配するだけで終わる。


 だから布石は打っておいたけど。


「後は陽太が好きを自覚出来るかどうかだよね」


「え?」


「なんでもない。それより他ね」


 それから私達は色々と陽太を照れさせる方法を考えた。


 陽太と一緒に寝るとか、一緒のベッドでおはようを言うとか。


 どれも望み薄だけど、そこは澪クオリティに任せる。


「そういえば澪っていつ陽太君のところに行くの?」


「え? あ、決めてなかった」


「まさかの陽太待ちぼうけ。可哀想、慰めてこようかな」


「行ってきます」


 私が立ち上がる前に澪は扉に手をかけていた。


「愛の力は偉大」


「……そうですね」


 冷実さんがいきなり目線をキョロキョロし出した。


(あぁ人見知りってやつか)


 事前に澪から冷実さんは人見知りだと聞いていたけど、さっきまでは全然そんな感じがしなかったから気にしてなかった。


「あの」


「は、はい」


「冷実さんに謝りたいことがあったんですよね」


「わ、私に?」


「はい。うちの兄が冷実さんにちょっかいをかけてるみたいなので。ほんとにすいません」


 澪から伝わっているかは分からないけど、冷実さんに会ったら謝っておきたかった。


 お兄ちゃんに聞いたら「運命の相手だ」と言って話を聞こうとしないし。


「い、いえ。えと、私なんかに構わないで大丈夫なんですけどね。私、大学で浮いてるので」


「兄もですよね?」


「そ、そんなことないですよ。お兄さんは他の女の子から人気で、私に構うから物好きみたいに見られて、私の方こそすいません」


 冷実さんが私に土下座をする。


(なんで姉妹揃って土下座が好きなの)


「えっとですね。兄は冷実さんのこと本気で好きなんですよ。迷惑なら言っておきますよ? でも迷惑でないのなら話し相手ぐらいにはなってあげてください。根っこの根っこはいい人なので」


「ほんとの私はこんななので話してボロが出たら好きなんて言えなくなりますよね……」


「どうでしょうね。兄は確かにキッパリものを言う人が好きですけど、あんなでも人を見る目は確かですから」


 お兄ちゃんは私と違って友達付き合いを失敗したことがない。


 その人がどんな人なのか瞬時に分かってしまうようだ。


「だから冷実さんの楽な方で話してくれていいですよ。もし今の冷実さんを見て嫌いになったとか言うならしばくので」


「え、えと暴力はその」


「大丈夫です。兄にとってはご褒美なので」


 冷実さんは困惑してるけど、もしそんな最低なことをしたらお兄ちゃんが一番嫌がる無視をする。


 まぁそんなことにはならないんだろうけど。


「それより澪、今日帰って来ると思います?」


「澪も結構早くに寝るから眠くなっちゃったら寝ちゃうかも」


「それは楽しみ」


 私の悪い顔を見て冷実さんが少し引いている。


 それからしばらく冷実さんと話していたら寒月さんが来て「見に行くか」と言ってきたので私は立ち上がり、寒月さんに言われて、冷実さんが陽太の妹ちゃんに連絡を入れた。


 そして三人で陽太君の家に行き、妹ちゃんの案内で陽太の部屋に行くと、扉の前に真綾さんが居た。


 真綾さんが「寝たよ」と言うのでみんなで部屋の中に入り写真撮影会を始めた。


 冷実さんは一枚だけ撮って部屋を出て、妹ちゃんは数枚撮って嬉しそうに部屋を出ていった。


 真綾さんは写真は撮らずに寝ている二人を眺めて涙を流していた。


 寒月さんも何枚か撮って満足した後に「分かります」と真綾さんに言いながら涙を流していた。


 この仲良く二人で寝てる光景が嬉しいのだと思う。


 私には天使のような陽太の寝顔しか見えないけど。

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