番外編 澪の言葉は胸にくる
「ねぇ澪」
「嫌だ」
「いいじゃん、ちょっとだけだから」
「なにを言われてもなにをされてもそのお姉ちゃんに陽太君は会わせないから」
夏休みが始まるということで、大学が終わったその日に私は家に帰省した。
そしてずっと気になっていた陽太君に会ってみたくて澪にお願いをしているのだけど一向に許してくれない。
「ていうかなんで家でも猫かぶってんのさ」
「だってずっとこれなんだもん、慣れって怖いよね」
澪に陽太君へのプレゼントを何にした方がいいか聞かれた時はまだ素の方で喋っていたけど、今はこちらが抜けない。
「友達のいなかった澪の初めての友達だよ? 気になるじゃん」
「お姉ちゃんはまず友達を作ってから言って」
私の妹は結構胸にくることを言う。
そこも含めて可愛いのだけど。
「私大学では人気者なんだから」
「興味も無い男子からでしょ。それ嬉しいの?」
「女子からの『男子に色目使い過ぎじゃん』っていう目が痛い」
そういうのは高校生までだと思っていたけど、さすがに高校を卒業してから一年も経っていないとそういうのはあるようだ。
「じゃあやめれば?」
「そしたら今度は『あの女ちょろそう』みたいに思われて男子から話しかけられそうで嫌」
高校の時はほんとに苦労した。
私、顔だけは遺伝なのか良かったから。
「でもどっちみち話しかけられるんでしょ?」
「そうだけど、この性格だと断るのが楽なんだよ」
「コミュ障だから変なサークルとかに誘われてそのまま悪いことをしそうだもんね」
「私だってそこまではしないよ」
知らないで入ったサークルが飲みサーとかだったらまだ未成年だからと断る。断れる。断りたい。
「そんな可哀想なお姉ちゃんに陽太君を会わせてよ」
「意味分かんないし。穢れたお姉ちゃんを見て陽太君のピュアな心が汚れたらどうするのさ」
「だから澪酷くない?」
去年までも確かに口が悪いことはあったけど、ここまでストレートではなかった。
「素直になろうと決めたから」
「お姉ちゃんにはもうちょっとオブラートに包んで話してもいいんじゃない?」
「今のお姉ちゃん好きじゃないからやだ」
そういえば昔から澪は私の外面が嫌いだった。
理由は知らないけど。
「澪は真面目だからこういうの嫌いなの?」
「私はもう真面目なんてやめてるから。私はいつものお姉ちゃんがいいの」
澪は不意打ちで胸にくることを言う。
「泣きそう。やっぱり陽太君に会わせて」
「だからなんでさ」
「こんないい子の澪を変な子と付き合わせたくない」
「それは善陽太君を変な子って言ってるの?」
(やば)
澪の目が本気で怖い。
「違うんです。ほら私は陽太君に会ってないから分からないじゃん? だから言葉の綾というかなんていうか、とにかく私は陽太君を変な子とは思っていません」
私は頭を床に擦り付けるながら澪に謝る。
「だから会わせて」
「しつこい」
「それはお姉ちゃんに会わせたら取られちゃうって不安?」
「は?」
「すいません」
煽るのは良くない。
ここは貸し借りを使う。
「澪って私に借りがあるよね」
「ないけど」
「あるよ。陽太君のプレゼント誰の提案?」
「お姉ちゃんも結局そういうこと言うんだ」
(あれぇ?)
ここは言い返せなくなった澪にお願いしてオーケーされる流れのはずなのに、なんだか私が悪い子にされている。
「お姉ちゃんは善意からアドバイスくれてると思ってたんだけど」
「いやいや、善意だよ? そんな貸しなんて思ってないから」
「じゃあいいね」
「なんか澪さんコミュ力上がってない?」
「陽太君と毎日話してればこうなるさ」
澪がどこか誇らしげに胸を張る。
(無い胸を張る澪可愛い)
「絶対に陽太君に会わせない」
「口に出てた?」
「やっぱり思ったんだ」
「私が弱いのかな?」
これでもそれなりに人と話してコミュ力は付いたのだけど、澪は私の牛歩とは違ってどんどん話すのが上手くなっている。
「まぁいいや。陽太君に聞くだけはしてあげるよ」
「え、いいの?」
「うん。プレゼントのことは確かに色々と助かったし」
そういえばお母さんに「澪にお菓子を作らせたのあんた?」って言われて少し怒られた。
私は知らなかったけど、澪の料理の腕はちょっと人とは違い過ぎるようだ。
「陽太君が断ったらなしだからね。多分ないけど」
「うんうん」
「一つだけアドバイスしとく」
「何?」
「陽太君に会うなら素の方が喜ばれるよ。多分そっちで言っても最終的には巣にされるだろうけど」
よく分からないけど、私は素で人と初対面の人とは話せないから素でいくつもりはない。
「まぁ後悔しないようにね」
そんな話し合いをした次の日に澪は陽太君を連れて来た。
そして私は素を出された。
私の素を可愛いと言ってくれたり、素の私と普通に話してくれる陽太君はとてもいい子だ。
だから私も陽太君が好きになった。
もちろん恋愛対象とかではなく、友達として。
そっちは澪が頑張るのだから。
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