ヒーローの娘
凪司工房
1
――これが父さんが守りたかったものの姿だ。
あの夏からもう十年が経つ。この子どもたちはあの後に生まれた世代だ。もう多くが父の、いや、ヒーローのことなど知らない。知っていたとしてもそれはテレビの中の架空の存在だった。
「おーはよっ!」
「あ、おはよ」
背中を思い切り叩いてから前に出たのは同じクラスの
「それより今日からの試験、大丈夫?」
早紀は優希の顔を
「国語はいいんだけど、数学と化学がねえ」
おっとりとした口調で永美が笑う。
「赤点さえ取らなきゃいいよ」
優希はそう言って空を見上げた。彼女たちの上を耳障りな音が抜けていく。自衛隊の飛行機だ。あっちは東京湾の方だろうか。
と、カシャリ、とシャッター音がしたのを耳が
早紀が
「いいの?」
「気にしないで」
「でもどんな写真撮られてるか分かんないよ。あいつ陰気だし」
何故未だに優希の撮影を続けているのか、その理由は何となく理解していた。けれどそれについて彼女たちに話すものでもない。だからいつも「別にいいのよ」と言って誤魔化してしまう。
「あ」
永美が口を開けて二人を見る。
警報だ。訓練とは違う。
「とにかく学校に急ご」
そう言った早紀の言葉で駆け出そうとした三人の前に、一台の黒塗りの車が停まった。中から出てきたのは長身のがっちりとした体格の黒服だ。彼は優希の姿を見つけるなり「山根様ですね」と尋ねた。
「何?」
できる限り素っ気なく、けれどどこか
「お話があります」
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