【短編】ラブコメのテンプレが大好物な三好くん

黄色いキツネ☆

【短編】ラブコメのテンプレが大好物な三好くん


 ピピピピピッ!


「ん…」


 ピピピピピピピピピッ!#


「う~ん…うるさい!」


 いくら鳴らしても起きない俺に、お怒りになった目覚ましのアラーム音に更にキレる俺。

 アラーム音を消して再度、寝直そうとしながらも時計の時間を確認する。


「はっ!や、やべえ!遅刻する!!」


 と、口では言いつつも実は想定内。

 むしろ遅刻ギリギリは望む所!


 なぜなら…


 俺・三好大喜みよしだいき16歳はテンプレが大好物。

 3度の飯よりテンプレ好き。


 ここまで言えばわかるだろう?

 そう、遅刻ギリギリはラブコメにおけるテンプレ!

 要はテンプレ・いわゆるラブコメのお約束事を、常日頃求めているというわけだ!


 お約束を求めているから遅刻ギリギリ?

 なんだそれはって?


 はっ!そんな事もわからないなんて無知な奴らだ!


 いいか!?よく聞け!!

 遅刻ギリギリで学校に向かえばイベントが起こるのが道理。

 それが世の常というものである。


 …そんな事が現実にあるわけない?

 夢見てんじゃねえよバカ、だと!?


 おい!!

 絶対に起こらないと誰が決めた!?

 1%でも可能性があるのなら、俺はそれに賭けるんじゃあああ!!


 と、俺が誰ともわからない相手と脳内で口論している間も、急いで学校に向かう準備をしていく。

 適当に髪を整えながら歯を磨き、急いで制服を着たところで家を出る。


 そして俺は猛ダッシュで学校に向かっている途中、住宅街の高い塀がある交差点に差し掛かった時…


「あ~!遅刻遅刻ぅ~!」


 という声が塀の陰から聞こえてくる。


 そして塀を越えた瞬間…

 パン・・を咥えた女子高生が目の前に現れた。


 しかし俺も猛ダッシュしているため、急には止まれず…


 ドンッ!!

 と、ぶつかってしまって衝突の勢いで互いに転がってしまう。


 俺は慌ててその女の子を確認すると…

 彼女は後ろに倒れて尻もちをついていた。


 そう、尻もちをついていたのである。

 という事は…


 俺の目には、御開帳されたイチゴのパンツが目に飛び込んで来たのである。


 うっひょ~!

 来た来た来た~!!


 ほら見ろ!

 あったじゃねえか!!


 街角でパンを咥えた女子とぶつかった上のパンモロ!!

 しかもその柄がイチゴと来たもんだ!


 これぞお約束!!


 何?パンを咥えて走る超希少生物 (しかも可愛い)女子なんて、現実世界にいるわけないだと?

 夢に決まってんだろバカ、だと!?


 いやいや、お前らこそ目を逸らすんじゃねえ!

 現実を直視しろ!!


 今!ナウ!この瞬間!

 俺の眼の前で実際に起こってるじゃねえか!

 くくくっ!ざまーみろ!俺の勝ちだ!!


 っと、誰ともわからない相手と脳内口論している場合ではない。

 いくらテンプレにテンションが上がったとはいえ、さすがに相手が怪我していたらまずいので、謝って確認しなければ。


「ご、ごめん!大丈夫か?俺も急いでて…」

「あ、だ、大丈夫…こ、こちらこそごめんなさい…私も急いでて…って、ちょ!!」


 俺は彼女に謝罪と心配の声を掛け、彼女もそれに応えたのだが…

 彼女が何かに気がついた…


 それは…俺の視線。

 そう、俺は声を掛けながらも視線は一点に集中していたのだ!!

 それは勿論、いちごちゃんに!!


 目は正に釘付け。

 1mmたりとも目を離したりはしていないのだ!


「ちょ、ちょっと!私の…見たでしょ!?」


 俺の視線に気づいた彼女は、さっと足を閉じてスカートを抑えながら抗議してくる。


「い、いや、見てないよ…?」


 俺はそう言いながら、鳴ってもいない口笛で誤魔化す。


「…っ!こ、このぉ~!」


 お、来るか来るか!?


「このへんたあああああい!!」


 バシ~ン!!


 うほ~!

 来ました、来ましたよ!!


 俺は彼女から受けた強烈なビンタできりきり舞いに吹っ飛ばされながらも、これ以上無いくらいの愉悦の表情を浮かべてしまう。


「んもう!この~バカ!アホ!変態!」


 彼女は恥ずかしさのあまりに、涙目になりながら思いつく限りの幼稚な罵倒を俺に浴びせて走り去っていった。


 ぐふっ…

 ぐふふふっ!


 なんというお約束!

 これぞ俺の求めていたもの!!

 全てがご褒美です!


 …何?ビンタされて罵倒されて喜ぶ変態、だと!?


 ばっかやろう!

 そうじゃねえ!そうじゃねえんだよ!!


 ビンタされた事に対して喜んでるんじゃねえんだよ!

 パンを咥えた女子生徒と交差点でぶつかり、パンだけにパンツのご褒美、そして恥ずかしさのあまりに飛んでくるビンタとテンプレ罵声のおまけ付き。

 このセットがあってこその至尊なんだろうが!!


 いやぁ、やばいね!

 いつも追い求めつつも、ずっと遭遇出来なかった朝のお約束事に遭遇できるとは。

 今日はなんて日…いや、なんて良い日だ!

 これだけで飯3杯はいける!


 さっきは3度の飯よりテンプレ好きって言ってなかったかって?

 いや、こんなお約束と出くわしたら、飯何杯でもいけるだろうが!!


 と俺はそんな事を考えつつ、あまりの気分の良さに頬のモミジも気にする事なく、ホクホク顔でスキップしながら登校しましたとさ。

 途中で通りすがりの人に後ろ指を刺されたのは、言うまでもない事である。


 結局遅刻ギリギリ…

 というか、ギリギリ遅刻で登校した。

 その際、校門で目を光らす風紀委員に昼休みの呼び出しをくらいましたとさ…


 まあ、そんな事はさておいて…

 遅刻して教室に入った時には担任はまだ来ておらず、少し遅れてから担任の真冬先生が教室に入ってきた。


 ちなみに、美人の女性教師というテンプレを守ってくれた神様には感謝しかない。

 美人の真冬先生とのお約束は未だにないが、もちろんいずれはと期待しているのは言うまでもない。


「おはよう、少し遅れて申し訳ないな。というのも…まあSHR始める前に皆に紹介しておく。では、入ってきなさい」


 …お?

 まさか…まさか!?


 俺の期待をよそに、教室のドアがガラッと開かれる。

 そして中に入ってきたのは…


 今朝の女子生徒だった…


 うっひょ~!!

 来た来た!来ましたよ!


「皆さん初めまして。今日からこの学校に転校してきた逢坂由愛あいさかゆあです。どうぞよろ……」


 くくくっ!

 今朝ぶつかった女性が転校生だった…

 なんというテンプレじゃああああ!


 と考えながら彼女をガン見している俺と、教室を見渡しながら自己紹介をしていた彼女と目が合った事で、彼女は固まってしまっていた。


「あっ、あっ…」


 彼女・逢坂さんは、俺を指さしながら言葉に詰まっている。


 おっ、次は?次は?


「今朝のへんたあああああい!!」


 うほぉおおお!

 来ました、来ましたよ!!


 パンツを見た印象最悪な俺に対してのテンプレセリフ。

 頂きました!ごちそうさまです!


「ん?何だ?三好と知り合いなのか?」

「い、いえ、違います!あんな変態と知り合いなわけありません!」


「ほう?三好が変態?…まあ、何かあったようだが深くは聞かんよ。ただ、ちょうどその変態三好の隣が空いてるから、そこに座りなさい」

「え?ええ!?い、嫌です!他の席と変えてください!」


 真冬先生は絶対に楽しんでるな。

 ニヤニヤしながら、俺の隣に座れと指さしている。


 ちなみに真冬先生がサラッと俺を変態扱いしているが、美人教師が担任というテンプレ欲を満たしてくれた時点で、真冬先生には何言われても構わないのだ。


「ほらっ、SHRの時間も無くなるから取り敢えずあの席に座りなさい」

「は、はい…わ、わかりました…」


 ニヤニヤしながらも現状を突きつけると、逢坂さんも皆の迷惑になると考えて渋々納得して俺の隣の席へ足を進め始める。


 くくくっ、テンプレテンプレ♪

 今朝ぶつかった女子生徒が転校生で隣の席!


 真冬先生も実はわかってんのか!?

 わかってて、やってくれてんのか!?


 もう心の中はフィーバーしっぱなしだが、逢坂さんが隣の席に来ると流石にその気持を抑えて声をかける。


「今朝は悪かった、ごめん…とりあえず、これからよろしく」


 俺の内面が腐っている事は自分でも理解しているが、表面上は普通の男子生徒のつもりである。


 普通の男子はパンツをガン見出来ないって?

 いやまあ、そこはあれだ…そう、あれだ!!


 まあそんな事はさておき、普通の男子生徒である俺は普通の対応をする。

 逢坂さんには、今朝の謝罪とこれからのための挨拶をしておいた。


「ふ、ふん…誰がアナタみたいな変態と…」


 あらら、相当嫌われてしまったようだ。


 とはいえ、はっきり言って俺は好感度には興味がない。

 俺に興味あるのはテンプレ・お約束だけなのだ!!

 だから彼女の俺に対する好感度が最底値であろうとも、俺にとっては痛くも痒くもないのだ!!


 と、そんな事を考えていると…


「た、ただ…アナタも…ぶつかったとこ…大丈夫だった…?」


 お?意外にも俺の心配をしてくれるのかな?

 と思ったとたん、すぐに逢坂さんは言い訳を始めたのだが…


「あ、い、いや!か、勘違いしないでよね!アナタの心配なんてしてないんだからね!!ただ、私が怪我をさせていたら嫌だと思っただけなんだからね!」


 ぐっはぁ!!

 ツンデレ!ツンデレ来ましたよ!!!


 もう!ちょっと何!?

 何なの、この娘!


 天然のテンプレ製造機なの!?

 そんなに俺を喜ばせたいの!?

 俺を喜ばせてどうしたいの!?


「え?ちょ、ちょっと何!?どうしたの?やっぱり怪我したの?」


 俺はあまりの喜びにより身悶えてしまった。

 それを怪我して痛がっているのと勘違いさせてしまったようだ。


「はい、そこ!仲良いのはわかったから、いい加減HR始めるぞぉ~」

「え、ちょっ!仲良いってわけじゃ…ブツブツ…」


 相変わらず身悶えている俺の事を気にしつつも、真冬先生に冷やかしながら注意をうけた逢坂さんは小声でモゴモゴ言いながらも大人しくするのであった。



 ………



 昼休みになり、風紀委員に呼び出しをくらっていた俺は、渋々ながらも風紀委員室に向かった。


 ノックして部屋に入ると、そこには整った顔立ちの美人でありながら表情があまり変わらず、かつ厳格で冷徹である事から“氷の女王”とも呼ばれ、生徒達から恐れられて(一部には喜ばれて)いる風紀委員長の榊美玲先輩がいた。


「三好だな?よく来た。お前がここに呼ばれた理由は分かっているよな?」


 見た目にそぐわぬ、きつい言葉口調。

 まあそれも一種のテンプレとして、俺の心はウキウキである。


「はい、わかっています!榊風紀委員長の足を舐めたらいいんですね?」

「ば、バカモノ!何がそうなったら、そういう発想になるんだ!?」


 え~?

 氷の女王である風紀委員長の裏の顔が、嗜虐趣味というのもテンプレで良きなんだけどなぁ…


「お前をここに呼び出したのは、遅刻の回数が多すぎるから説教するためだ!」


 そう、俺は毎回遅刻ギリギリを狙いすぎて、しょっちゅうギリギリ遅刻をしているのだ。

 しかも毎朝、風紀委員の誰かが目を光らせているので、毎回指摘を受けて名前もバレバレだったりする。

 それが積もりに積もっての呼び出しらしい。


「いいか?風紀の乱れは心の乱れ……生徒1人1人がきちんと……だから……」


 ちっ!

 榊委員長から20分くらい、ずっとこうして説教を受けているがテンプレのテの字も起こりそうもない。


「というわけだ!わかったか?」

「はい、わかりました!」


 全然聞いてなかったし全くわかっていないが、お約束にありつけないのであれば素直に返事をしてさっさと去るに限る。


「もし次に遅刻したら、夏休みは無いと思え」


 なにぃいいいい!

 それは流石に勘弁だ!


 夏休みといえば、テンプレの宝庫じゃねえか!

 それを潰されてはたまらん!


「はいぃ!!!わっかりましたぁ!!」

「うむ、では行ってよろしい」


 俺の誠心誠意を込めた返事と敬礼で、榊委員長は満足して解放してくれた。

 しかし、教室に戻ったときには昼休みが終わったのは言うまでもない。


 そして、その日の放課後。

 俺は教室掃除を終え玄関で靴を履き替えて、さて帰ろうと玄関と出た矢先…


 ちらっと校舎の端を見ると、ササッと人影が見えた気がした。

 しかも、さっき説教を受けた榊風紀委員長だったような気がするため、妙に気になって後を追ってみる。


 校舎の端を曲がってみても人の姿が見当たらないので、そのまま進んで人気のない校舎裏近くの角に差し掛かった。

 と、そこに…


「にゃ、にゃ~ん。お腹がすいたのかにゃ?」


 ……ホワッツ!?


 何か声が聞こえた為、俺は校舎の陰から顔だけ覗かせる。

 すると…


「あははっ、こらっ、くすぐったいからやめるニャン」


 猫を抱きかかえ、顔をペロペロされている榊風紀委員長がいましたとさ。

 そこには氷の女王と呼ばれる彼女の姿がどこにもなかった。


 うわっふぉお!!


 よりにもよって、あの氷の女王が…

 優しい言葉で猫語を喋っているだと!?

 しかも、めちゃくちゃ表情豊かだと!?


 厳格な美人が裏では違う顔!正にテンプレ!

 いただきましたぁあああ!ごちそうさまです!


 …猫に猫語を、しかも外で話しかけるやつなんて早々いないって?


 いや、だから!目の前にいんだろが!

 現実を直視しろや!


 俺はこの喜びを噛みしめる!

 尊い…いや、これこそ本物のてぇてぇだ…


「うふふっ、本当に可愛いにゃ……って、にゃにゃにゃ!!」


 俺は榊委員長のてぇてぇ姿をガッツリ満喫するために、身を乗り出しすぎていたようだ。

 完全に陰から出ていて榊委員長とバッチリ目が合い、驚きすぎた榊委員長は猫語のまま慌てていた。


「き、きさまぁ!い、今の見たのか!?」

「い、いいえ、見てません!」


 さすがに榊委員長の目に殺意を感じた俺は、やはり鳴らない口笛を吹きながら誤魔化した。


「…っ!う~!」


 榊委員長は、若干目に涙を浮かべて悔しそうに唇を噛み締め拳を握りしめる。


 こ、これは、泣かせてしまうか俺の命の灯火が消え失せるかのどちらかか!?

 そう身を構えた時…


 榊委員長がガクッと膝をついた。

 そして…


「くっ、殺せ…いっその事、殺してくれ…」


 あひゃあああああ!!

 くっころ!まさかのくっころを頂きましたあああああ!!

 飯10杯いっちゃいまあああす!!


 さすがに、これこそ現実ではありえないと思っていたくっころ!

 しかも氷の女王の風紀委員長から頂けるとは!


 もう俺は思い残す事はない…

 いつ死んでもいい…


 未だにくっころを呟いている榊委員長と、いつ死んでもいいと昇天しかけている俺。

 よくわからない構図になりながらも、誰も止める者はいない。


 俺はこうして、日々ラブコメのテンプレを追い求め…

 これからもテンプレを求めていくのであった…




 --------------


 あとがき


 かなりお久しぶりの投稿です。


 執筆を一時休止していた間に忙しくなったり、時間が出来たら全く作品のネタが全く思いつかなかったりで全然書けていませんでした。

 なので今回は、完全にリハビリ投稿として思うがままに書いています。

 ラブコメではテンプレだけど、実際にはありえないだろうという展開を描いているのでご容赦を。

 続編・連載の予定は今の所ありません。


 他の作品に関しても、また書けるようになったら投稿していくつもりですので、また見かけた時にはよろしくお願いいたします。

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