短編:虚構と現実が入り交じるようです

-N-

短編:虚構と現実が入り交じるようです



 時折、自分が本当はどちらの人間なのだろうかと、分からなくなることがある。

 仮想現実でアバター達がさんざめいてきらめく、そんな中で笑っているとき。ボサボサの髪の毛を気だるげに整えて、コンビニのレジ打ちへと出勤するとき。

 どちらが本当の人間なのだろうか。分からなくなるときがある。

 楽しいのはおそらく前者。誠実なのはおそらく後者。私は楽しげな人間なのか、責任を果たすだけの人間なのか、分からなくなる。それが、ここ数年何度もぶり返すように頭の中をよぎっていた。


 ――パパパーッ!!

 えっ。


 気がつくと自分の世界は、二つから一つに変わっていた。きらびやかな渋谷の交差点を飛び交うアバター達を眺めながら、そこのコンビニでレジ打ちをしている。

 世界がバーチャル空間になってもレジ打ちとはと笑ったものだが、皆が幸せになれるならと今日もアルバイト。

「オネエサン、キョウモカワイイネ」

 イケメンの黒人男性アバターが片言で褒めてくれた。この人はよく世界の前もコンビニに足を運んでくれた、コンビニの常連さんだ。

「ありがとうございます、このアバター、実は特注で」

「?」

 そうか、自分の姿を見てもらうのはこれがはじめてだったっけ。

 自分のアバターはヘッドセットの倍額をかけ、大手仮想ライバー会社に依頼して作ってもらった、本当の特注品だ。3Dモデリングに疎かった私は、それでも唯一無二、オリジナルのアバターで遊びたいと、作ってもらったんだっけ。

 黒人さんはいつものエナジードリンクを渡すと、それをスキャナーで打ち込んだ。

「230円デ」

「ふふっ」

 たまに見かけるんだよね。通貨単位コインを円と呼んじゃう人。海の向こうでもドルと言い間違える、世界共通のあるあるみたい。

「確かに頂きました。お兄さん、今日もDJ?」

「ソウ、DJ。コンドモキテネ」

 と言ってエナジードリンクを掴むと、手のひらをひらひらさせて出ていった。


 私はこの日常を気に入っている。世界が仮想空間になって、自分の垣根がなくなって。素敵なお友達もいっぱいできて。まるで嘘が現実になったみたい。

 コンビニ。渋谷。DJの彼。そして私。全てがキラキラに塗り替えられて、今日も仮想現実は動いていく。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

短編:虚構と現実が入り交じるようです -N- @-N-

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

同じコレクションの次の小説