旅は人と人の仲を繋げる魔法がかかっている。

柏陽シャル

第1話 私は旅に出ます!

 メイドがカーテンを開けると、私の一日が始まる。ベッドの横にある大きな窓から陽射しが差し込んでくる、眩しいと思いながらも体を起こしベッドから降りて椅子に座ると目の前には鏡があり、そこには黄色の瞳に白い髪の毛、グラデーションの黄色のメッシュがと獣耳のついた少女が映し出されていた。それが私、ユーリだ。後ろでは私の髪の毛を結んでくれているメイド、ハノメがいた。

「お嬢様は相変わらず美しいですね〜。」

「あはは、ありがとうハノメ。」

ハノメはいつも私を褒めてくれる、そんなハノメに私はいつも苦笑いしか出なかった。

クリスピア家に仕えている者達は従兄弟や信頼出来る人だけなため私にとっては気が楽で過ごしやすい場所だった。クリスピア家の長女だからこそ、舞踏会や大勢の人の前に立って王族に挨拶など、面倒くさい事ばかりさせられるのだ。私にはいつも思っている事がある私じゃなくても良いのではと、私の兄であるウィンドル騎士団の団長で第一王子の近衛騎士であるカイン兄様だ。カイン兄様の方が私よりクリスピア家を代表する人物であるはずなのに…とまぁ、そんなことを考えている間に私の着替えが終わっていた。

「お嬢様、公爵様達がメインホームでお待ちです。」

「分かった…ってあれ?私の朝食は!?」

いつの間にお父様達ご飯済ませてたんだ…、今日はレナさんが朝食担当なのに〜。

レナ・ブリュンヒルデ、クリスピア家と友好関係であるブリュンヒルデ侯爵のお嬢様だ、なぜお嬢様がご飯を作るのかって?さぁね、私にも分からない、ただロイ君に育ってほしいからとか何とか言ってた気がするけど詳しくは知らない。

「ユーリお嬢様が全然起きてこないからですよ、今何時だと思ってるんですか。」

「え?7時位?」

「10時ですよ。」

えっ、嘘だろ。ていうか何で?起こしてくれよ!

「起こしッ」

「ユーリお嬢様が昨晩、明日は自力で起きるから起こさないでッ!と申しましたので。」

私の言葉を遮るように食い気味で言うメイド長のソヨン、昨日の私、何言ってくれてんの。自力で起きれるわけ無いでしょ…うわぁ思いッきしやらかしたわぁ。

「では、メインホームに行きましょう。」

「うぅ、分かったわ。」

仕方ない、後でこっそり作ってもらおうレナさんは優しいから作ってくれる…くれるよな?

昨日の自分を恨みながらもソヨンと一緒に家族が待っているメインホームに向かう、寝坊した私の事どう思ってるかなぁ、不安だ。

長い螺旋階段を降りきるとそこには今来たのかという顔で見てくるお父様と苦笑い気味のお母様、それと眼鏡をかけている少年、ロイがいた。

「カイン兄様は?」

「さっき家から出たよ、確か朝の訓練するってさ、お姉様が早く起きたら会えたのに…無駄な希望を抱くからだよ。」

「五月蝿いわね、別に良いじゃない…別に。」

辛口を叩いてくるのは私の弟、ロイ。ロイは好奇心旺盛な少年で、最年少で政治に関わるという傍から見たら天才だが、実はお馬鹿な所がある可愛気のある子だ。

「まぁまぁ、別に良いじゃない。ユーリだって一人で起きてみたい事もあるでしょ、普段やりたい事がないといつも言ってるのに今回は始めてやりたい事を見つけたのよ?」

「お母様、やりたい事は幾らでもありますよ?でもダメって言うではありませんか。」

私の事を何だと思ってるんだ…。私の事をやりたい事が見つからない娘と認識しているのは私の母、ハル・クリスピア、お母様は金髪で普通の人間だ。王族の従姉妹である。

「そりゃそうだろ、公爵令嬢がギルドに入りたいとか、そんなの出来るわけがない。」

「何よ、夢を抱いてて悪い?」

「なっ!悪いって一言も言ってないだろ!」

私とロイが口喧嘩をしていると、口を開いた男性がいた。

「そこら辺にしておけ、ロイ少し落ち着くんだ、ユーリもな。例えお前がどれだけ魔法や剣術が優れていようと駄目なものは駄目だ。」

「……分かってますよ。」

私とロイの口喧嘩を止めたのは私の父、ノクタール・クリスピアだった。お父様は獣人で銀髪が特徴だ。宰相でここ、ノーフェ王国を支えてくれている。私は銀髪じゃないんだよなぁ、真っ白なんだよなぁ。

「それとユーリ、話があるんだがこのあといいか?」

「…分かりました、お父様の執務室でいいですか?」

「あぁ、それでいい。」 

お父様は険しい顔でそう言ってきた、明るかった雰囲気とは違い、少し暗い雰囲気になった、何か事件でも起きたのだろうか。重大な話である事には代わりはないが一体何の話なのだろう。



 皆と話を終えると私はお父様の執務室に向かっていた。一体何なのやら。

「失礼します。」

「あぁ。」

扉をノックして挨拶をする、すると一瞬で返事が返ってきた。扉を開け、部屋に入るとそこには腕を組んでいたお父様がいた。椅子に座り深刻そうな顔をして…。

「話とは何でしょうか。」

「あぁ、それはだな…イアが見つかったのだ。」

「ッ!それは、ホントですか?」

「実の娘に嘘をつくほど根性は無いよ。」

イア…それは、クリスピア家の次女で私の大切な妹、王族が引き起こした『魔獣暴走』という事件によって死亡したかと思われた子だ、にしても何故今なんだ、あの事件から約3年も経っているのだぞ。

「それで、イアは今何処に…」

「ここだ…。」

「えっ。」

お父様は机の上に乗っている綺麗な宝石を指差した。嘘…だろ、まさか、それがイアなのか?宝石の中にイアが?いや、あり得ない宝石の大きさは手のひらサイズ、その中にイアが居るとは到底思えない…てことはまさか…。

「イアは魔石になってしまったのですか…?」

「そうだ。」

深刻な顔を下に向け発言するお父様に私は小さくそうですかと答えることしか出来なかった。

魔石とは、モンスターを倒したときに落ちる心臓のような物だ、魔力源とも言える。モンスターは主に魔石を頼りに動いており、魔石を取り出したら動くことは無い。私達のような獣人はモンスターと呼ばれる事もある、魔力が人以上その理由は魔石が体内にあるからだ、死んでしまえば魔石が出てくる…という訳ではなく魔力の暴走や過剰摂取などにより出てくる事が殆どなのだ。

と、言う事はイアはあの事件により、魔力が暴走したかあの時の魔獣による魔力の過剰摂取かということになる。だが、魔石が出てくる事はあっても本人が魔石になる事は今まで無かった。どうすればいいのやら、魔力暴走の被害を出さないように自分を魔法の壁で固め宝石のようにする事があるが、それを瞬時にイアがしたとはあまり考えれなかった。

「イアを…助ける方法はあるのですか。」

「ある…が、あまりにも危険過ぎる下手したらイアを助けるが故に何人も犠牲になってしまう。」

犠牲…?家族よりも他の人か?お父様が考えている事は最もかもしれない、だけど家族を捨てる事が出来るほどの精神が私には無い。だから、私は言った

「お父様、その方法教えて下さいそして、それを私は実行します。例え止めたとしても私は行きます。」

「本気で言っているのか…?」

「はい。」

絶望の顔をしたお父様を見て、ごめんなさいという言葉しか出なかった。でも、それで挫けていてはイアを助けれない、そしてカノンも…もう、じっと待っているだけなのは嫌だ。自分で行動して見なければ何も始まらないから、そう考えた。

「…分かった。だが、必ず生きて帰ってこい絶対にな。」

「ッ!はい!」

お父様が了承したのはびっくりした、だが私は必ず返ってくる二人の妹と共に。

私は部屋を出て、準備を済ませようと思う。


「ユーリ、必ず無事に帰ってきてくれ、もう失いたくないんだ。大事な子を…。」

ノクタールはユーリが部屋からはなれた事を確認したら椅子から立ち上がり窓に頭をつけて一粒の涙を流しそう言った。



 そして、私はこのことを王族に伝えるために王城に行くこととなった。準備を済ませて、イアを魔法のかかった箱の中に入れて厳密に運ぶ、魔法は防御魔法、触ったら魔法が発動する棘魔法をかけてある、厳密なのはいいが…棘魔法が私に発動するのではと不安なんだが。イアのことを考えながら静かに景色を見ていると、大きなお城が目に入り馬車が止まった。

「お嬢様、王城に着きました。手を」

「ありがとう、それとここからは私一人で行くわ。」

私の護衛騎士ランドの手を取りながら言う。

「ですが…例え警備が厳重の王城であれど流石にそれは。」

「大丈夫よ。私を何だと思っているのよ。」

「クリスピア家の長女であり、俺の従妹…。」

「そうだけど!違う!私が聞いてるのはどれだけ力を持ってるかとかそういうことよ!」

何故こんなに、天然なんだ。私の従兄であり、護衛騎士でもあるランドはクリスピア家にいる者の中では上位にはいる天然だ、一番の天然はお母様だけど…って何を考えてるのやら今は王との謁見の件に集中しないといけないのに。

「分かった。でも気をつけるんだぞ、何があるか分からないからな。」

「はいはい。」

心配性であり天然なランドと離れ馬車を見送った後私は一人で王城に入った、相変わらずでかいなぁ門

門番の人に挨拶をして通してもらうと、王のいる所に案内してもらった。何も行ってないのに察するの凄いなぁ、何も言わずに来たけど迷惑だったかもしれない…でも、クリスピア家は自由に入っていいっていう許可証貰ってるしいいよね?



 目の前にデカい扉、それを開けるとノーフェ王国の王様アグノルと第一王子のアルフレッドがいる、本当なら第二王子であるサラノルも居るはずなのだがどうやら何処ぞの男爵令嬢に一目惚れしたのか会いに行っているらしい。どこの恋愛小説だよ、そんなことは置いといて、私はゆっくり扉を開ける。

目の前に王様と第一王子、隣には私の兄カイン兄様と王様の近衛騎士であるミール様、魔法騎士団所属の親友、ルーナにフィンドル騎士団副団長である親友、シルビアがいた。他の騎士さん達も居るが、目の前だけ迫力が違う。

「突然来てしまって申し訳ありません、ですが急をもよ申す事でしたので。」

「なるほど、ではユーリ殿が持ってきた話とやらを聞かせてはくれんかね。」

「はい。」

急に来てしまったことを謝ると王様が話を聞こうとしてくる。それにすんなりと答える。

「私は妹を助けるために、国を出たいのです。」

「「「「「「は?」」」」」」

あの場にいた人全員が同じ声を上げる、皆さん仲いいですね。

「何を言っているのだ!ユーリ!ユーリも俺を置いていくのか?」

「カイン兄様、そう言うわけではありません、ただイアとカノンをこれ以上放っておくわけにはいかないからです。」

カイン兄様が唯一残ってる私を大切にしてくれているのは分かっているでも、もう待つだけはしたくない。今もイアは戦っている、それにカノンも絶対に生きてるんだ、反応がある限り。

「ユーリ君が国を越えるのは妹を助けるためなのだろう?あの二人は我々王族の不手際だ。許可しよう。」

「ありがとうございます!」

「父上、でしたらユーリ殿に護衛をつけたほうが良いのでは?強いのは従順承知ですが、流石に令嬢一人というのは……カイン、俺を睨むのは止めてくれないか。」

「いえ、睨んでませんよ?ただ例えあの子達を救うためだとしても許可を何なりとするのは遠慮があっただけです。」

「ははっ、いいではないか、それにカインお前だってあの二人を助けたいだろう?まぁ、お前はユーリ殿とは行けないがな。」

「何故ですか、妹の一大事ですよ。」

「私の護衛は誰がするんだい?」

「ユーリの護衛騎士ランドに任せます。」

カイン兄様…ランドが怒りますよ。でも、確かにカイン兄様が側にいたら心強いけど何もさせてくれなさそうだからあまり、来ないでほしいな。

そうか、私一人は確かに危険かもしれないな、外のことはある程度は知っているとは言えど料理が圧倒的に出来ないし、信頼できる人をそばに置いたほうがいいか。

「でしたら、僕が行きますよ。魔法騎士団から僕が抜けても大丈夫でしょう?」

「魔法騎士団から苦情が来そうだが…そうじゃな。ルーナが行くのなら問題は無いだろう。」

ルーナ・カルメア、私の親友だ。魔術師で最高ランクの紫の証を持っており、ウィンドル騎士団の中にある、シャレン魔法騎士団に勤めている。

魔術師の証は緑、青、赤、黄、紫の順で緑は魔術師最初に貰える証だ、紫は禁忌魔法や一定以上の魔力、全ての魔法耐性&属性を持っているものに渡される。ルーナはチートを使っているのかなと思わんばかりの強さだ。親友でもあるし、信頼できる。

「だが、魔法だけだとな…。」

「なら、私も行きます。カインさんが残るのであらば副団長である私がいっても良いのではないでしょうか。」

「ズルくないか!?シルビア貴様。」

「あら、レディに貴様呼びはユーリに嫌われますよ?」

「くっ、」

シルビアは相変わらず辛辣だなぁ。

シルビア・タシメン、私の親友。剣術が優れていて

剣の天才と呼ばれたカイン兄様に恐れを取らない強さを誇る令嬢だ。タシメン家は武力家門ではなく、普通の侯爵家でシルビアも侯爵令嬢として舞踏会に出ることがあるが、普段はウィンドル騎士団の副団長として働いている。私の親友ってやばい奴しか居ないのかな…。

「そうだな、二人はユーリ君の親友だ。安心して任せられるだろう。それは、そうとユーリ君。君はそのドレスで外に行くのかい?」

「いいえ、きちんと着替えますよ。」

王様の疑問に答え、私が指をパチッと鳴らした瞬間服が変わった。いつも着ている戦闘服だ。茶色の短パンに黒い服、そして黄の証をつけた黄色の私専用の魔術師のコート。私が服を変えた瞬間、他の宮廷魔術師がぎょっとした目で見てくる。

「それは、無属性魔法か?」

「はい、自力で生み出した魔法です。」

「流石だな、それにとても便利だ。」

「お褒めいただき光栄です。」

王様の質問によくぞ聞いてくれましたと言わんばかりに答えると王様はニッコリと笑った。



 王様達の許可も取ったし、早速国を出るんだけど、どうしようかな。お父様から聞いた方法では、精霊の泉?に行かなきゃ行けないんだっけか。

お父様が教えてくれたのは魔力暴走を止める泉がありそれに魔石を浸せば数日で戻るらしい。しかしそこに行くには精霊と手を組む必要もありそれに道中が険しいのだ。魔獣が沢山潜んでいる山奥にあるらしく危険らしい。

「それで、ユーリのお父様曰くその精霊の泉ってのに行くんでしょ?それならルーナは精霊と契約してるし何とかなるんじゃないの。」

「うーん、そうなんだけど。生憎行くのは良いけどそこの道中がむずいんだ、時には魔力が消えたり体が動かなくなったり。色んな事が起きるから分からないんだよね。」

ルーナがそう言うとシルビアはそっかぁと返事をした。魔力が無くなってしまえば精霊を呼べなくなる。だから迷子になり犠牲が出るのか。こりゃどうしよう、最先不安だな。

「ていうか!カノンちゃんはどうするの?手がかりが無いんじゃ。」

「そうだよ、カノンちゃんはどうするんだい?領地に戻る最中となると、結構遠いし範囲も広いよ。」

「そうなんだよね、でも一つだけ考えてることがあってさ。確証はないけど、そうなんじゃないかなって。」 

「それはなんだい?」

「奴隷商売…かな」

「「!?」」

「奴隷商売ってどうして、カノンちゃんはクリスピア家の第三女よ!?」

「だからだよ。領地でカノンを奴隷とすれば、人質として確保できて嫁にもできる。それによってクリスピア家との繋がりを持てるんだ。」

「…そんな。」

「一見考えてみると、クリスピア家との繋がりを持つにはそれしかないね。」

「まずは、カノンを助けに行く。クリスピア領地は厳重だし、カノンに似ている女の子を連れた状態で外に出るのは困難なはずだから、まずはクリスピア領地にある、奴隷商売地を探さないとね。」

私とルーナとシルビアは計画を立たててまずはカノンを助ける事にした。一先、国境近くの街に馬車を借りて移動してそこの宿で休んでから出発する事に、序に食料をその街で確保することにした。


 ここが、国境近くの街、ファンドか。王都から離れているにも関わらず凄い栄えてるな。これがノーフェ王国の特徴だけどさ。にしてもカイン兄様から貰った資金多くないか?六百万ノープっていや、確かに何があるか分からないけどさこれは…手に余るよ。

「相変わらず過保護だねぇ、六百万ノープってどこから取り出したのか。」

「それは、私が聞きたいよ。」

ルーナの発言にため息をつきながら答える。ほんとに何処から出したのこれ。クリスピア家から?いや、あり得ないあんな瞬時に用意出来るはずが…ない…よな…?もしかして前々からこうなることを見越して用意してたとか?それなら逆に怖いのだが。

まぁ、いいや、考えたら背筋が寒くなってきたし深く考えるのは辞めよう。

「にしても、ルーナはいいの?カルメアの当主でしょ?」

「僕は問題無いよ。執務があったとしても【テレポート】ですぐ行けるようにしてきたから。」

「流石だねぇ。策士だねぇ。」

ルーナのお父様とお母様は病気により亡くなってしまった、だからルーナが当主なのだ。亡くなったのはルーナが大人になってからのことだっただからそのまま当主として過ごしているらしい。ルーナの策略を煽るように褒めるシルビアにルーナは顔を火照らせながら怒った。ルーナが照れるなんて珍しい。

そんな光景を近くで眺めながら私は食材を買っていた。長持ちする物のほうが良いかな。パン…は硬くなるか…うーん、どうしようかな。料理とか、したことないし何もわかんないや。

「食材をそのまま買うのも良いけど、まずは料理器具とかを買ったほうが良いんじゃないかな。あとは調味料とか。」

「そうね、食材は現地調達すればいいし、調味料とか料理器具に関しては現地調達出来ないからここで買っときましょ。」

「そっか、あっあのさ私、料理出来ないんだけどいいかな?任せちゃって。」

「勿論!ていうか、ユーリに任せたら炭が出来上がるかもね。」

「そ、そそそんなことは無い!無いから…。」

いやでも、あるかも知れないと思いながらも否定する。相変わらずシルビアは人をおちょくるのが得意だな。シルビアがロイを見てたせいでロイの性格がシルビア似になってしまったから毎日大変だったんだよなぁ。

「ふふっ、料理は僕がやるよ。シルビアもそんなことは言ってるけど実際はそんな料理できないだろう?」

「うぐぅ、否定はしないけど、ユーリよりかは出来るわよ。」

「私を基準にしないでよ。」

また、料理音痴なのイジられた。シルビアに弱みを握られたら最後までいじくり回すからなぁ、弱みは見せないようにしないと…。


 買い物を終えると、後ろからある声が聞こえた。

「サラノル様!お待ち下さい!」

「リーン、行くぞ。久しぶりのデートなのだ。ゆっくりしようじゃないか!」

ほんまか、それ…ゆっくりって、滅茶苦茶走っとるやないか。ていうか第二王子が何をしてるねん。護衛は…いるーけど、遠いところから手に負えないという顔をして見守っていた。可哀想に。

ツッコミどころ満載の男女、第二王子のサラノルと男爵令嬢のジュビア・ルバグ。いつ見ても有名な悪役令嬢系の物語に出てくる王子と令嬢なんだよなぁ…悪役令嬢の子いないけどさと思っていたら右隣からの負のオーラを感じ取った私はそっと右隣を滅茶苦茶睨んでるシルビアがいた。左の方を見ると凄いにっこり笑顔のルーナ、怖いよ、私の両端の人たち怖いっ!なにこれ。

「第二王子が何そこらをぶらぶらしとんじゃ○すぞ。」

えぇ、ごもっともだけど最後の言葉だけは駄目だぞ。聞かれてたら下手したら死刑だぞ。怖い顔で睨むシルビアに怖気ながら、横からもぶつぶつ聞こえる方を向くと何か呪文のようなものを唱えてる笑顔のルーナ、ルーナの喋りが終わると第二王子はおまいっきしころんだ。魔法使ったなこれは。ルーナは静かにガッツポーズを取っていた。こら。

「いってぇ。誰だ?…ってお前はユーリじゃないか!」

「えっ?」

やっべ、バレた。バレたくなかったなぁ。そのまま静かに立ち去れば良かったか。

サラノルが私達に気づくと隣にいた、ジュビアもこちらを向いた。それに加えて、街の人達も、やめてくれぇ。

「お前達、こんなところで何をしてるんだ?」

「それは、こちらの台詞でもあります。第二王子であろうお方がこんな国境近くの街で何をしているのでしょうか?」

シルビアは必殺、令嬢の微笑みをしながらサラノルに答える。

「俺達はデートをしていただけだが?」

「それは、執務を放ってやることかな?僕には到底思えないのだけども。」

「あ?俺は第二王子だ!お前のような魔術師が口を聞くな!」

すっごい理不尽。頭悪すぎやしないか?この王子。

「はぁ、サラノル様、貴方と話すと面倒くさいのですぐに言いますが、私はルーナとシルビアと一緒に旅に出ます。貴方がデートだとか言ってる間に王様からの許可も貰いましたので、ですから、話しかけないで下さい。」

「はっ?」

私達はそのまま国境を越える門に向かって歩き出した。後ろからなんか聞こえるけどまぁいいだろう。あんだけ言えばいいんじゃないかな?両端の人達が何か言いたそうだけども。



 国境を越えて少し歩くと森があった。そこをくぐり抜ければクリスピア家の領地にたどり着く。

「案外遠いね。カインさんから貰ったお金で馬車を買えばよかったかも。」

「ほんとにそれ。何があるか分からないからなケチってしまったわね。」

「まぁまぁ、疲れるけど歩きのほうが安全だし、冒険感が出て良くない?」

「うーん、まぁユーリが良いなら別に。」

「そうね。」

私の発言によって馬車を買わなかったという後悔が少し薄れた所で森を進んでいく。道中でシルビアが猪などの野生動物を仕留める。お肉ばかりだな。贅沢は言えないけど。

少し日が落ちてきた所でファンドで買ったテントを建てて焚き火を作る。焚き火の上には美味しそうなスープとお肉があった。スープには野菜があり、近くにあった野菜を採ってきたらしい。スープとお肉を食べてみるとほっぺが落ちるぐらい美味しかった。シルビアはハマったのかルーナにおかわりを頼んでいた。

「ルーナ!おかわり!」

「シルビア…これで4回目だよ…そろそろやめたほうが。」

「腹が減っては狩りができぬ、だよ。」

「ご飯食ったら、作戦会議して寝るんじゃないの?」

シルビアのおかわり連呼に困ってるルーナはご飯をそんな食べていなかった、それもこれも、シルビアが食べるの速すぎてルーナが食べれないだけなんだけどね。


ご飯を食べ終わり作戦会議をする。作戦内容はカノンをどう探すか、もし本当に奴隷商売にいるのなら潜入の仕方を考えなければいけないのだ。

「まずは、領地いる人に事情聴取をしないと行けないね。詳しい情報は得られなくても手がかりはなんとかしても見つけなきゃ。」

「そうね、なら情報屋から奴隷商売の情報を買うのはどうかな。」

「確かにそれは良いアイデアかも!」

ルーナの発言にシルビアが提案をする。それなら相手に悟られずにカノンを救えるかも。でも、奴隷商売所に居なかったらカノンは何処にいるんだろうか

「情報を買うにしても、領地に行かなくちゃだね。カノンちゃんが無事の間に急ごう。」

「でも、急ぎ過ぎると危ないし慎重に行こう!」


 作戦会議は終わり、ユーリはテントで寝ている。外にはシルビアとルーナ、二人が話していた。

「ルーナ、何時になったらユーリに気持ち伝えるの?」

「えっ?あぁ、いや別にまだこのままでいいかな。」

「ふーん、ほんとかなぁ?」

私の親友、ルーナはユーリの事が好きだ。昔から仲がよく一緒に居たからこそ気付けたことだが、最近はルーナがユーリに過保護なのだ。それのせいか、ユーリはルーナのことを男として認識していない、まぁ見た目のせいもあるだろう、ルーナは昔は男らしくしていた、実力もあり、権力もあるそれのせいか色んな女の子がルーナに求婚をしていたのだ。ルーナはその求婚を全て断った、なぜなら殆どが地位しか見ていないから顔や権力、それだけで求婚されて嫌気を指していた。それによって、女の子を避けるために髪の毛を伸ばし女の子のように振舞っている。どうして、ルーナがユーリのことを好きなのかは知らないけど、ユーリのことだし、何かやらかしたのだろう。

私としては、親友がくっつくのは嬉しいことだ。ルーナもユーリと話しているときはとても楽しそうだし。

「シルビアは、僕がこんな見た目だから意識されていないのだと思うかい?」

「うーん、どうだろうね。ユーリだってルーナの昔の姿を知ってるしそう言う訳ではないと思うけど。ずっと一緒にいたしそれのせいかもね。」

「やっぱりかぁ。ユーリにとって僕はお兄さんポジションなのかなぁ。」

ルーナは頭を抱える。普段、顔色を変えない子が一人の子のせいでこんなにも悩んでる姿を見るととても面白く感じる。だからついからかいたくなる。

「意識してほしいなら、かっこいいところ見せたり、男らしい?ことや意識せざるを負えない事をすればいいんじゃない?」

「それが、思い付かないんだよ…ユーリが国を出るって言ったときに凄い焦ったんだ。この気持ちを伝えるためには今しかないんだって。」

「んで、結局普通に着いてきたってわけね。いやぁ、いつ聞いてもルーナの恋は面白いなぁ。初々しいねぇ。」

「その、ニヤケ顔止めてくれ。」

ジト目のルーナに怒られる。おっとついニヤけてしまった。

ひとまずは、ユーリをサポートしながら意識させる作戦を潜入作戦と同時進行で行うことになった。

ルーナの恋愛はまだ、実らないみたいだ。

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