転入してきたヤンデレ英国人が、海外では普通ですよ?と絶対に普通ではない方法で迫ってくる

神月

第1話 海外では普通ですよ?

 俺、望宮もちみや時人ときとには、現在進行形で悩みがある。

 それは…


「どうして恋人でもないのにいきなり抱きついてくるんだ!」


「え…?そんなの、?」


 こんな風に、白髪の美少女に迫られていることだ。

 その悩みが始まったのは、ほんの数日前。


「…右に行って、左に行って…また右…」


 英語で小さくこんなことを呟いている女の人を見つけた。

 透明感のある白い肌に、サラサラでロングの白髪、宝石を想起させる青色の瞳という、珍しい容姿の女の人がいて、キャリーバッグを持っていたことから海外から来た…おそらくは英国人だと思った俺は、声をかけてみる。


「あの、何か困ってますか?」


 俺は中学生レベルの英語ならなんとか話すことができるため、英語で対応しようとしたのだが…


「あ…!日本語で大丈夫です!私、話せます…!」


 透き通るような声で、本当に外国の方かと疑うほどに綺麗な日本語の発音で言われたため、俺も日本語で話すことにした。


「そ、そうですか、それで、何か困ってたりしますか?」


「はい…実は、駅の場所が知りたいんですけど、この地図じゃわからなくて…」


 その地図を覗いてみると、建物が入り組みすぎていてどこをどう進めばいいのかわからなくなってしまっても無理がない、といった感じだった。


「あはは、これじゃわかりませんね、俺でよかったら駅まで送って行きますよ」


「えっ!?本当ですかっ!?」


 白髪の少女は、嬉しそうに笑顔になり、俺の両手を握ってきた。


「え…え?」


 俺が突然両手を握られたことに困惑していると、彼女が一言。


?」


 そう言って、ニッコリと笑った彼女のことを、俺は駅まで案内した。

 これが俺と彼女の出会い。

 季節は春で、その彼女との出会いの次の日で俺は高校二年生になる始業式を迎え、最後に首席の人が難しそうな文章を述べてから始業式が終わると、新しいクラスで教科書を受け取ることになった。


「改めて、二年生への進級おめでとう、早速教科書を配る…と言いたいところだがその前に、この二年生になってからの転入生を紹介する、海外から来たこともあって色々と食い違うこともあるかもしれないが、水に流してやってくれー」


「はーい」


 スーツを着た担任の先生が転入生が居ることを発表し、他の生徒も声を合わせて頷いた。

 この担任の先生の名前は進馬しんば先生と言って、俺は去年も同じ担任の先生だった。

 真面目な時は真面目でそうでない時は話しやすい、良い先生だと思う。


「よし、じゃあ入っていいぞー」


 先生が声をかけると教室のドアが開かれて、入ってきた女子生徒は綺麗な姿勢で教壇の前に歩いた。


「あれ、あの人…」


 よく見ると、どこかで見たような顔だった。

 サラサラの白髪に青い瞳…


「じゃあ自己紹介を」


「はい、明星あけぼしアリスと言います、英国から来ました、よろしくお願いします」


 明星さんは皆に対して名乗ってから一度お辞儀をすると、黒板に自分の名前を書いた。


「…あ!」


 思い出した、どこかで見たどころか昨日駅まで道案内した人だ。

 学年が変わったりクラスが変わったりで頭がいっぱいですぐに思い出せなかったが、どう考えたって忘れることができないほどの優れた容姿をしている人だ。


「どうした望宮?」


「あっ…なんでもないです」


 周りから小さな笑い声が聞こえる。

 …学校生活をしていて恥ずかしいことの一つは、こういう時間だと思う。

 俺はもう絶対に喋らないという決意をしたが、今度は…


「…あ!あなたは!」


 明星さんが教壇前からわざわざ一番後ろの席の俺のところにまで駆け寄ってきた。


「昨日はありがとうございました!助かりました!」


「なんだ、望宮と明星は知り合いか、なら席も隣でいいか、ついでにまた後日学校の案内でもしてやってくれ」


「え…?ちょっと待────」


「じゃあこれから教科書を配るから、後ろの人に回してくれー」


 あの先生…真面目なフリして俺に面倒なことを押し付けたな。

 明星さんは先生に言われた通り俺の隣の席に座った。

 …座り方まで綺麗だ。


「すっごい偶然ですね!昨日も色々お礼をしようと思ったのに、望宮さんすぐどこかへ行ってしまったので困っていたんです」


「そんな、お礼なんて…」


「せっかくまた会えましたし!今度こそお礼させてください!私、望宮さんのこと大好きになっちゃいました!」


「…え?」


 好き、というワードに敏感なクラスの高校生たちは、一斉にこっちの方を見た…高校生でなくとも、こんなに大声で大好き、というワードが聞こえてくればこっちを見てもおかしくない。


「ちょっ、違うから、好きってそういう意味じゃないって!あ、明星さん、日本語間違ってないか?」


 俺は周りの人に弁明するためにも、明星さんのことを説得する。


「はい…?好きというのは、好意を伝える言葉ではないんですか?」


「そう…だけど!」


 日本語の厄介なところが出てしまった。

 何か言い伝え方は…そうだ。


「ほら、英語でもライクと、ラブは違うだろ?」


「なるほど…!」


 明星さんはすんなりとわかってくれたようだ。

 良い例えを思いついてよかった…


「じゃあ、ラブとライク、どっちの意味での大好きってさっき俺に言ったんだ?」


 これで明星さんが答えてくれれば、この異様に人目を集めている状況も収まるだろう…そう思ったが。


「ラブです!」


「…え?」


 日本語なら、海外に住んでいたのであれば間違えてしまっても仕方がないし、むしろ海外に居たという割には明星さんは日本語がとても上手だとは思う。

 だが…英語を間違える、それもラブとライクなんてとてもわかりやすい問題を間違えるなんていうことは絶対に無い。


「あ、明星さん!?ラブって…え?外でたまたま会っただけでなんでそんなことになってるんだ?冗談、とか?」


「道案内の時の気遣いとか、優しい顔とか声とか…なんか全部が来ちゃったんです!それに…たまたまた会った人を好きになるなんて、?」


 最初はまだ日本に慣れていないだけかと思っていたが…それだけで無いことは、この先彼女と長い間付き合っていく中で、わかることになる。

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