その33。「何で俺が賭けに巻き込まれることに……?」

「————ここが王立魔法学院……!」


 俺は御者で馬車を運転しながら、目の前に聳え立つ巨大な学校———乙女ゲー本編の舞台である王立魔法学院を見て思わず声を上げる。

 多分広さは東京ドームなんてどころでは無いと思う。


 俺は学院の案内に従って馬車を停車させると、馬車の扉を開ける。


「シンシア様、レオンハルト王子殿下、到着致しました」

「ご苦労様、セーヤ」

「…………」


 俺が2人に声を掛けるも、シンシア様は一言言って降り、王子は俺に目も合わせず無言で通り過ぎた。

 まぁ王族が基本こんな感じなのは既にラノベで把握済み。

 逆に悪役令嬢が御礼を言うのが怖いくらいだよ。

 

「ありがとうございます、セーヤ様。御者をしてもらって」

「いえ、全然大丈夫ですよ。逆に馬車の中に居てくださったナタリー様には感謝しかありません」


 仮に俺が中に居ようものなら、王子には敵意を向けられ、シンシア様の一挙一動にビクビクしていただろう。

 そんな地獄な空間にいるくらいなら、多少面倒でも御者を選ぶ。


「それではセーヤ様、私達も行きましょう」

「そうですね。置いて行かれてしまいそうですし」


 俺達は先々と進む2人を眺めて苦笑する。

 貴族には家臣を待つと言う感覚はないのだろうな。

 

 何て思っていたその時、突如2人が言い合いの様な事を始めた。

 その姿は遠目からでも確認できる。


「い、急いで合流しましょう!」

「は、はいっ!」


 俺達は大慌てで2人の仲裁のために追いかけた。








「———それで何故言い合いに?」


 俺はナタリー様が2人に追いつくと、何故か王子がシンシア様を糾弾していたので、ナタリー様の黒い笑みで止めてもらい、取り敢えず離れて話を聞くことにした。


 先程まで完璧に優等生を演じていたはずなのに、一体どうしたのだろうか?

 まぁシンシア様は特に何も言っておらず、一方的に王子がキレ散らかしていたので、何とか言い返すのは抑えていた様だが。

 

「……アイツがずっとバカして来たのよ。だから、そんなことないって言っただけ」


 シンシア様がぶすっと不機嫌そうに頬を膨らませて言う。


「シンシア様を、ですか?」


 もしそうなら、王子は馬鹿としか言いようがない。

 婚約者をバカにするのは、婚約を破談に意図的にしようと捉えられるからな。


 それに王子に生まれて、散々贅沢や平民を馬鹿にして生きて来たなら、それは許されない。

 政略結婚は王族としての義務と言っても過言では無い。

 ゲームの様に「好きな人と〜」とはならないのだ。

 まぁこの世界は乙女ゲー世界だからどうなのか分からないが。


「———違うわよ」

「…………はい?」


 俺は思わず自分の耳を疑う。


 シンシア様が自分のこと以外で「そんなことない」と否定するだと……!?

 天変地異が起こるのでは?


「一体何を言われたのですか?」


 俺がそう聞くと、シンシア様が「ん」と俺を指す。


「———貴方よ」

「え、俺?」

「うん。馬車でずっとセーヤを小馬鹿にしてたけど、ナタリーってメイドが居なくなった途端に、『セーヤとか言う執事を今すぐに解雇しろ。さもないと国家反逆罪として首を刎ねるぞ?』とか言いやがったのよ!! 流石に私も言い返すわよ!!」

「え、お、あ?」


 俺、何もしてないのに国家反逆罪で殺される所だったの?

 陛下の飲み友達なのに?


 俺が全く状況を呑み込まず、オロオロしていると、シンシア様が不満気な表情から一転、ドヤ顔で胸を張ると俺に自慢げに言った。


「だから私が『セーヤが入学試験の模擬戦で、レオンハルト様をボコボコにします。負ければセーヤを解雇、逆にセーヤが勝てば今後セーヤの立場に口を出さないでください』と言ってやったわ!」


 …………俺にデメリットはあってもメリットはないじゃんか。

 え、そんな俺の人生を左右する様な賭けを俺抜きで決めたの?


「…………恨むぞクソ女神……」


 俺は吐き出そうにも吐き出せない怒りを、転生させた女神にぶつけた。


 

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