2章 学園入学

その31。「9年経ってもシンシア様はシンシア様のままだった」

 ―――9年後。


 転生して15年が経ち、遂にクソ女神が言う『ストーリー開始』の時が来た。

 一応これからの流れは大体頭に入れてはいるが、何が起こるかわからないので、慎重に行動していこうと思う。


「セーヤ、早く行くわよ」

「少しお待ち下さい。急がなくても遅れることはありませんよ」


 9年が経ち、サラサラだった赤髪は幼かった顔立ちはシュッとしたクール系美女になり、体型も胸や尻も大きくったが腰はきゅっとくびれが出てきており、正しく女性の理想の体型へと変化したシンシア様が、馬車から顔を出して言う。

 その仕草だけで、見送りの兵士やメイドまでもが目を奪われていた。


 クソ女神がゲームの中でもトップレベルの美人と言っていたが、どうやらそれは誇張ではなかったらしく、シンシア様は数多の人を魅了してしまうほどに美しくなっている。

 巷では『王国の3大美女』の1人―――『冷炎の美令嬢』とか言う恥ずかしい2つ名を持っているらしい。

 何でも燃えるように真っ赤な髪と瞳を持っているが、誰に対しても冷たく接する事からそう呼ばれているんだとか。

 本人は物凄く嫌がっていたけど。

 

「そんなことは分かってるわよ。ただアイツのことだから、自分より早く来ていないと絶対に文句を言うわ」

「仮にも婚約者である王子殿下のことをアイツ呼ばわりするのはお控えください。心臓に悪いのは俺の方なんですから」

「……それはセーヤに迷惑が掛かるってこと?」

「まぁ、そうですね。しっかりとしてくだされば俺も楽ですよ」

「……ならちゃんと王子殿下って言うわ」


 此方を向かず、馬車の窓から町並みを眺めながらシンシア様が言う。

 9年前のあの襲撃事件があってから、性格は大して変わっていないシンシア様だが、随分と言うことを聞いてくれるようになった。

 これなら命を張った意味もあるってものだ。


 だが先程の発言からも分かるように、シンシア様はあまり王子殿下を好きではないようなのだ。

 クソ女神はシンシア様が王子殿下に惚れていたから主人公を虐めていたと言っていたはずだけど……これは一体どう言う事なのだろうか?

 あの女神、嘘ついたんじゃないだろうな。


「はぁ……わたくしはセーヤと2人だけで良いのに……」

「それはいけません。そもそも俺がシンシア様について行く事自体普通はありえないのですから」


 いくら執事と言えども異性には変わりないので、普通であれば令嬢はメイドを連れて行く。

 特に婚約者が居るともなれば尚の事だ。


「……ケチ」


 シンシア様は俺をギロッと一瞬睨むが、直ぐに再び窓の外へと視線を移した。

 やはりこの女の考えていることはよく分からない。







 


 馬車で揺られること1時間。

 俺達は王城に到着した。


 馬車の扉を開き、俺が先に出てエスコートする。


「ありがとうセーヤ」


 そう言って俺の手を取り降りるシンシア様は、完全に対外用の口調と雰囲気になっていた。

 今のシンシア様の被る完璧な令嬢の仮面はこの9年で磨きが掛かり、相当な観察眼を持っていなければ見破れないだろう。


「それでは参りましょう。陛下と王子殿下がお待ちです。よろしいですか?」

「はい」


 俺達は王城の執事長に連れられて、玉座の間に移動する。

 どうやら俺達は大分早く来たと思ったが、王子達の方が早かったらしい。

 これは後でシンシア様の愚痴に付き合わなければならないかもな。


「―――国王陛下、王子殿下。シンシア・フォン・シルフレア令嬢が御到着致しました」

「入れ」


 荘厳な声色の男の声が聞こえたかと思うと、執事長が大きな扉を押して開く。

 すると全面に美しい装飾の施された豪華絢爛な部屋が現れる。

 そしてその部屋の奥の玉座に王冠を被った国王陛下と、その横にThe王子と言った感じの見た目だけ・・・・・爽やかな好青年の王子殿下が立っていた。


「よく来たなシンシアよ」

「お久しぶりです。義父様」

「はっはっは! 相変わらずの美しさだな、シンシア」


 そう言って国王陛下は孫を見るような目をシンシア様に向け、嬉しそうな笑みを浮かべた。

 


———————————————————————

 新章開幕です。


 それと新作を投稿しました。

 是非見てくださると嬉しいです。


『最弱覚醒者は幾億の時を経て最強に至る〜【極致異能力】と規格外ステータスで現代無双〜』

https://kakuyomu.jp/works/16817330655798479652

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