その11。「このタイミングで襲われるってある?」

「それでは参りましょうか」


 セイドはそう言うと、御者席に乗り、器用に馬を操る。

 行きは別の人が御者をやっていたが、やはりシンシア様が乗っているからか、セイドが運転を始めてからは行きよりも大分揺れが楽になった。


 まぁそれでも前世の車とか電車とかよりは遥かに揺れるけど。

 初めの頃は気持ち悪くなるから乗らない様にしていたが、セイドが「執事が馬車に乗れないなど言語道断」とか言って慣れるまで乗せられたんだよな。


 チラッとシンシア様を見てみると、全く酔っている様な様子はなく、先程からずっと俺の膝に小さく丸まっているフレイヤを注視している。

 心なしか目が輝いている様に見えるのは俺だけだろうか。


「……触ってみますか……?」

「っ! ……ま、まぁセーヤが触れと言うなら触ってみてもいいわよ!」


 めんどくせぇこのガキ……触りたいなら触らせろとか言えよ……。

 

 俺は心の中でそんなことを思いながらも、どうせ俺から言わないと触らなそうなので、諦めてシンシア様の言う通りにする。


「…………触って下さい」

「ま、まぁセーヤが触って欲しいのなら触ってあげないこともないわ! え、えっと……ゆっくり……きゃっ!」


 シンシア様が珍しく緊張した趣でそっと触ろうとしたが、フレイヤの尻尾がペシッとシンシア様の手を叩く。

 しかしこの程度では諦めきれないのか、仕切り直して再び挑戦するシンシア様だったが……


「…………ぐすっ……全然触れない……ぐずっ……」


 1度と触れなかったため、思いっ切り目に涙を溜めて頬を膨らませている。

 どうやら天下の悪役令嬢も、動物には弱いらしい。

 だがこのままだと俺へのとばっちりが来そうな予感がしたので、若干わたわたしながら言い訳を述べる。


「あ、す、すみませんシンシア様! こいつはあまり人馴れしてなくて……俺以外の者は触れないのですよ。シンシア様ならいけるかもと思ったのですが、どうやら少し早かった様です」


 俺が苦し紛れに言うと、ぐすっ……と泣いていたシンシア様がゆっくりと顔を上げた。


「……いつになったら触れる……?」

「え? え、えっとそれは……」


 俺は心の中でフレイヤに話しかける。


『フレイヤ! どうしてシンシア様の手を叩くんだ?』

『妾の体に触れていいのは主と妾より強い者のみだ。これでも王と呼ばれた身……雑魚に触らせるなど絶対に無い』


 ……これは無理だな。

 そもそもこいつより強い奴なんて人間にはいないんじゃ無いか?

 

 俺がこのカオスな状況に頭を悩ませていると、タイミングがいいのか悪いのか分からないが、突然馬車が急停止した。

 俺はすぐさまシンシア様を自身の体を盾にして衝撃から守る。


「シンシア様、大丈夫ですか? 今回ばかりはシンシア様のお体に触れたことは不問に来ていただけると幸いです」

「え? べ、別に触られるくらい何とも思わないけど……メイド達にお風呂でたくさん触られてるし……」


 そう言えば貴女子供でしたね。

 公爵家にもなると、風呂にまでメイドが付くのか……正直嫌だな。

 風呂くらいのんびりと1人で寛ぎたいからな———何で言っている場合じゃなかった!


 俺はシンシア様を守る様にフレイヤに言い付けると、外に出て様子を確認する。


「セイド! 何があったの?」

「セーヤ様!? セーヤ様も中に入っていて下さい!」

「僕の事はいいから! それで……ああ……なるほどね……」


 俺がもう一度セイドに聞こうとすると同時に10人くらいの山賊の様な男達が現れた。

 

「此処にシンシア・フォン・シルフレアが乗っているの聞いたんだが……渡してもらおうか」


 その山賊達のリーダーみたいな奴がバトルアックスを肩に担いで言い放った。

 周りの山賊達は器用に馬車を取り囲んで退路を塞いでいる。


「……セーヤ様、この場は私1人で何とかなりますので、馬車にお戻り下さい」

「でも誰からシンシア様がこの馬車に乗っているのか訊かないと!」

「それよりもセーヤ様とシンシア様の命が先決です。当主様にお伝えして後から調べてもらいましょう」


 セイドが懐から短剣を取り出すと、冷徹な瞳を山賊達に向けながらそう宣うが……少し待って欲しい。


「セイド———アイツらは僕にやらせてよ」

「はい!?」


 俺がセイドの前に出てそう言うと、セイドが素っ頓狂な声を上げる。

 

「セーヤ様、これは訓練では無いのです。相手はセーヤ様を殺しに来ます。それにセーヤ様はレベル上げをしたばかりです。此処は大人しく馬車で待っていて下さい!」

「まぁ少し見ててよ」


 俺はセイドの正論を軽く流して斧を担いだ男の前で立ち止まる。

 男は小さな俺が目の前に来ると、愉悦に浸った笑みを浮かべた。


「どうしたんだい坊や。死にに来たのか? それとも英雄ヒーロー願望でもあるのか?」


 男が馬鹿にした様にそう言うと、周りの山賊達も声をあげて笑う。

 うん、テンプレすぎて逆に面白くなってきた。


 俺は小さく笑みを浮かべると、


「ううん違うよ」

「……何?」



「君達を殺しに来たのさ———【炎竜の牙】」


 ガァアアアアアア———グシャッッ!!

 

 その瞬間に炎のドラゴンの頭が口を大きく開けて男を噛み殺した。


—————————————————————————

 セーヤ、サイコパス疑惑浮上。

 恐怖心やら何やらは何処かに置いてきたか?


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