その10。「唐突な再登場、シンシア様!!」

 あまりのステータス差に絶望した次の日。


「———こうなったらレベル上げだ!」

「セーヤ様、今日はシンシア様が来られるので家に絶対居て下さい」

「え?」


 俺が意気揚々とレベル上げに勤しもうと意気込んでいた時にセイドから唐突に言われた。

 前回シンシア様が来たのが2週間前。

 明らかに来るのが早い気がする。


「何でこんなに早く来るの?」

「ゾーラ様から聞きました所によると、『今頃寂しくなっているセーヤの為に私が会いに行ってあげるわ!』だそうです」


 何が今頃寂しくなっている———だ。

 何ならシンシア様に会うことよりもレベル上げの方が重要なんですけど!?

 だって女神から死にたくなければ体を鍛えろって言われたもん。

 きっとステータスを上げまくれってことのはずだもん。


「……因みにセーヤ様に拒否権は無いそうです」

「悲しき階級の差。僕、大人になったら家出ようかなぁ」

「そんなことをすればゾーラ様とアリア様が大泣きするのでやめて下さい」


 俺が冗談半分で言ってみた所、セイドに結構ガチな顔で引き止められた。

 家の両親が大泣きする所を全く想像できないが、セイドの顔を見れば嘘では無いと思う。


 結局俺は悪役令嬢から逃れられないと言うことか……。

 仮病でも使おうかな……まぁどうせそれも止められるんだろうけど。


 俺は一度大きなため息を吐くと、どんよりとした雰囲気を纏って自室に戻る。


「何処に行かれるのですか?」

「……部屋で正装に着替えてくる……」


 次からは最低でも1ヶ月に1度にしてもらおうと思った。









「今回は僕達が馬車を出すんだね」


 俺は自分の家の馬車に乗りながらセイドに言う。

 前回は向こうが馬車で来たから今回もそうだと思ったけど、どうやら違うらしい。


「はい。私達でシルフレア家に行き、シルフレア公爵令嬢様にはこの馬車に乗ってもらいます」

「護衛とかは?」

「私達です」

「誰か雇わないの!?」

「お任せ下さい。私はこれでもレベル85なので。大抵の敵は撃退できます」  


 セイド、俺の両親よりレベル高くて草。

 レベル85って……ほぼ人間最強並じゃん。


『レベルは奴の方が高いが、ステータスは主人の方が高いぞ?』

「!? フレイヤ……いきなり声をあげないでよ……でも俺の方がステータス高いのってほんと?」

『勿論。妾ほどでは無いが、主は人間の中でずば抜けてステータス上昇値は高いはずであるぞ?』


 へー……まぁ人間の上限値が99らしいから、俺が人間で1番なのは当たり前か。

 流石女神に直接貰ったチート能力だな。

 まぁ普通の精神だったら廃人になりそうなスキルだけど。


「……セイド、シンシア様って公爵家でどんな立場なの?」


 正直公爵令嬢ともあろう者の護衛が、老人1人と子供1人と言うのは常識的にあり得ない。

 俺は将来護衛側なので、余計な人は連れて行かないけど、公爵令嬢は将来の正妃候補だぞ?

 まぁ婚約破棄されるけど、そうは言っても現時点では失いたく無いはず……。


 女神が言うには公爵家の当主はシンシア様を駒としか思っていないらしく、次期当主の長男だけを溺愛しているらしい。

 典型的な男尊女卑主義な人なんだって。


 俺がそうなことを考えていると、遂に公爵家の邸宅へと到着した。

 しかし俺はあまりの凄まじさに呆然としていた。


 俺の家がおもちゃの家に錯覚してしまうほどデカくて豪華絢爛としていたのだ。

 正直没落するからって公爵家を舐めていた。


「凄いね……セイド」

「そうですね。あ、もう既にシンシア様がお待ちになられておりますよ」


 セイドの視線を辿ってみると、確かにシンシア様が居た。

 何やら前回よりもいい意味でキラキラしていない。

 動きやすそうと言った感じの服だ。

  

 それに加えて何故かキャリーバックみたいなものを持っている。

 何のために持っているのだろうか? 


 俺のこの疑問はすぐに解明することとなる。


「———お久しぶりですゾーラ様」

「久しぶりセイド。今日はシンシア様を頼むぞ。私の家に泊まるらしいからな」

「んんんっっ!? 泊まる!?」


 俺が思わず大声を出すと、シンシア様がドヤ顔で胸を張る。


「そうよっ! 貴方の為に泊まってあげるの! 感謝しなさい!」


 …………恨むぞ女神……!


 俺はこんな家に転生させた女神を再び心の底から恨んだ。


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