第43話 聖なる日の祈り⑩


 多数派ゲームで部屋の中のボルテージが上がったところで、本日のメインイベントであるプレゼント交換会が開催されることになった。


 それぞれが用意してきたプレゼントを一箇所に集め、一つひとつに番号札を貼り付けていく。


 あとは一人ずつくじを引いていき、その番号札と同じプレゼントを受け取るという順序だ。


「志摩くんのは何番?」


「よく見えないけど、真ん中の辺りにあるからそれくらいの番号なんじゃないかな」


「あの緑色の袋?」


「いや、その二つ隣のやつ」


「なるほど。ちなみにわたしのは三番の茶色のやつだよ」


「……そうすか」


 三十あるプレゼントの中から日向坂さんのものを受け取る確率は低く、もはや最初から諦めている。


 俺がこのプレゼント交換で気にしている点は二つだ。

 一つはもらうプレゼントが実用的であるかどうか。よくわからないものだとリアクションに困る。


 もう一つは俺の選んだプレゼントが批判されないかどうかだ。可もなく不可もない無難なものを選んだつもりなのだけれど、果たしてどうなのか。


『それじゃあ一人ずつくじ引いてってー』


 先程行われた多数派ゲームの点数が高い順にくじを引いていくらしく、俺と日向坂さんはわりと前の方でくじを引くことになった。


 俺たちの順番が回ってきた時点では俺のものも日向坂さんのものも残っていた。


「どぞー」


 ギャル子さんが持っているくじを低く。三つ折りにされた紙を手にして列からはけた俺は邪魔にならない場所で紙を開く。


「何番だった?」


 日向坂さんが俺の紙を覗き見てきたので咄嗟に隠してしまう。別にやましいことなんて一つもないのに。


「なんで隠すの?」


「いや、なんとなく」


「怪しい」


「プレゼント交換の番号を決めるくじ引きで怪しいことなんてないでしょ」


 咄嗟に隠しただけで別に見られて困るものでもないので、俺は開いた紙を改めて日向坂さんに見せた。


「三番じゃないね」


「そうだね」


 俺の紙に書かれていた番号は『8』だった。並べられたプレゼントを見てみたけど、もちろんなにも分からない。


 程なくして全員がくじを引き終わる。


『それじゃあ一番を引いた人は前に出てきてー』


 と、順番にプレゼントの受け渡しが行われる。

 その際に一番のプレゼントは誰が選んだものなのかが開示される。そこが伏せられていれば最悪マイナス意見を持たれても問題なかったのだが。


『じゃあ次は三番の人ー』


 日向坂さんのプレゼントの番号が呼ばれる。


 財津じゃなければ誰でもいいな。

 なんてことを考えているとフラグになるのでやめておこう。


「僕です」


 立ち上がったのはマッシュヘアの男。整った顔立ちはどこか幼さの残った雰囲気があり、イケメンではあるんだけど可愛いとか言われそうな容姿。

 背はそれなりにあるが、体格は筋肉質とは言えないひ弱さが伺える。


 ただ、おしゃれだ。


 俺のようにとりあえず白シャツと黒ジーンズで無難な感じに仕上げました、というよりはおしゃれの感性をしっかりと表現した感じ。


 カラフルでダボッとしたシャツに対し、パンツはキュッと絞ったもの。

 あれがイケてるとは思わないけど、世間的にはあれがおしゃれなんだろうなと思わされる。


『三番のプレゼントは誰のですかー?』


 ギャル子さんに言われて、日向坂さんが手を挙げる。プレゼントを受け取ったマッシュくんが日向坂さんのところまで行く。


「日向坂のプレゼントがもらえるとは光栄だね」


 イケメンスマイルに一部の女子はキャーキャーと騒ぐ。女子ってのはイケメン好きだなあ。


 まあ、男子ってのは美少女が好きなわけだが。


「そう? そう言われると嬉しいなー」


 マッシュくんの言葉に対して、日向坂さんが笑顔で応じる。


 ……。


 ただの友達同士のやり取りでしかないのに、当たり前のようにこれまでも行ってきたやり取りだというのは分かっているのに、なんとなく胸の辺りがざわついた。


 俺はその光景を見ていられず、視線を逸らすようにその場から移動した。


 自分でも、どうしてこんなことをしているのか分からなかった。


『次は八番の人ー』


 言われて、俺はプレゼントを受け取りに行く。

 茶色の紙袋を渡され、ギャル子さんが八番を用意した人物を尋ねる。


「オレだ」


 神様というのはなるほど、中々にイタズラ好きらしい。

 この数の中からピンポイントに日向坂さんのプレゼントを引き当てるようなことはさせてくれない。


 と、いうのに。


『おー、翔真の選んだの引くとは羨ましいネ』


 財津翔真のものをピンポイントに引かせてくるようなことはしてくるのだ。


 俺も、もちろん財津もこの展開を最も望んでいないのだけれど。


「……どうも」


「……大事に使ってくれよな」


 引きつった笑顔を浮かべる財津。さすがにクラスメイトの前で俺に悪態をついてくるようなことはしないらしい。


 中身を確認してみると、アロマキャンドルと入浴剤が入っていた。よく分からないが、これはどちらかというと女受けを狙ったチョイスなのではなかろうか。


 女受けがいいのかはともかく。


 正直言ってどちらも使う機会がなさそうなので誰かに渡したほうがこいつらもきっと活躍すると思う。


 が。


 日向坂さんに渡すのは癪だし、そうなると秋名くらいしか渡せる人がいない。


 あ、いや妹がいるわ。


 女子の手に渡った際に評価をしっかり上げたかったはずだから、ちゃんとしたものなはずだ。


 そんなことを考えていると、ついに俺の用意したプレゼントの順番が回ってきた。


『じゃあ次は、十七番の人ー』


 果たして、一体誰がッ!?

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