第31話 お買い物は誰とする⑦


 お腹を満たした俺たちはさっそく本日の目的を果たすべく適当にお店を回り始めた。


 二つほど視界に入ったお店に入ったあと、日向坂さんの提案で次のお店に向かう。


 こういうとき便利なんだよ、と言われてやってきたのはヴィレッジヴァンガード。


 あまり利用したことはないけど、本当に数回程度だけ中を徘徊したことはある。


 何屋さんなのかと言われたら説明が難しいし、雑貨屋と括るにはそれ以外のものも置いている。


 だからこそ、プレゼントを買うという目的の場合はわりと力になってくれそうだ。


「天井が高いな」


「そう?」


 なんとなくそんな気がしただけだし、だからなんなんだという話だけど、呟いた俺の言葉に日向坂さんは首を傾げた。


「志摩くんはここ来る?」


「あんまり。正直、暇つぶし以外で利用したことはない。日向坂さんは?」


「わたしもそんな感じかな」


 そうなのか、と少し意外な返答に俺は驚く。

 いや、別にめちゃくちゃ利用してそうってわけでもないんだけど、ここへ向かう足取りが初めて感なかったのだ。


「駄菓子の詰め合わせか」


 入ってすぐのところにあったものを見て、俺は感心しながら言葉を漏らす。


 高校生にもなるとあまり駄菓子を買うことはない。興味がなくなったというよりは機会がなくなった。

 あれば食べるし、食べると美味しいけど手にする機会は明らかに減った。


 しかしこうして目の前にすると、子供の頃に食べた懐かしい記憶が蘇ってくる。


「あー、なつかしいよね。子供の頃はよく食べてたかも」


「日向坂さんも食べてたの?」


「え、なに、意外?」


「まあ。なんか駄菓子って男子のイメージ強くて」


「女子も食べるよ。ななも駄菓子好きだよ?」


「まじか」


 今度会うとき買っておいてあげようかな。

 いや待て待て、それは田舎のじいちゃんばあちゃんの思考だぞ。


「こういうのは悪くないんじゃないかな。値段もそれくらいだし」


「んー、どうだろ。結局これだけの量を一人で食べるのって結構大変なんだよね。友達と食べる機会があればいいけど……」


「ああ、俺みたいなぼっちだと食べきれないと」


「そこまでは言ってないよ!?」


「冗談だよ」


「冗談になってないような……」


 けど、そうか。

 そういう考え方はしていなかった。

 なんとなく懐かしさと一つ一つの大きさでペロッと食べ切れるような気がしていたけど、誰もがそうなわけではないもんな。


 俺がふむと悩んでいると、日向坂さんが「他のところも見てみよ」と次のエリアへと誘導してくれる。


 リュックやボディバッグといったカバンやいろんな曲を詰め合わせた権利とかいろいろ気になるCDが売られているエリアをスルーして奥に進む。


 奥には漫画や写真集といった本の類が置かれていた。

 絶対にナシではないのかもしれないけど、今回の目的の品には相応しくないように思えてここもスルー。


 次にやってきたのはパーティーグッズのエリアだ。


「こういうのは違うか」


「まあ、そだね。でも、こういうのならナシではないんじゃないかな」


 そう言って日向坂さんが手に取ったのはボードゲームコーナーに置かれていたものだ。

 トランプのような小さな箱に入っている、カードゲームだろうか。


「ボードゲームね」


「うん。大きいのだと値段が張るけど、こういう小さいのなら今回の相場くらいだよ」


「これもらってやる?」


「友達と集まったときとかにやるかもしれないよ?」


「俺みたいなぼっちだと機会なくない?」


「根に持ってる?」


「いや全然」


 ふざけて言ってみただけだ。

 一応、せっかくの日向坂さんの助言なのでボードゲームコーナーにあるものを見てみることに。


「ボードゲームって聞くと、オセロとかトランプとか、そういうのが思い浮かぶけどいろいろあるんだね」


「そうだね。大きいのだと人生ゲームとかが有名かな」


 一つを手に取り裏の説明欄を見てみる。よく考えられたルールだなと感心する。


「わたしもやったことはないんだけど、二人でできるものがあれば大勢でやるものもあるんだって梓が言ってたな」


「秋名はボードゲーム詳しいのか?」


「うん。詳しいかは分からないけど、友達とたまにするらしいよ」


 その姿を想像してみるとしっくりきた。テーブルを数人で囲んで盛り上がる秋名の姿は容易に想像できてしまう。


「勝敗を決めるやつもあれば、協力してゲームクリアを目指すものもあるんだな。見てると中々に興味深い」


「ね。今度、梓に頼んで一緒にやってみようよ」


「ああ。機会があればぜひ」


「それ来ないやつだ」


「ちゃんと行くよ。開かれたらね」


 こういうお誘いは鵜呑みにしないのがぼっちの定石である。期待して開催されないと寂しいし、かといってこっちから提案する度胸はないからな。


「絶対だよ?」


 言って、ここはこの辺でいいかと日向坂さんが次のエリアへと向かう。


 ぬいぐるみがずらりと並ぶコーナーを横切ったとき、日向坂さんがちらとそちらを見た。


「ぬいぐるみ?」


「あ、いや、別に興味あるとかじゃないんだけど」


 動物そのもののぬいぐるみがあればキャラクターのものもある。

 日向坂さんは言いながらもぬいぐるみから視線を逸らしきれていない。


「こういうの好きなの?」


「ち、ちがうよ。子供っぽいし、さすがにこの歳になってぬいぐるみはね。ななに笑われちゃう」


 あははー、と笑いながら早口に日向坂さんが言う。そして、興味を振り切るようにスタスタと歩いて行ってしまう。


「……」


 俺はぬいぐるみをちらと見て、そして置いていかれないように日向坂さんのあとを追った。

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