自由の森に隠したもの

猫又大統領

読み切り

 大きな王国の東の外れにある森。勇猛な王国の兵士たちも近づかない。それは俺とボスのような怪物が森にいるからだ。この森は怪物たちの暮らす森。俺たちの自由の森。

 森の入口は俺たちを警戒して兵士がよく巡回している。俺たちは外に出るつもりはないがご苦労なことだ。川魚や木の実ある豊富なこの森こそ人間から守らなければいけないと長老はもちろん、生まれたばかりの赤子まで思っているはずだ。

 

「待たせたな」

「ボス。今、あの兵士たちと何の話をしていたんですか? 兵士はいつも見ない顔の奴らですね」ボスに頼まれた袋の番をしながら会話を覗いてた。

「人を探して中央からきたんだとよ。短髪の女の子と大蛇。見つけたらお礼もあるってよ」

「なんですか、その組み合わせ。ここには来ないでしょ。俺たちがいるんですよ」

「そうだな」

「ところでボス、兵士と話す前に俺に預けた。この大きい袋の中身はなんですか?」

「よいしょ! 中身は女の子でした!」そういいながら短髪の女の子が袋から顔を出す。

「ぼ、ボス。人間? ボス、人間は食べちゃいけないって何度も聞いてますよ! 病気になる!」

「失礼、病気にはなりません。それに食べないで!」そいうと女の子はベロを器用に出したり引っ込めたりを繰り返した。

「これは依頼されたものだ」

「ボス、誰からの依頼ですか。兵士が捜しているとか……まずい……」

「これは普段、入口を警備している騎士からの頼みだ」ボスが話している最中、女の子は木にとまる鳥から目を離さない。

「ボス、その見返りはなんですか? 何かデカいものもらえるんですか?」俺がそいうと、ボスは目に涙を浮かべた。

「俺の2番目の子供が腕をケガして……もうだいぶ経つのに治りが悪くてよ。薬が欲しくて……」

「え、聞いてませんよ……長老には相談したんですか?」

「ああ、伝えた。長老は草を燃やしてその煙を息子に嗅がせた。息子はせき込むだけった……」

 俺は長老のことは好きだ。でも長年の知識には尊敬しているが、自身たつぷりに効果がまったくないこともする。

「薬が必要だったんだ」ボスは涙を腕で拭く

 そこへ、拍手をしながら灰色のスーツの男が影からでてきた。

「聞いた。良い話だ。でもな、怪物はなあ! 森に生えてる草でもすり潰してぬっておけばいいだろ」

「何だ貴様! どうやってこの森に入れた!」ボスが鋭くにらめつけながら怒鳴る。

「自己紹介が遅れた。あいにく下等なものに挨拶をする習慣がなくて、すまない。私は研究所の所長だ。科学者だよ」男はネクタイを弄りながらいった。

「ボスの質問に答えろ! 俺たちの嗅覚は人より優れている。どうしてお前から匂いがしない」

「科学だよ。か、が、く。説明しても理解できないだろう。その子を渡してくれ」

「それは無理だ。か、が、く、しゃ、くん」ボスの言い返しに俺は痺れる。

「ハハ、国王が自然を大切にする方針からここは守られている。それもいつまでかな。あの玉座は砂上。時間の問題だ」

 枝を踏む音が鳴る。

「王に対して不敬な発言をするとは……」森の入口でよく見かける騎士が出てきた。

「そうか、お前があの子を研究所から脱出するのを手伝ったんだな?」

「そうだ」はっきりと騎士が答える。

「お前のせいで計画が狂った。どうしてくれるんだ?」

「自分のことより自分がどんなことをしたのか考えろ!」

「そこにいる躾のできそうにない獣も王様も全部あの子を躾をして片付けさせるさ、あ、どこだ」

 あの子は居なくなっていた。

 一瞬地面が揺れ、沢山の小鳥が鳴きながら飛び立つ。

「人間は面倒だな。悲しんだり、怒ったり、その気持ちを堪えたり……食ってしまえば終わりなのに」女の子姿は見えないが、声が聞こえる。すると、大木よりも太く、終わりの見えない蛇の体が姿を現した。

「ハハ、これは成功だ! 帰ろう! 私の研究結果!」科学者がそういい終わると彼のいる場所に口を開いた大蛇が飛び込む。土煙が空高くまで上がる。


 しばらくすると、そこに女の子がひとり。

「この森の先、あるんだよね。怪物たちだけの世界の入口が?」

「どうしてそれを?」ボスが目を見開いていう。

 女の子のいうとおりこの森の先は怪物の世界の入口がある。

「分かるんだ。この先にあるって、そこが私の居場所なんだ。そこで暮す」

「どうしてもいくのか?」騎士が尋ねる。

「うん。ありがとう」

「残っていいぞ。俺の子分にしてやるよ。最近、子分が欲しくなってな」俺は照れ隠しの気持ちをいう。

「ありがとう、嬉しいけど……木の実や川魚で満足できなから……きっと、お腹を空かせてあなたたちを……」

「いってらっしゃい!」俺は笑顔で手を振り送り出す。

「すまない。道中にある木の実や川魚は好きに食えよ」ボスはそういいなが足が震えている。

「いつかまた、友として出会えたら」騎士はそういいながらも剣に手を置いている。

 彼女が森の奥に消える。巨大なものが森を擦りながら進む音が地面から伝わる。それも徐々に遠のき、消えた。

 

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自由の森に隠したもの 猫又大統領 @arigatou

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