第6話おまけ②「髪型」







有無相生

おまけ②「髪型」




 おまけ②【髪型】


























 帝斗は、髪の毛を短くした。


 女性の麗翔よりも長く、漆黒に染まっていた綺麗な髪だったが、それを躊躇なく切った。


 もともと、長くしていたのは、帝斗の趣味とかそういうわけではない。


 帝斗の昔のことが関係していて、長い方が慣れているというところだろうか。


 鳳如を始め、琉峯、麗翔、煙桜、そして帝斗の部下たちだって、帝斗の髪の毛は長い方が見慣れているのだが、まあ、短いのが似合わないわけでもない。


 ただ、今までの帝斗とは違う感じがしてしまうらしく。


 「帝斗、髪の毛伸ばすの?」


 「あ?もういいよ、面倒臭ぇし」


 「なんで?また伸ばせばいいじゃない。長い方が似合ってるわよ」


 「麗翔、お前喧嘩売ってんの?なんで男が長い方が似合うなんて言われなきゃならねえんだよ。それで俺が喜ぶと思ってんのか?」


 「だって、ずーっと長かったじゃない。ねえ、琉峯?」


 「・・・どちらでも」


 「だよな琉峯」


 なぜ麗翔が長くしろと言ってくるのか分からない帝斗は、鳳如に書き直すようにと言われた報告書と睨めっこしていた。


 琉峯はその隣で帝斗の報告書の手伝いをしており、麗翔は邪魔をしている。


 煙桜はというと、鳳如となにやら大事な話をしているらしく、今この場にはいない。


 「長髪っていうのが帝斗のチャームポイントだったのにね。短髪になったらなんか・・、なんていうか・・・」


 「俺は髪だけの男か」


 「短い方が洗うのには楽ですよね」


 「そうなんだよ。今までは結構時間もかかってたんだけどよ、短ぇとあっさりと終わるもんだな。しかも洗い終わってからも、湯船につかねえようにまとめなきゃならなかったんだけど、その手間もねぇし。いやー、楽だわ楽」


 「いっそハゲさせれば?」


 「麗翔てめぇ、女でもいつかブン殴ってやつぞ」


 「そうですよ、麗翔。いつかハゲるんですから」


 「琉峯、お前大人しい顔して一番失礼なこと言ってるからな」


 そんな会話をしていると、煙桜が煙草を吸いながら部屋に入ってきて、その後ろからは鳳如も来た。


 こうして5人揃う事は珍しくはないが、鳳如は帝斗の髪の毛を見るなり、楽しそうに口元をおさえてケラケラ笑った。


 こういう奴等しかいないのかと、帝斗は唇を尖らせる。


 「あーあ。帝斗、本当に短くなったね」


 「馬鹿にしてんのか」


 「してないでしょ。似合う似合う」


 「棒読み止めろ」


 「でもせっかくなら、あの長い髪で三つ編みとかしてみたかったなー。ちょんまげとかさ。色々出来たよねー」


 「鳳如、お前俺で遊ぶことしか考えてねぇの?」


 「そんなことないよー?だってよく考えてみな?俺も琉峯も短いんだよ?煙桜なんてこれからハゲゆくんだよ?どうやって遊べると思うの?」


 みなさまお忘れかもしれないが、鳳如はこうしてへらへら話すこともある。


 状況によって、みなさまご存知の口調に変わるのだ。


 鳳如の言葉に対し、煙草を吸っている煙桜は窓際に向かいながら、呆れたようにため息を吐く。


 「てめぇも同じようなもんじゃねえか」


 「えー、俺と煙桜は同じなわけ?すっごくショックなんだけど。俺はまだアレンジきくでしょ?」


 「まあ、確かに鳳如は煙桜よりもアレンジきくだろうけどよ、その短さじゃちょっと縛るくらいじゃねえの?」


 「そう?まあ、面倒だから絶対にやりたくないけどね」


 「じゃあ言うな。言いだしっぺの癖に」


 「結局のところ、私が一番ってことね!やっぱり髪の毛で色々やるなら女子でしょ!髪染めたり、パーマかけたり、今じゃ色々アレンジ出来るみたいだし!」


 勝ち誇ったように、麗翔が髪をかきあげながら声を張る。


 だが、誰も反応しなかった。


 それどころか、話は帝斗の髪の切り方に変わっていて。


 「帝斗、それ自分で切ったの?」


 「おう」


 「やっぱりね。毛先バラバラだよ」


 「仕方ねぇだろ。誰に切ってもらえってんだよ。誰も器用な奴いねぇじゃねえか」


 「俺は琉峯に切ってもらってるぜ」


 「俺もー」


 「え、まじ?琉峯、なんで俺の髪は切ってくれねぇの?」


 「頼まれませんでしたので」


 「器用って言ったら琉峯でしょ。料理も出来る子だよ?繊細で器用さが必要なものは琉峯に任せれば大丈夫」


 「まじか」


 「まじだよ。ちなみにね、細かい職人作業は煙桜で、豪快で雑なことは帝斗」


 「おい。なんで俺は豪快で雑なんだよ。もっと良いところあるだろ」


 「あったっけ?」


 鳳如が、煙桜を見ながら問いかけると、煙桜も同じように首を傾げた。


 そこで、鳳如は少しだけ言い方を変えた。


 「じゃあね、元気でおおらかなことは帝斗?」


 「なんで最後?で終わるんだよ。それに元気でおおらかな仕事ってなんだよ。さっきから俺のこと馬鹿にしやがって」


 「馬鹿にしてないよ。帝斗の良いところだろ?褒めた心算なんだけどなぁ・・・。あ、それなら、帝斗の良いところをみんなで言っていこう」


 「いや、そんなのは求めてねぇよ」


 「じゃあ俺からねー」


 「聞いてねぇし」


 んーと、と考え始めると、鳳如は「元気」とついさっき言ったことをそのまま言って、煙桜の方を指差した。


 煙桜は自分を指さして怪訝そうな顔をしたが、顎に手をあてて少し考えたあと、「気紛れ」と言った。


 次に煙桜に指をさされた琉峯は、「練習好き」と言った。


 続いての麗翔が「きー?き、き、き・・・、昨日髪切った」と言うと、また鳳如に戻って次々に何かが始まった。


 「大した奴?」


 「つ、つまらねぇ冗談を言う」


 「う・・・歌、が苦手?」


 「てー、手が綺麗」


 「いつもにやけてる」


 「ルンバを踊って姿を見たことがない」


 「至って普通の人」


 「トイレは男子用」


 「美味いもんが好き」


 「今日日の若い奴らは年上を敬わねえ」


 「エンジ色が似合うかもしれない」


 「いー!?い、イルカが好きかも?」


 「モダンな雰囲気を醸し出してない」


 「色気がない」


 「い・・・色味がない」


 「いーーー、急がない」


 「いぶし銀じゃない」


 「いい男じゃない」


 「いとこじゃない」


 「意味がない」


 「意地が悪い」


 「い「おいいいいいい!!!!てめぇら何人の悪口をしりとり形式で言ってんだよ!!吃驚だよ!まさか最初は良いこと言ってるよとちょっと思った俺だけど、聞けば聞くほど悪口になってるっつの!!!てか何だ!?もはや琉峯の“練習好き”あたりから怪しいなとは思ってたけど、まさかだよ!!意味分かんねえしりとり続いたな!!」・・・帝斗、まだ終わってねぇぞ」


 「煙桜、『終わってねぇぞ』じゃねえから!お前がテーマならとっくに終わってるだろうからな!あまりに特徴なさすぎて終わってるやつだからな!!」


 「良い勝負だったねー。引き分けってとこかな」


 「引き分けじゃねぇよ。全員負けだ。ゲームオーバーだ」


 「楽しかったわね」


 「しりとりなんて久しぶりです」


 「琉峯、お前のやつ結構酷かったからな。俺、初めてお前に苛立ちそうになっちゃったよ」


 「次は煙桜でやってみる?」


 「止めろ」


 「楽しそうね!」


 「止めろ」


 「勝ったら何かあるんですか?」


 「止めろ」


 「そうだなー。勝ったら煙桜にマッサージしてもらえるってのはどう?」


 「嫌よ、私。セクハラされそう」


 「誰がするか」


 「俺は骨折られそう」


 「折ってやるよ」


 「俺は煙桜に稽古つけてほしいです」


 「だからそういう・・・あ?」


 「じゃあわかった。麗翔が勝ったらみんなで麗翔の料理を食べよう。罰ゲームとして」


「罰ゲームって言ったわね」


「琉峯が勝ったら帝斗にバリカン使おう」


 「何でだよ」


 「帝斗が勝ったら煙桜に禁煙させよう」


 「何でだよ」


 「煙桜が勝ったら琉峯にハイテンションになってもらおう」


 「何でですか」


 「じゃあ、鳳如が勝ったらどうなるの?」


 「俺?俺が勝ったら、みんな俺の前で跪いてね」


 「「「「何でだよ(ですか)(よ)」」」」


 そんなわけの分からないやりとりをしていた日から数日後のこと。


 「あれ?帝斗、髪伸びた?」


 「あ?ああ、伸びたかもな。ちょっと首の後ろが痒い」


 「なんか中途半端だね」


 「そうか?」


 「うん、そうだよ」


 「・・・なんだ?その手に持ってるものは」


 「知らない?バリカンだよ?」


 「とりあえず落ち着いてそのバリカンを床に置いてくれ、鳳如」


 「どうして?俺は落ち着いてるよ?」


 「なんか顔が怖いから。笑顔だけど怖いから」


 「帝斗、男は潔いのがモテるらしいよ」


 「モテなくて良いからそれは絶対嫌だ。俺は潔くないから。バリカンは何があっても嫌だ」


 「帝斗、どうして俺から離れるの?」


 「鳳如、どうして俺に近づいてくるんだ?」


 「帝斗のためだよ」


 「煙桜、通りかかったなら俺を助けてくれ」


 「・・・・・・断る」


 「煙桜!!!お願いだから俺を身捨ててくれるな!!あんな恐ろしい物を恐ろしい奴が持ってるんだぞ!!俺がこれからどういう目に遭うかくらい想像がつくだろ!!」


 じりじりと帝斗に近づいてくる鳳如に、背中を向けて逃げればすぐに捕まることは予想出来たため、正面を向いたまま、一歩一歩後ろに下がって行くしかない。


 そんな様子を煙桜は煙草を吸いながら悠悠と眺めていたが、ふと何かを思い付いたのか、鳳如にこんなことを提案してみた。


 「鳳如」


 「なに、煙桜」


 「折角なら、帝斗よりも長い髪のやつの方が、やりがいがあると思うぞ」


 「?」


 「今の帝斗をはげさせたところで、若い奴はすぐにまた伸びるだろうからな」


 「じゃあ何?煙桜がする?」


 「馬鹿言うな。それよりもっと、適人がいるじゃねえか」


 「「??」」








 「鳳如は何をしておるんじゃ」


 「よう分からんが、オロチの髪をバリカンで短くしようとしておるらしい」


 「なんでまた」


 「さてのう。あ、鳳如がオロチの首をホールドしおった」


 「オロチも災難じゃのう。わしらは骨を拾ってやることしか出来ぬが」


 「・・・主、助ける心算は無さそうじゃのう」


 「全くもって」


 「しかし、鳳如が個人的にオロチにそんなことをする理由はないはずじゃ。誰かのさしがねかのう?」


 「・・・・・・」


 「なあ煙桜」


 「んー?」


 「なんであんなこと言ったんだ?お前、オロチとは酒飲み友だちだろ?」


 「あ?誰があんな奴と友達なんだよ」


 「は?じゃあなんなわけ?」


 「あいつはな」


 「うん?」


 「あいつは、俺が大事にとっておいた、部屋に隠しておいた※ラ・モールを飲みやがったんだ。その代償としては安いもんだろ」


 ※ラ・モールとは、こっちの世界のお酒で、ウォッカベースの強いお酒である。ワインのように、少し寝かせるとより一層味わいが深まると言われている。


 「・・・ああ、そういうこと」


 オロチの未来図を想像しているのか、煙桜は心なしか微笑んでいるように見える。


 「・・・煙桜の酒には手を出さねぇ」


 帝斗は、心の中で誓った。


 それからオロチがどうなったのかは、鳳如だけが知っていること。



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