9話:アイスクリームと幼い笑顔

 学校登校が始まる4日前、梓は紗月に呼ばれてエオンに行くことになった。


「で、俺は何で呼ばれたわけよ?」


「いや、あんた。色々服持ってないでしょ。」


「………あっ。」


「それと自分用の下着も持ってないでしょ。」


「た、確かに。それで何なんだよ。」


「買い物よ。服と下着。」


梓は紗月に言われながらも否定したい気持ちがのどから出そうになったが言った後が怖かったのでいうのはやめ大人しく従い手を引っ張られるのだった。




「なぁなぁ。なんで俺は色々な服を試着してるんだ?」


「だって、梓女子のファッションどころか・・・そもそも服を着ることに対して無頓着でしょ?」


梓は何も言い返せずに言葉を詰まらせた。紗月はその対極的に満面の笑みを梓には見せずに微笑んでいた。


「それで梓はどんなのが着たいのとかある?」


「えっ?特にないけど。そうだなぁ~。」


ファッションという単語が抜け落ちている梓は必死に無い脳を使って考える。そこからは思考をめぐり巡らせて梓はファッションを絞り出していた。


「う、う~ん・・・アムラーがいいな~。」


「なんで、これを今どき元男子にこの言葉を聞かされたんだろうか。」


「えっ?何か悪かった?」


「うん、今その状態で田舎歩いてみ。確実に梓浮くよ。」


「えっ?マジで。」


「マジで。」


この二人の間に沈黙が訪れた後、紗月によるファッション講座をみっちり小1時間受けることになりましたとさ。




 そこから頬を痩せさせ少し疲れた表情をした梓が屍になるかならないかの状況でベンチに座り込んでいた。


「いや、ごめんなさい。流石に一方的過ぎたね。」


「おぉう。俺は元々男で分からな過ぎたっていうのも問題だったと思うからそれはそれで無頓着すぎたのもあるし………お互い様だよ。」


「///ちょっ・・・それは、反則。」


梓の突然の言葉に紗月は体をくねらせて顔を赤く染めていた。何なのか。


「とりあえず、服を見繕ってくれ。紗月。後で何かアイスとか驕るよ。」


「マジか。ちょっと行ってくるわ。」


「お、おう。ってもう行ったのか。」


梓は置いて行かれるように紗月は消え去っていった。そして数分後。


「買い終わったわ。それじゃあ梓。48アイスよろしくね。」


「早すぎな?まぁ、分かったけど。」


「私、塩キャラメルと、パチパチベリーがいいわ。」


「分かったよ。じゃあ、フードコートいくか。」


「うん!!」


紗月の笑顔を見た梓は顔を赤く染めて彼女の顔が見えない方向に首を捻らせた。


(くっそ、それは反則過ぎるだろ………)


梓は、すこしだけ耳に熱を帯びませた。




 買い物が終わって梓と紗月が少しだけはぐれた後、梓は部屋の中で悶々とエオンでの紗月の笑顔がフラッシュバックしてはベットの上でジタバタと騒ぎ立てた。


「あぁぁあぁぁぁ。」


(なんだよ。あの笑顔。久しぶりに見たわ・・・小学生以来か?)


彼女の眼の奥底にある灯りが燈ったのを見て梓は小さなころの彼女のエガをと重ね合わせては、自分の中にある心がどこか解けていくのを少しだけ感じていた。


「なんだ?この暖かさは??」


小さな火はどこか幼さもある。でもそこには必ず温かさがあり中心には紗月やかなめ。そして後2人の影が小さい少女として投影されていた。


 一方で梓の男としての心は少しづつ解離していくのも感じ始めている。


「うん?少し、怠い・・・な。」


梓の意識は唐突に途切れ死んだように睡眠を始めるのだった。

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