一心~残夢編~
maria159357
第一将【恬淡】
登場人物
斎御司(さいおんじ)
波幸(はゆき)
火鷹(ほだか)
眞戸部(まとべ)
鬧影(どうえい)
桃源刃奈(とうげんはな)
是芳充(このしろみちる)
咲々原竜胆(ささはらりんどう)
南谷理人(なやまさと)
伏見拓斗(ふしみたくと)
横瀬潤(よこせひろ)
将烈(しょうれつ)
第一将【恬淡】
毎日毎日の足跡がおのずから人生の答えを出す
きれいな足跡にはきれいな水がたまる
相田みつを
「あー、なんか楽しいことないかなー」
「火鷹、仕事は山のようにあるだろ」
「そうじゃなくてさ。こう・・・前は毎日がアドベンチャーみたいだったじゃん」
「毎日がアドベンチャーじゃダメなんだよ。平穏に過ごせないと、俺達みたいな仕事の量が増えるってことは、それだけ世間では」
「そうじゃなくてさ」
「だから何が」
「将さんがいたときってさ、もっとワイワイやってたよな」
「・・・・・・」
「将さんってば忙しいのに、ちょっかい出しても構ってくれるから俺超好き」
「忙しいとわかっててちょっかい出すな」
「あー、将さんに会いたい」
「・・・・・・」
「あ、波幸も思ったんだ」
「別に」
「じゃあ会いたくないんだ」
「会いたいけど」
「え、何その反応。初な恋人みたいで気持ち悪いからやめて」
「お前な・・・・・・」
「お前ら、その会話は俺がいないところでやってくれるか」
「「あ」」
波幸と火鷹がいるのは、以前まで将烈の仕事部屋ではあったが、色々あって将烈の代わりにここにいる鬧影の前だ。
半ば押し付けられるようにしてここにいる鬧影ではあるが、将烈がこなしてきた仕事を一気に引き継ぐのは大変だと、波幸と火鷹にも手伝ってもらっていた。
波幸はいいとして、問題は火鷹だ。
自由気ままなだけならまだしも、仕事に対する集中力が悉く欠け、こうしてほぼ毎日、将烈のことを話している。
「いや、俺事務作業が苦手なだけだから」
どうやら聞こえていたらしいが、まあいいとしよう。
「将さんいつ頃帰ってくる?」
「お前は子供か」
「だって長期休暇取ったって情報しかないじゃん。それも斎御司のおっさんが休暇ってことで処理してくれたんだろ?将さん別に休暇じゃなくてもいいって言ってたみたいだし」
「そりゃ有給残ってるんだから。なんだかんだ有給使ってまでは休まないから、将烈さん」
「俺も有給使おうかな」
「お前残ってないだろ」
「なんで!?俺だって頑張って理不尽に耐えながら生きているのに!!!」
「どれだけ理不尽に耐えて生きていようと、1週間に1回の頻度で有給使ってたらすぐ無くなるだろうな」
「え、有給って無限じゃないの」
「当たり前だ」
「酷くない?これだけ身体張って命張って仕事している人に対して有給少なくない?気分転換って必要じゃない?もはや一日仕事したら3日くらい休みたくない?」
「それじゃ仕事回らないだろ」
「沢山雇えば良くない?」
「お前なぁ・・・」
「なんで1人1日の労働時間が定められてるわけ?別に短くてもその間に仕事が終わればよくない?」
「俺に言うな」
「そもそもなんで仕事によって給料って違うの?国家資格があればいいの?」
「まあ、そりゃな」
「でもさ、人によって得意不得意あるわけじゃん?そこは考慮しないわけ?」
「え?」
火鷹は何かに取りつかれたように続ける。
「じゃあさ、医者がいるじゃん。ね?医者になるほど頭が良くてもボランティア活動を必死でやってる人がいるのにさ、奉仕精神がないくせに医者になる奴の方が金稼ぐってどう思う?」
「いや、奉仕精神がないくせに医者になる人ってあんまりいないんじゃ」
「いるね。ああいうのは大抵、安定とか給与で仕事選んでる奴らがいるね」
「まあ、でも免許もあって責任もってやってるならいいんじゃないのか」
「いいわけねぇだろ」
「え?」
「じゃあさ、誰でも出来る仕事だとか底辺の仕事だとか言われてる仕事があるだろ?な?」
「その、ね?とかな?の聞き方止めろ」
「誰でも出来るならお前やってみろよって思わね?でもやりたくねぇんだろ?だからやってくれてる人がいるわけだよ。それには感謝とかねぇわけ?」
「お前どうした」
「その人に合った仕事があって、どんな仕事だって無いと困るわけで、それなら給料均一にしろよって思わね?」
「そうすると、手を抜く人が出てくるだろ。同じ仕事内容なら手を抜いたほうが楽って考える人がいるから・・・」
「それは同じ仕事間での話だろ?そういう輩がいるから、評価っていうのがあんだろ」
「でも気に入らないとかで評価下げる人も出てくる」
「そういう奴をそもそもそんな役職にするな」
「俺が悪いの?」
「お腹空いた」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「お前ら、雑談は終わったか?」
会話が途切れたことで鬧影がそう言うと、波幸と火鷹は一気に鬧影を見る。
1人黙々と作業をしている鬧影を見て、波幸たちは与えられた仕事に戻る。
その時だろうか。
部屋をノックする音が聞こえてきたかと思うと、見たことのない男たちが入ってきた。
「どちら様です?」
波幸が前に出て質問をしたのだが、黒短髪の男に投げ飛ばされてしまった。
目の前で宙をまった波幸をぽかんと見ていた火鷹だったが、すぐさま反応して男に飛びかかろうとするが、今度は濃茶髪で口元にホクロのある男に腕を捻られてしまった。
「おい!お前らなんなんだよ!!」
「・・・ひとまず放していただけますか、その2人」
「おい」
男たちの後ろから出てきた顎鬚の男の号令に、波幸と火鷹を押さえていた男たちはあっさりと解放する。
腕や腰を摩りながら、波幸と火鷹は鬧影の近くまで下がっていく。
鬧影は椅子から動くことなく、男たちの様子を見ている。
顎鬚の男が鬧影の目の前まで来ると、まずは自己紹介、ということなのか、いきなり名乗りだした。
「突然のご無礼、お許しください。私は桃源刃奈と申します」
茶髪に顎鬚を携え、グレーのスーツを着ている190近い身長の男がそう名乗る。
すると、順番に男たちが名乗っていく。
先程波幸を投げ飛ばした目つきの悪い男は、咲々原竜胆といい、歳は波幸と同じくらいだろうか。
オレンジの明るい髪の色が艶やかにうねっており、目元の下にホクロがある色気のある、なぜか学ラン姿の男は是芳充。
火鷹を捕えた男は南谷理人といい、青いワイシャツを着ている。
艶々の黒髪の男は伏見拓斗、ふわふわな紫の短髪で目元に小さな傷のある男は横瀬潤というらしい。
なぜわざわざ自己紹介されたのかもわからないままだったが、桃源が笑みを崩さないまま告げる。
「この度、将烈は反逆者として追放、そのため長期休暇を停止いたしました」
「は?」
「つきましては、その休暇の申請をしました斎御司さんにも処分が下されます」
「一体何を・・・」
「同時に、将烈の部下であった波幸、火鷹、そして現在鼇頭を仕切っている鬧影、あなたには別の部署へ異動していただきます」
「待ってください」
「あなた方への処分は、追ってお知らせいたします」
「何言ってんだよお前ら!!」
鬧影に有無言わせぬよう言葉を続けていた桃源に、火鷹が突っかかる。
殴りかかるまではいかないまでも、今にも殴りそうな勢いで桃源を睨みつけているが、桃源は鼻で笑うだけ。
「これはすでに決定事項です」
そう冷たく言い放たれると、部屋を出ていかざるを得なくなった。
部屋から出て行った鬧影たちは、ひとまず斎御司のもとへ向かうことにした。
「斎御司さん!こんなのおかしいです!」
「上からの辞令もある。従うしかないな」
「斎御司さんを弱らせて力を奪おうって魂胆丸見えです!斎御司さんを1人にするくらいなら、俺も一緒に!!」
「眞戸部」
唇と拳にぎゅっと力を入れ、息を荒げている眞戸部。
斎御司は椅子から立ち上がると、眞戸部の方へゆっくり近づいていき、眞戸部の肩に手を置く。
「お前はまだ若い。道を見誤るんじゃない」
「・・・っ」
「失礼しま・・・あ、お取り込み中でしたか」
「いや、お前たちも来ると思っていたんだ」
斎御司の部屋にやってきた鬧影たちを招き入れると、斎御司はデスクに腰掛ける。
目頭を押さえながらため息をついていると、早速火鷹が斎御司に詰めよって行く。
「おい!どういうことなんだよ!!!将さんが反逆者ってなんだよ!!何がどうなってんだよ!!!!」
「火鷹」
荒々しい火鷹を波幸が斎御司から引きはがすと、斎御司は波幸の方に手を向け、制止を示す。
斎御司は落ちついた声色で説明をする。
「お前達のところにも桃源らが行っただろう」
「はい。それで、異動とのことでしたので」
「将さんは反逆者じゃねえ!!!」
「わかってる。もとより、そこは今問題じゃ無い」
「大問題だ!!!」
「火鷹、話が進まないから」
番犬のようにグルルル言っている火鷹の腕を引っ張ると、波幸は斎御司に話を進めるよう促す。
「波幸は炉冀のもとへ、火鷹は榮志のもとへ、眞戸部はたぬきと合流だ」
「俺は」
「鬧影は休暇だそうだ。正確に言えば監視つきのな」
「休暇ですか」
「将烈と同期だったから特に目をつけられたんだろうな。まあ、お前達が少しでも動きやすいように進言しておいて良かったよ」
「ありがとうございます」
波幸も火鷹も、どこの馬の骨ともわからない男の下につくくらいなら、とは思っていたが、聞き覚えのある名前に胸をなで下ろす。
きっと、波幸達が仕事を辞めるとか暴動に走らせないよう、斎御司が、以前関わったことのある炉冀たちに協力を依頼したのだろう。
炉冀たちは炉冀達で人手が足りないと言っていたため、ウィンウィンである。
「たぬきって?」
ふと、先程まで斎御司に飛びかかりそうになっていた火鷹が、馴染みのあるようでないその言葉に首を傾げる。
「俺も知りません」
火鷹の言葉に乗っかるようにして波幸がそう言うと、斎御司は説明した方がいいのかどうか悩んでいる様子だ。
鬧影は聞いたことがあるくらいだそうで、眞戸部に関しては、きっと接点があるから異動先になったのだろう。
「通称な」
そこまで話したところで、斎御司の部屋に男たちがやってきて、異動をするよう命じられた。
同時に、斎御司と会う事も禁じられる。
それから少しした頃だ。
将烈が反逆罪として指名手配されたのは。
「炉冀さん!これ!」
「波幸、落ち着け!」
「炉冀さんもおちついてください!」
「おおおお!そうだな!」
炉冀のもとで仕事をしていた波幸は、突如として連絡がきた【将烈の指名手配】という内容に愕然とする。
炉冀も炉冀でもちろん寝耳に水の状態で、新聞のようなその連絡書を、目をギンギンにして読んでいる。
「そもそも何が反逆罪となっているんですか?」
「んー、まあ、性格?」
「え」
「嘘嘘ごめん」
「今は冗談なんて聞きたくありません」
「だからごめんて」
波幸を少しでも和ませようとした炉冀だったが、見事に失敗に終わる。
波幸に軽く睨まれてしまった炉冀は、にへら、と困ったように笑うと、すぐに訂正をする。
「これ、っていうもんはないだろうけど、あいつこれまで相当刃向かってたからな。積もり積もってって感じだろうな」
「そんなことでですか!?将烈さんは間違ったことしていません!!」
「それをどう証明する?」
「証明?」
頬杖をつき、軽く小首を傾げたようにして波幸の方を見てくる炉冀に、波幸はただその目に目線を合わせる。
炉冀は器用に片手でその連絡書を折りたたんで机の上に置くと、頬杖していた手を下ろしてその手で自分の頭をワシワシしながら欠伸をする。
「この世界はな、どれだけ正しいことをしようが、それを証明できなきゃ意味が無い。確かにあいつは間違っちゃいないよ。俺だってわかってる。けどな、それが間違ってると世間に公表されてしまった以上、向こうが覆せないくらいの証拠ってものを用意しないと何も出来ないんだよ」
「・・・・・・」
「常に正しくなきゃいけない俺達が、正しくいることで否定される。それを許したくないから、あいつは何が何でも『正義』を証明してきた」
「将烈さんは、知っているんでしょうか」
「指名手配か?嫌でも知ることにはなるんだろうな。おまけにあいつ特有の『金目』の写真で載せてるから、すぐに見つかっちまいそうだけどな」
「いつものカラコンしてるんじゃ」
「そんなにストック持ってないだろ?最近は面倒臭ぇって言って、基本外に出なけりゃそのままだったし、外に出るにしても短時間ならそのままだし」
「そういえば、最近換えを持ち歩くことが少なくなっていました」
「つか何?お前そういうのなんでわざわざ持ち歩いてるわけ?執事なの?召使いなの?あいつの好きな銘柄とかも知ってるよな」
「将烈さんの部下として当然の立ち振る舞いをさせていただいております」
「当然なのか?頼まれたわけでもなく?」
「頼まれていません」
「うわ」
「うわってなんですか。ああ見えて、将烈さんおっちょこちょいなんです。ヘビースモーカーなのに煙草の替えも持ち歩かないし、ライター忘れる時もあるし、上着とかネクタイとかシャツとかも」
「わかったわかった、もういいよ。別にあいつの意外と可愛いところが聞きたいわけじゃないから」
「炉冀さんの部下はどなたなんですか?」
「俺の部下?沢山いただろ?」
「いましたけど、こう・・・」
「お前と火鷹みたいな感じのってことか?」
「そうです」
「いない」
「なんでですか」
「俺が好き勝手動き過ぎて誰も付いて来れないらしい」
「・・・・・・らしい?」
「俺はバギーに乗って色んなところ運転するのが好きなんだけど、そもそもバギー走らせるって山とかになるだろ?しかも泥がある滑りやすいところ走るのが好きでさ。泥はねするから着替え必要だし、乗ったあとバギー洗車しなきゃだしで、気付けば俺は1人で山へ行っていた」
「・・・・・・へ?仕事中ですよね?」
「プライベート」
「ああ・・・。私用で仕事をしていて、それでバギーが必要で」
「いや、ぶっちぎりプライベート」
「それは誰も付いて行きませんよ。プライベートですよね?じゃあ1人でいいじゃないですか」
「え、お前は将烈のプライベートが気にならないの?」
「気になりますけど、そこは立ち入れません」
「なんで」
「・・・・・・」
「将烈の部屋が汚いかもって?なんなら風呂場とかカビ生えてんじゃないかって?さらにはゴミ屋敷状態で・・・」
「そんなことありません、絶対」
「見たのか」
「見てませんけど、仕事を見ていればわかります」
「へー」
「どれだけ忙しくても、どれだけ大量の資料が送られてきても、将烈さんのデスクはいつも綺麗です。整えられています。それにこまめに清掃もしているので基本手出ししなくても大丈夫なほど綺麗さが保たれています」
「よかったな」
「他人事ですね」
「他人事だよ。他人事だろ?正直将烈の部屋が綺麗だろうが汚れてようが俺はどっちでもいいから。そういうので将烈のダチ止めようと思わないから」
「もちろんです!」
「お前のその将烈への尊敬の強さが恐ろしいよ。ドーナツ食べたくなってきた」
「将烈さんの無実を証明しないと・・・」
「俺の話は無視か」
「でも何から調べればいいのか」
「おい、お前の仕事は俺の手伝いだからな」
「わかっています」
「ま、元より俺達を隠れ蓑にする予定だったんだろうけどな、斎御司さんのことだから。隠れ蓑になってるかはわからないけど」
「将烈さんの顔に泥を塗るわけにはいきませんから、しっかり仕事させていただきます」
「よしよし。じゃあまずは」
そう言うと、炉冀はどさっと音を出して何かの資料を差し出す。
波幸は目を丸くしながらも、その資料に目を通す。
「・・・・・・!」
一方その頃、火鷹は拗ねていた。
「いつまで拗ねてんだ、火鷹」
「拗ねてねぇし」
「俺一応上司な。いとこだけど今は上司な。てか何だそのぬいぐるみは」
「将さん」
「気持ち悪ッ!!!!お前そんなもん持ってんのか!?手作り!?」
「手作りなわけねぇだろ!!!シベリアンハスキーだよ!!凛々しい感じが将さんに似てるだろ!!」
「なんだハスキーか」
「なんだとは何だあああああ!!!!」
「元気だな」
「ハスキー可愛いだろうがあああ!!俺は昔から大型犬が好きなんだよ!!!知ってんだろうが!!!」
「知らねえぇよ。なんでお前のハスキー好きが公認なんだよ。知るわけねえ。興味ねえし」
「この目つきの感じとか」
「・・・・・・」
「この短髪で動きが機敏なとことか」
「・・・・・・」
「雪が好きなとことか」
「いや、誰が雪好きだよ、って将烈さんの突っ込みが聞こえてきそうだけど」
「そういや、寒いの苦手って言ってたような、言って無かったような」
「適当だな。お前の中の将烈さんはそんなもんか」
「いいんだよ。大事なのはそこじゃねえ!俺がどれだけ将さんに懐いているかってことだ!!ハチ公なんかに負けねえぞ!!!」
「そこか。懐くなのな。尊敬とか信頼とかじゃなく懐くなんだな。ハチ公もお前なんかにライバル視されて大変だな」
「よしよーし。将さん、ちょっと毛並み揃えるぞ」
将烈がいなくなることがたびたびあったため、いつの日だったか、将烈に似てるな、と思って思わず年甲斐も無く買ってしまったシベリアンハスキーのぬいぐるみを抱いていた。
なんでも目元が似ていたらしい。
榮志の手伝いもせずにハスキーを弄んでいると、榮志に何か手渡される。
「なんだよこれ」
「読んでみろ」
ぶーたれながらもそれを受け取って読んでみれば、そこには桃源たちの情報が載っている。
「敵のことは知っておいた方がいいだろ?」
「敵だと思ってんだ」
「じゃあ味方か?将烈さんを追いこもうとしてる奴がか?」
「・・・・・・敵に決まってんだろ!!!」
榮志はコロコロ表情が変わる火鷹を見て楽しんでいた。
そんなことをしらない火鷹は、桃源たちについて書かれているそれをじっと眺める。
内容によると、これまでの警察を一新する、というのが桃源たちの目的であり、それを一任されているという。
桃源たちには、その目的達成のための手段や武器なども容認されているらしく、それはつまり、上層部も桃源たちの行動を見逃すということ。
好き勝手にやっても目を瞑るのだろう。
どんな警察を作ろうとしているのかなど、火鷹は知らないし知りたくもない。
「どうだ?戦えそうか?」
「例え世間が認めても、上の奴らが許しても、俺は絶対ェこいつらをぶっ潰す」
「将烈さんに似たのか?元からっちゃあ元からか?」
「将さんに似てるなんて褒め言葉でしかねぇ!!!でも将さんはこてんぱんにするんだろうな」
「そういや、大我ってやつが将烈さんのためならって何か手伝うことあるかって連絡してきたけど、どうする?」
「・・・ああ。あいつか。でも何か潜入捜査中なんだろ?違うの?暇なの?」
「暇じゃねえだろうけど。ま、関わらせねえ方がいいよな。将烈さんと合流させるか、もしくは単独で動いてもらった方が都合が良い」
「俺も将さんと合流したい」
「それが出来ねえからここにいるのな。お前目立つんだよ。悪目立ちすんだよ。なんで潜入捜査のときみてぇに大人しく出来ねえんだよ」
「あれは演じてるから。俺であって俺じゃ無いから」
「プロみてぇなこと言いやがって。腹立つな。とにかく、お前は大人しくここにいろよ。鬧影さんみたく監視が付いてねぇだけありがてぇと思えよ」
「そういやなんで付かないの」
「なんでって、一応俺が監視役ってことになってっから」
「え!・・・スパイ?」
「違ぇよ。阿呆。その方がお前が動いやすいだろうと思って名乗り出てやったんだろ。いとこだから断られるかと思ったけど、案外大丈夫だな」
「だって公にしてねえじゃん。俺達いとこだってこと」
「そうだっけ。ああ、そういやちょっと前に波幸に言ったら驚いてたな」
「シャツ借りに来た時だろ?」
「そうそう。『仲いいんですか?』って聞かれた」
「あー、焼き肉が喰いてぇなぁ」
「なんだ急に」
「生きる活力が沸いた!!!あいつらをぶっ飛ばす!!将さんを助ける!!!」
「それはつまり俺の手伝いはしないってことか?」
「しねぇよ?そのためにお前んとこに来たんだろ?」
「そうなんだが・・・。なんかな。形式的には俺の部下としてここにいるんだから、一応仕事は手伝え。表面上でいいから」
「ういー」
「なんだその返事。将烈さんには絶対ェしねぇだろ」
「たまにする」
「するのか」
「でも将さん怒らねえもん。『火鷹、(ういー)じゃなくて(はい)な』、って言うだけだから」
「俺が言うのもなんだけど、お前は本当に将烈さんが上司で良かったよな」
「だろ!?俺のことは将さんしか扱えないぜ!!」
「自慢して言う事でもないんだけどな」
「よし!将さん救出作戦を考えるぞ!!!」
「ひとまず、もうちょっと静かに話せ」
「・・・ねえ龍ちゃん」
「なんだ」
「あいつ全然話さねえんだけど何?俺達どうすりゃいいわけ?」
「別に何もしなくていいだろ。斎御司さんからも特に何か言われたわけじゃないし」
「じゃあなんでここにいんの」
「他に行くところがないから?」
「いや、多分俺達のところなら自由に動けるからだろ?」
「そっか。じゃあそうだな」
「龍ちゃん適当だね。自由に動ける場所にきたのに動けてないんだよ?手助けした方が良くない?」
「ならお前がしろ」
「ゆっきーは?」
柑野が紫崎にそう尋ねれば、紫崎は顔を軽くふいっととある方向へ向ける。
それに導かれるようにして柑野が顔を動かすと、そこには、いつの間に作ったのか、職場に畳部屋を作りそこで横になって寝ている碧羽の姿があった。
職場にそんなもの作るなという文句が出ることなどなく、気持ちよさそうに寝ている碧羽を見て、柑野は羨ましそうに見ている。
「ずるい!!俺も昼寝したい!」
「おい、揺らすな」
紫崎は何か作業をしているらしく、柑野が紫崎を激しく揺さぶって抗議をしたため、一旦手を止めて流れのまま揺られている。
柑野の手が止まったのを確認すると、ちらっと部屋の隅で、まるでどこぞのジョーのように項垂れている男を見る。
「俺達よりキツネの方が向いてると思うけどな、こういうのは」
「仕方ねぇよ。あいつらは車乗り回すのが好きだから」
「で、お前はいつまでそこでじっとしてるつもりなんだ、眞戸部?」
紫崎たちの会話を聞いているのかどうなのかさえわからない状態の眞戸部は、未だピクリとも動かない。
本当に屍にでもなってしまったんだろうかと、柑野が眞戸部にそっと近づいてみれば、瞬きするのが確認出来た。
紫崎は頬杖をついて眞戸部の方を見ているが、ちっとも動かない眞戸部を見て、諦めたようにため息を吐いて作業に戻る。
ただただ紫崎の使っている機械音だけが響いてしばらく経った頃、ようやく碧羽が起きてきた。
「おー、ゆっきーやっと起きた」
「ん・・・あれ?まだ死んでんだ」
「そうなんだよ。どうすんのこれ」
「ふぁあ、眠い」
どうやら、碧羽が昼寝に入る前から眞戸部は今の状態らしいが、碧羽は特に気にすることなく飲み物を探す。
大きな欠伸をしながらコーヒーを飲むと、じっと眞戸部の方を見る。
「やっぱゆっきー心配だよね?龍ちゃんってば全然心配してなくてさ。疑ったね。マジで人間か!?って思ったね」
「別に心配してない」
「ええええええ!?なんで!?むしろ俺がおかしいの!?」
「五月蠅い。放っておけばいいじゃん。折角俺達のところに来たのに、何もする気が起きてないんでしょ?じゃあ何も出来ないじゃん。こいつら何もする気ないなら、俺達が何かしようっていうのもおかしいじゃん。だから放っておけばいいよ」
「そういうもん?」
柑野が首を傾げてみるが、碧羽の言葉に同意するかのように、紫崎も作業の手を止めずに言う。
「そういうもんだ。こいつが動こうとしない限り、俺達が手を出すのは野暮ってもんだ。だから放っておきゃいい」
「そっか。わかった。でさ、今日の夕飯はどうすんの?ピッツァ?」
「だからその発音止めろって」
紫崎たちが通常の会話を続ける。
耳にその会話が入っているのかいないのか、その日一日、眞戸部は動かなかった。
紫崎たちが家に帰るときも動いていなかったため、最悪碧羽が作った和室にでも寝ればいいだろうと、毛布だけは置いてきた。
翌日、全く動いた気配のなかった眞戸部を見て、紫崎はまたため息を吐いた。
「どうすんだあれ」
柑野は椅子に逆向きに座りながら、コソコソと聞こえる大きさの声で紫崎に聞いていた。
「放っておけ」
碧羽は出勤して早々、例の部屋で寝ている。
「でもさ、もしこのまま飲まず食わずでここで死んだら面倒じゃない?」
柑野のその言葉に、紫崎は少しピクッと反応を示す。
横目で眞戸部を見たあと、作業するためにつけていたゴーグルを頭の上に一度くいっと上げてから、「ちょっと待ってろ」と言ってまた作業に戻る。
柑野はポケットに入っていた飴玉をガリガリと噛みながら紫崎の作業を待っていると、30分ほどで紫崎は手を止める。
今度はゴーグルを首の方へ下げると、何処かへと電話をかける。
「おい」
紫崎は眞戸部に手を差し出すが、眞戸部はまだ動かない。
「お前の分だ」
紫崎が何を手渡したのかとひょこっと顔を覗かせてみると、そこには自分たちと同じイヤーカフがあった。
「え、何それ」
「え、作った」
「そうじゃなくて。え?俺はてっきりそいつを動かすために斎御司さんに連絡とかとってんのかと思ったよ。さっきの電話なんだったんだよ」
「昼飯の出前」
「ありがてぇ!!!」
「俺の分だけな」
「なんで!?」
「五月蠅いな・・・」
まだ昼前だというのにだるそうに起きてきた碧羽に、柑野は先程までの流れを説明する。
碧羽は興味無さそうに眠たそうに目を擦りながら適当に相槌を打っていた。
いや、もはや打っていないのだが、柑野には相槌を打っているように聞こえたのかもしれない。
「てなわけ!ひどいだろ!?」
「・・・なんで?」
「だって出前自分の分しか取ってない!」
「なんで紫崎が俺達の分まで出前取んなきゃいけないの」
「・・・確かに」
「で、なんでわざわざソレ作ったの?」
どうして眞戸部に自分たちとおそろいのイヤーカフを作ったのか聞かれた紫崎は、ホットアイマスクをしながら答える。
「斎御司さんにも将烈さんにも世話になった。だからせめてもの恩返し」
「・・・龍ちゃん!俺感動した!!」
「恩返しって言っても、こいつがこんなんじゃ使えない」
「ゆっきー辛辣」
「恭久」
「なに」
「お前だって、あいつらのこと調べてるんだろ?だったら、ツンデレしてねえで情報共有してよ、少しでも礼しようぜ」
「・・・・・・」
「え?え?ゆっきーってばツンデレだったの?知ってたけど」
紫崎はスッと立ち上がると、徐に眞戸部の前に立ち、そのまま極自然に、それはもう、なんの躊躇もなく眞戸部の頬を叩いた。
あまりに綺麗なその流れと響きに、眞戸部だけでなく碧羽と柑野も呆然とする。
この時ようやく眞戸部は上を向き、そこで紫崎と目が合った。
「やっと顔が見れた」
そう言うと、紫崎は椅子を眞戸部の前まで持ってきて、そこに座る。
「いいか。お前のためじゃねえ斎御司さんと将烈さんを助けるためだ」
「・・・・・・」
「もう一発、今度はぐーで殴ってやろうか?」
「・・・・・・」
何も答えない眞戸部に、紫崎はまた立ち上がり、拳を作って力を込める。
そしてまだ意識が無いような表情の眞戸部を殴ろうと拳を振るう。
拳が眞戸部の顔に届く前に、それは止まる。
「俺のためじゃない?当たり前だ」
小さい声だったが、確かに聞こえた。
紫崎の拳を掌で受け止めた眞戸部の目つきは、先程までのそれとは別物だった。
紫崎はゆっくり拳を下ろすと、それと同時に眞戸部は椅子から立ち上がる。
「あいつらの好きにはさせねぇ」
目つきの変わった眞戸部に、紫崎たちは安心したように微笑む。
「さて。じゃ、まずはどうしたい?」
「へ?」
「まずは腹ごしらえだろ!!」
「だな」
「カレー食べたい」
「さっきの出前が届くと思う」
「え、自分の分しか頼んで無いって」
「俺はそんな心の狭い男じゃねえ」
「龍ちゃんってば最高!!もう大好き!!!」
「言っておくが徴収はするからな」
「「え」」
「当たり前だろ。金の貸し借りはしねえ」
それからすぐに紫崎が頼んだとんかつ定食が届いた。
カレーだと勘違いをしていた碧羽は少し残念そうにしていたが、レトルトのカレーがあったため、それをかけてカツカレーにして幸せそうに食べていた。
柑野は誰かのカツを横取りしようと狙っていたようだが、終始紫崎に睨まれていたため大人しくしていた。
いきなり固形物を食べたからか、なんとなく胃が気持ち悪い感じがした眞戸部だが、水をいっきに流しこみ、しばらく天井を見上げる。
小休止後、紫崎が眞戸部に尋ねる。
「で、何から始める?」
「暇だ」
鬧影は、1人仰向けになっていた。
職場にいるなら他に出来ることもあるだろうが、生憎鬧影は休暇をくらってしまった。
不本意な休みとはなったが、まあ、有給を消化出来るのならいいかと、昼間からごろごろしていた。
「・・・・・・だめだ」
小一時間も横になっていれば十分で、鬧影は外に出かけて気分転換でもしようと靴を履き替える。
外に出ると、そこには見知らぬ男たちが数名やってきて、鬧影に冷たく言い放つ。
「外出はお控えください」
「私はただの休暇のはずだ。それとも自宅待機の命令でも出ているのか」
「それは・・・」
常に男たちの監視下の元動かなければならない鬧影は、多少苛立っていた。
普段は見せないような目つきで男たちを一瞥すれば、男たちは思わず言葉を飲みこみ、どんどん歩いて行く鬧影の後ろを付いて行く。
「(俺があいつと連絡を取るとでも思っているのか)」
確かに将烈とは同期であって、他の同期と比べれば気が合うところは多々あったかもしれないが、日頃から連絡を取り合うほど仲が良いわけでは決してない。
スタスタと歩いて行った先で、鬧影は酒とつまみを買った。
やけ酒でもするのだろうかと、監視している男たちは思っていたかもしれないが、まったくもってその通りである。
6本セットをそのまま手に持ち、反対の手で持てるだけのおつまみを握りしめレジへ向かえば、レジ店員も昼間から酒を飲む寂しい男なのだろうかと、憐れむような目で鬧影を見ていた。
買い物を終えた鬧影は、ポストを軽く見ると、数枚のチラシを手に部屋へと入って行く。
やっとここからは1人だと、鬧影は買ってきた酒とつまみをテーブルに並べる。
立ったままプルタブを開けて口を缶につけながらテレビを点け、しばらくそのまあチャンネルを回していたが、見たい番組がないらしく、テレビを消して腰を下ろす
「はあ・・・」
自分でも驚くくらい大きなため息を吐いた鬧影は、気付けばすでに全て飲み干していた缶を握りつぶす。
「まったく。あいつは何をやってるんだ」
2本目を開けながら仕事用の鞄を漁ると、どこかで見たことのあるイヤーカフを取り出し、コードでパソコンと繋げる。
「器用な奴がいるもんだな」
カタカタとパソコンをいじれば、イヤーカフに収められている情報がパソコンでも見られるようになる。
そこには、桃源たちの顔や職歴などが載っている。
「とはいえ、特に攻めどころがみつからないんだよなぁ・・・」
経歴も公にされていないのか、それとも最近入ってきたのかもわかってはいないが、自分とて警察組織の全てを知っているわけではないと、鬧影は肩を落とす。
鬧影が知らない部署が存在していてもおかしくはないが、ここまで経歴がはっきり出てこないとなると、影で動いていたか、もしくは、全てのデータが消去されている、ということだろう。
データの消去ということになれば、それは桃源たちだけではなく、当然上層部も関わっている。
おつまみ用に買ったサキイカの袋を開けると、口から少し出た状態で咥え、そのままパソコンをいじる。
「・・・・・・」
どれだけ資料を探しても、桃源たちを追い詰められるようなものはない。
鬧影は、3本目を開ける。
「・・・・・・」
部屋の中にも外にも監視がついている斎御司は、特に何もしていない。
というよりも、仕事はしているのだが、雑用なような仕事ばかり押し付けられ、本来の仕事は情報漏洩の恐れがあるとのことで出来ない状況だ。
とんだこじつけだと思いつつ、斎御司は面倒なことにならないよう、出来るだけ言われた通りの仕事を行う。
斎御司はしばらく家に帰ることが許されなかったため、整備された職場にて寝泊まりをすることになったのだが、トイレに行く時もシャワーを浴びに行くときも付いてくる男たちには戸惑った。
何もそこまで付いてくることはないだろうと思っていた斎御司だが、徹底的に監視をするらしく、スマホさえも管理されていた。
こうなってしまうと、誰とも連絡が取れないと思った斎御司は、思い出したように何かを取り出す。
「斎御司さん、それは何ですか」
「何って、見て分からないかい?指輪だよ指輪。仕事中はなるべく外していたんだが、家族にも会えないんだ。これくらい付けてもいいだろう?」
「・・・・・・」
男たちは無線で何やら確認を取ると、斎御司に指輪をするよう促す。
「ありがとう」
そう言って指輪を付けると、斎御司は再びパソコンに向かって指を動かす。
「(まったく困ったものだ。愛娘と妻と話すことも出来ないなんて)」
だが、とちらっと斎御司は先程つけた指輪を見ると、男たちには聞こえぬよう、願うのだ。
―随分前
「将烈、お前また上司に刃向かったのか」
「あ?文句あんのか」
「ある。どうして刃向かったりするんだ。お前なら大人しくしていればそれなりに早く出世出来るぞ」
「興味ねえもん」
「クビにされたらどうするんだ」
「出来るもんならしてみろよ」
「どこぞに左遷されるかも」
「這い上がってやる」
「なんて上昇志向が高いんだ」
「馬鹿なのかおっさん」
斎御司の勧めで警察に入ったは良かったものの、将烈の警察嫌い、特に上層部嫌いは直らなかった。
狂犬だ野犬だの、そんな可愛い表現ばかりではなく、裏の人間と繋がっているとか、薬をやってる殺しをしてるだのと、無いことばかり噂で広まっていた時期もあった。
目つきと態度の悪さもあるのだろうが、一番の原因はきっと、『誰に対しても徹底的に追究する』行動力や判断力、時には武力や知力といったもの全てが目の敵にされたのだ。
「顔がいいからな」
「あ?顔?」
「ああ、こっちの話だ」
無茶をしてでも自分の信念を証明し続けてきた将烈の姿は、若い世代から見れば神々しく輝き、簡単に甘い蜜を吸ってきた奴らから見れば、早く制御したい出る杭だっただろう。
そんなことなどお構いなしに、将烈はただ目の前にある障害を乗り越えていく。
「時に人は、太陽を恨む、か」
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