暗紫色
maria159357
第1話先憂後楽
暗紫色
先憂後楽
登場人物
サラム
大我たいが
定室 さだむろ
清涼 きよすず
黒田 くろだ
間ノ宮 まのみや
素澤 もとざわ
遠野 とおの
デイジー
ベルガモット
ザーク
健
将烈
第一章【先憂後楽】
「はあっはあっ・・・!!」
「待て!!」
「逃がすな!必ず殺せ!!」
一人の男の背中を追いかける複数の影。
追われている男は、黒髪を揺らしながら走っていたが、その黒髪はいつの間にか銀髪に変わっていた。
木々が生い茂っている森の中を全力疾走で逃げ続けている男だったが、ついに足を止めてしまう。
足元には、断崖絶壁が姿を見せたからだ。
「とうとう追い詰めたぞ!」
「大人しくしろ。抵抗するようなら殺すからな」
じりじりと詰め寄ってくるそれらに、逃げていた男は決断をする。
「待て・・・!!!」
まるで奈落の底へと誘うかのような深い崖の底へと、真っ逆さまに落ちていった。
その姿を、ただただ見つめることしか出来ないでいると、リーダーの男が指示を出す。
「崖の下に向かえ。死んでいたとしても、捕まえるんだ」
複数の影たちは、その指示に従って列を成し、再びあの男を見つけるために走る。
リーダーの男は、土の上に落ちていた黒髪のウィッグを拾い上げると、土の上に強く投げ捨てて足で踏みつけた。
「クソっ・・・」
「もう付いていけません」
「あ?何言ってんだ?」
「あなたの傲慢さにはほとほと呆れました。それに、仕事に関しても不満が積み重なってしまい、もうこれ以上、同じ職場では働けません。同じ空気も吸いたくありません」
「俺は上司だぞ。お前のことなんて、一言言えば辞めさせることも出来るんだからな」
「圧力ですか。そんなんだから、火鷹もあなたから離れてしまったんです。申し訳ありませんが、私もしばらくお暇を取らせていただきます。将烈さん」
数日前、この将烈という男の直属の部下である火鷹という男が、もう付いていけないから辞めたいと言いだした。
そして今日、波幸というこれまた直属の部下に同じようなことを言われてしまった。
将烈はネクタイをゆるめながら煙草を吸うと、勝手にしろと言い放った。
波幸は一礼をして部屋から出て行くと、眉間にシワを寄せた将烈だけがそこに残る。
それから少しして、ノックがした。
部屋の中に招き入れると、それは将烈と同じ歳の間ノ宮という男だった。
黄土色の髪に、左目の下には怪我をしたような痕がある。
「将烈、君を捕まえなければいけない」
「あ?なんで?」
間ノ宮の後ろにいる男が前に出てくると、まるで紋所のように紙を見せて来た。
とはいえ、結構距離があるためはっきりとは見えないが、良い報せではないことは確かだ。
「君には情報漏洩、部下への暴言・暴力、公務執行妨害、職権乱用、私的私用に権力を用いた等の内部告発があったため、こちらで身元を確保し、事情を聞かねばならない」
「・・・証拠は?」
「証拠を残すような君ではないだろう。これからじっくりと話を聞かせてもらうよ」
「任意か?」
「任意なら、断るのか?」
ぷはー、と煙草の煙を吐き出すと、携帯用灰皿にそれを押しつけ、将烈は立ち上がる。
そして間ノ宮たちの方に向かってアル行くと、将烈より少し背の低い間ノ宮を見下ろして不敵に笑う。
「任意でも行くよ。どうせ連れて行くんだろ」
「助かる」
そのまま男たちに両腕を拘束されると、将烈は男たちに連れられて何処かへと向かう。
将烈の後姿を見ながら、間ノ宮はポケットから携帯を取り出し、自分にかかってきた電話に出る。
「俺だ。ああ、素澤か、どうした。ああ、ああ・・・。死んでいたとしても、亡きがらを持ってこい」
「わっかりましたー。まあ、そう言われるとは思ってましたけどね」
間ノ宮との電話が終わった素澤は、ガムを噛みながら部下たちと共に、先程の崖の下にある沢へと来ていた。
しかし、そこには先程落ちたであろう男の姿はどこにも無く、何処かへ流されてしまったのかと辺りを捜索。
頭に黄色いバンダナを巻いている少しボサボサの髪型をしている素澤は、男探しを部下たちに任せ、耳にイヤホンを付ける。
それで何を聞いているのかというと、競馬らしいが、特に競馬に興味があるわけではなく、ただ聞き流しているのが好きらしい。
その頃、素澤に指示を出し終えた間ノ宮のもとに、別の電話がかかってきた。
「はい、お世話になっております。ええ、今探しておりますので、今しばらくお待ちください。ええ、ええ・・・」
電話の向こう側で、何かと偉そうな口調で話してくるのは、ザークという、一国をまとめている男だ。
見た目は無精髭でツリ目、グレーのオールバックだ。
何かを急かすように間ノ宮に話したあと、満足したのかどうでも良くなったのか、ザークからの電話が切れる。
はあ、と大きめのため息を吐いた間ノ宮は、その足で廊下を歩き続け、エレベーターに乗り、また廊下を歩き、途中の自販機で何か飲み物を買うとまた別のエレベーターに乗り、暗い部屋へと入って行った。
そこには数人がパソコンに向かってなにやら操作をしている。
その中の一人のもとへ向かうと、自販機で購入したおしるこをデスクの上に置いた。
「お、気が利きますね」
「ケン坊、暇してるなら調べてほしいことがある」
ケン坊と呼ばれた男は、青髪で目の下に少しクマを作りながらも、間ノ宮に渡されたおしるこのプルタブを開ける。
それを嬉しそうに飲みながら、間ノ宮にこう答える。
「調べるのは良いんですけどね。俺だって徒にいじってるわけじゃないんですよ?」
「分かってる」
「で?何調べりゃいいんです?」
「ある男の居場所を探して欲しい」
「そりゃ無茶苦茶な。監視カメラがあるとか、GPSでもつけてるとかならすぐわかりますけど」
「大丈夫だ。後でそいつに接触させる予定だ。それに、幼少期に衛星カメラハッキングして、別の位置情報で世界中パニックにさせた奴なら、人一人くらいすぐに見つけられるだろ」
「わー、褒められちった。ま、おしるこ頂いちゃったんで、ちゃんと調べますよ。分かったら報告します。素澤にも」
「ああ、頼む」
間ノ宮からのおしるこを全て飲みきると、ケン坊こと健は、パソコンをいじりだした。
その様子を見た間ノ宮は、その暗い部屋から抜けだした。
「・・・ん」
目を覚ますと、身体が痛かった。
どうしてだろうと思っていると、ごつごつした岩陰に寝かされているからだと気付く。
顔を少しだけ動かすと、そこには一人の男がいて、雑炊のようなものを作っていた。
「お、起きたか」
身体を起こすと、その男が近づいてくる。
「俺は大我。お前すげーな。たっけー崖から落ちてきて死んだかと思ったけど生きてたよ。びっくりびっくり」
大我と名乗った男は、黒い癖っ毛の髪の毛でタレ目、それに八重歯が目立ち、まるで牙のようだ。
「お前、名前は?」
「・・・・・・」
大我は男に色々尋ねてみるが、まったくもって相手にされないため、諦めて一緒に雑炊を食べることにした。
しかし、毒でも入っていると思われているのか、大我が作った雑炊を一切食べようとせず、顔を背けてしまった。
大我は男の顔にそれを近づけて様子を見るも、全然動かないため、しかたなく一人で食べることにした。
黙々と食べていると、男が急に立ち上がる。
「どうした?腹減ったのか?」
男はそれにも答えることなく、大我に背を向けて歩いて行ってしまった。
「・・・なんだありゃ」
「これはこれは、ドクロ様」
「こんにちは。今回もお世話になろうかと思いましてね」
「それはありがとうございます。さあ、こちらへどうぞ」
ドクロと呼ばれた、伊達眼鏡をかけ、煙草を咥えたタレ目で飄々とした感じの茶髪の男は、女性に誘われ建物の中へと入る。
そこにいた男に挨拶をすると、数名の子供を連れてきて、ドクロに見せる。
「これはこれは。とっても可愛らしいお譲さんですね。それと、とても賢そうなお譲さんも」
「自信を持って送り出せる子たちです。いかがです?」
ドクロはまるで品定めでもするかのように、その子供たちをじろじろ見たあと、男に厚みのある茶封筒を渡した。
その中身を確認すること無く、男は子供たちをドクロへと引き渡す。
女性は子供たちに笑顔で手を振ると、子供たちは不安そうな顔をしながらも、小さな手を振り返す。
ドクロは子供たちを車に乗せると、そのまま立派なお屋敷へと連れて行く。
「大丈夫だよ。怖くないからね」
ケホケホと、煙草の煙で咳込んでいる子供たちを他所に、ドクロは屋敷の敷地内も適当な場所に車を停めると、子供たちを下ろした。
屋敷に入って執事や兵士を顔パスすると、グレーのオールバックの男と対面する。
「お久しぶりです。今回はなかなかの上玉なんですが、幾らで買い取っていただけますかね?色をつけてくださると助かります」
男は子供たちを見るや否や、近くにいる男に指示を出し、ドクロに大金を支払った。
ドクロはその場で遠慮することなく幾らかを確かめると、ニヤリと口角を上げて満面の笑みを見せた。
「ありがとうございます。それでは、またのご利用お待ちしております」
そう言って、ドクロはその場に子供を残して去って行った。
ドクロがほくほくしながら車を走らせている頃、素澤たちは男が見つからない為、一旦拠点に戻っていた。
「疲れましたねー。全然見つからないし」
「死んだんじゃねえの?」
「痛いッ!!やめてよおっ!!」
「静かにしろ!!」
「死んだにしても、遺体も見つからねえってのはどういうことだ?」
「流されたんだろ?もっと下流の方も探してみないとな」
「あの高さで生きてるわけないもんな」
「いやっ!!あっ!!」
「うるせぇよ!!もっと俺を楽しませろよ!!」
「死亡確定なのに見つけなきゃいけないなんてな。面倒だよな」
「お前等、何を話してる」
「た、隊長!!」
男たちが話しているところへ素澤がやってきた。
くちゃくちゃとガムを噛んでいる素澤は、視界の端に映っているその光景にため息を吐き、前髪をかきあげる。
「ほどほどにしておけよ。五月蠅くておちおち寝てもいられねぇ」
素澤に注意されると、その注意された男はへこへこと頭を下げる。
またイヤホンをつけて寝床につこうとしていた素澤のもとに、電話が鳴った。
「炉端か、何だ」
《間ノ宮さんに頼まれたこと調べてて、素澤さんが探してる男の居場所が見つかったので、ご連絡をと思いましてね。知りたいですか?》
「早く教えろ」
《おしるこ一年分ですよ》
「お前の一日の消費量が分かんねえけど、わかった。好きなだけ買ってやるよ。で?」
健に教えてもらった場所に向かうと、確かにそこには探していた男がいた。
「まさか生きてるとはな・・・」
あの高さから落ちて生きているとは思っていなかったが、男は一人で川の水を飲んでいた。
辺りに誰もいないことを確認すると、素澤たちは一斉に男を取り囲み、それに気付いた男は逃げようとするも、手遅れだった。
「生きてたとはな。まあいい。俺達に大人しく殺されるんだな」
素澤の合図で一斉に攻撃を、と思った矢先、数人の素澤の部下が一気に倒れてしまった。
何事だとそちらに目を向けた途端、黒い髪をした男が、素澤たちが捕まえようとしていた男の腕を引っ張って軽やかに逃げていく。
「待て!!サラム!!!」
その叫びも虚しく、二人は消えた。
「おいおいおいおい、なんなんだあの男は」
素澤たちから逃れることが出来た二人は、息を荒げながら地面に尻をつけて座っていた。
「どういう心算だ」
「ようやく喋ったな。お前、サラムっていうのか?なんで追われてるんだ?あいつら誰だ?」
「五月蠅い。お前には関係ない」
「怪我してるな。ちょっと来い」
サラムの腕をぐいっと引っ張ると、大我はその怪我を治療した。
サラムに話しかけているのか、それとも独りごとなのか、サラムが無視していたため正確なことは分からないが、大我は話し続けていた。
右頬の傷の治療を終えると、ガサガサと物音が響く。
サラムと大我は身構えると、三人の男が姿を現し、二人を見るとほっとしたような顔を見せる。
「俺達はお前らを保護しに来たんだ。何があっても、無事に連れて行く」
一人は黄土色の髪に、唇の左下にホクロをつけた定室という男。
一人はブリーチのかかったさらっとした髪で瞳が大きい清涼という男。
そしてもう一人は、将烈とかいう男の部下だと言う黒田という黒の短髪に鋭い目つきの男だった。
「狙われてることも知ってる。とにかく、ここは危険だからとにかく移動しよう」
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