第4話おまけ【 お酒と聖くん 】






WILD CHAIN

 おまけ  【 お酒と聖くん 】





  ある日のこと。


  いつものように部屋で本を呼んでいる隼人のもとに、ビニール袋一杯にビールとおつまみを持ってきた叶南が来た。


  「なんだ、それ。」


  「酒だ、酒。あとビール。どうせお前は暇だろ?明日はこの裁判所の設立記念日だから、最低限の人数だけが仕事入ってて、紅蓮らも休みだと思うぞ。だから、いいだろ、別に。」


  部屋にずかずかと入ってきて、テーブルの上にビール缶を並べて、台所に行って皿を持ってきて、その上におつまみを綺麗に置いていく叶南。


  それを呆れながら見ている隼人。


  「・・・紅蓮は飲まねえと思うけど・・・。」


  アルコールが飲めるのか分からない紅蓮と、飲めたとしても弱そうな渋沢の顔を思い浮かべながら叶南に伝える。


  「紅蓮は飲むんじゃねえか?ま、飲ませようぜ。渋沢はすぐ酔いそうだな・・・。呑んでりゃ慣れっか。あ、あと聖誘ってこい。」


  「はあ!?なんでだよ。」


  聖という単語が出てきた途端、隼人がソファから身体を起こす。


  「なんでって。お前な、酒呑み友達の一人くらいいた方がいいぞ。それに、あいつにも迷惑かけただろ。誘ってこい。」


  「来ないと思う。」


  「いーから早く行け。」


  読んでいた本をソファの上に置き、仕方なく聖の元に行く。






  「なんで俺が聖を酒呑みに誘わなくちゃいけねぇんだよ・・・。」


  ぶつくさと文句を言いながら、廊下を歩いていく。


  ポケットに手を突っ込み、髪をかきながら、面倒臭そうにひたすら歩いていけば、門番の仕事を終えた聖がいると思われる、聖の部屋についた。


  ドアをノックしようかとも思ったが、なんだかそれも嫌で、色々と考えてるうちに、やはりノックをすることにした。


  部屋の中からは聖の声が聞こえてきて、隼人が軽くドアを開けると、中にいた聖も、心底嫌そうな表情を見せた。








  「・・・ってなわけで誘いに来たが、お前、酒呑めんのか?」


  「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・呑める。」


  「呑めねえのかよ。」


  「呑めるって言ってるだろ。」


  「いや、呑めねえだろ。」


  「呑める!」


  隼人でなければ、きっと素直に『呑めない』と言ったのだろうが、今の聖にとって、此処で『呑めない』と言う事は、隼人に負けたことと同じだと感じている。


  隼人もそれを知っていながら、ため息をついて部屋に戻ろうとする。


  「ああ、そうそう。言っとくけど、俺だって来たくて来たんじゃねぇからな。」


  「当たり前だ。来たくて来たなんて言われたら、鳥肌が立つ。」


  「・・・下戸が。」


  「呑めるっていってるだろ。」


  「はいはい。オレンジジュースでも用意しといてやるよ。」


  「てめっ・・・!」


  隼人の言葉に、聖がデスクの上の本を投げつけようと手に持ったが、その前にドアが閉まり、隼人に当たることはなく、虚しく床に落ちた。








  次の日、聖は昨日の隼人の言葉にイライラしながらも、紅蓮たちの部屋へと足を進めていた。


  ノックをして部屋の中に入ると、すでに紅蓮も渋沢も叶南まで揃っていて、みんなソファに座っていた。


  「どんどん呑めよ!」


  叶南がすごい勢いで酒を呑み干していく。


  渋沢はちょびちょびと、様子を見ながら呑んでいるが、すでに顔はほのかに赤く染まっていた。


  平然とした顔で呑んでいたのが紅蓮で、『すぐ酔うからあまり呑まない』とは言っていたものの、酔う様子は全くなく、むしろ余裕そうだ。


  隼人は自分のペースで呑んでいて、サキイカやおつまみの海苔天などを食べている。


  ・・・聖は。


  ちらっと隼人が聖の方を見てみると、ビール缶一本は呑んだようで、まだ大丈夫かと胸を撫で下ろした・・・。


  「・・・ヒッ。」


  「・・・・・・・・・・ヒッ?」


  聞いたことの無い奇妙な声が隼人に届き、聞こえてきた方へと目を向ける。


  そこには、顔を渋沢以上に真っ赤にさせて、目は虚ろ、口元を歪めている聖がいた。


  考えられないほど上機嫌の聖は、突然隼人の肩を組んできて、ケラケラと笑いだした。


  「・・・!?おい・・・・!?」


  紅蓮と叶南は手を止めて、その光景を見ている。


  ・・・渋沢は熟睡中。


  「・・・おい。酔ってんだろ・・・。早く帰って寝ろ。」


  面倒なことになりそうだと思った隼人が、自分の肩に回された手を外そうとしたが、思ったよりも力が強くて、なかなか外せない。


  「い~じゃね~か。隼人くんはケチだな~・・・。ハハハハハ!」


  「・・・。」


  こうして、思いっきり声を出しながら笑い、顔を緩めている聖を気味が悪いと思いながらも、どう対処すればいいのか分からない。


  「それにしても~、隼人くんは本っっっっっ当に天才っていうか、無駄に秀才っていうか~・・・。なーんで俺の方が勉強してんのに、点数取れないんだ~??なーんーでー、隼人くんの方がモテんだ~?」


  「水飲め。水。もうアルコール飲むな。」


  隼人が冷静な対応で、聖の手からビールを奪おうとするが、それを阻止するかのように、腕を伸ばしてビールを避難させる。


  二人の様子を、面白そうに見ている二人に助けを求めるが、笑っているだけで、助ける素振りは全くない。


  「クールなふりして、隼人君は何を考えてんだか・・・。何を考えてるんですかねー?」


  隼人の耳元で叫びながら笑っている聖の隣で、額に手を当ててため息をついている隼人。


  「なんで君付けなんだよ・・・。」


  ぼそりを呟いた隼人を気にもせず、聖はさらにビールを流し込む。


  「っかー!!っく・・・。あー・・・。なんだっけか~?あ、そうだ!隼人くん、初めて会った時、俺の名前も知らなかっただろー!!なんでだ!なんで隼人くんの下に載ってる名前も覚えてないような奴が、一番とれんだ?」


  笑い上戸かと思いきや、最後の方は頭を垂らして悲しそうな仕草を見せる。


  「ハハハハハ!!まあ、いいか!隼人くんへの恨みは、全部水に流してやるよ!!なっ!!ハハハハ!!」 


  「・・・そうかい。」


  適当に返事をする隼人に、聖がまた不満そうな顔で愚痴を言い始める。


  「あー!!!そういう反応!!!それがー!なんか・・・こう・・・男です。みたいなさ!感じだしてんだよ!!!あーくそっ!!!俺だってやればできるんだ!」


  サキイカを目一杯口に頬張り、もごもごと動かしながら話している聖を、冷めた横目で頬杖をつきながら見ていた隼人。


  「聖。面倒くせぇよ。もう寝ろ。」


  「そういう言い方、よくねえぞ!隼人君!!!!虐待だ!体罰だ!いじめだ!」


  「あー・・・殴りてぇ。」


  紅蓮がソファから立ち上がり、助けてくれるのかとおもいきや、寝言ってしまった渋沢を部屋に寝かせに行くだけのようだ。


  叶南はまた新しい酒を開けていて、柿ピーをつまみながら、至極楽しそうに、隼人たちの様子を見ている。


  渋沢の部屋から戻ってきた紅蓮は、叶南と飲み直すが、こうして見てみると、居酒屋に来たおっさん達みたいだ。


  隼人の心の声が聞こえたのか、紅蓮が、渋沢が飲んでいたビールの缶を隼人に向かって投げた。


  「って・・・。何すんだよ、紅蓮。」


  「・・・手が滑っただけだ。」


  隼人が紅蓮を睨むと、叶南はまた笑う。


  「隼人くん!聞いてる!?俺はぁ!一回も隼人くんに勝ったことが無いわけだが、それはどうしてかな?説明してくれたまえよ!」


  肩をポンポンと強めに叩かれながら、隼人は適当にあしらう。


  「あ~・・・。あれじゃねぇ?お前の努力より、俺の努力が上回ってたっていう・・・。」


  「違う!!ちーがーうー!!」


  自分で聞いといて否定するなよ、と言おうとした隼人だが、それよりも先に聖が話しだす。


  「隼人くんの方が、本を読むのが早かったからだ・・・。」


  急に元気がなくなり、下を向きながら意味深に言葉を紡いだ聖だが、隼人は呆れて、ぽかん、と口を開けて、またため息をつく。


  「それ、絶対違うと思う。」


  「いや!本を早く読む!それは、早く知識を詰め込んだという証だ!!!だからきっと隼人くんはいつも・・・。」


  「・・・?」


  がくん、と聖の力が抜けたせいで、体重が隼人にのしかかった。


  「寝てるぞ。」


  叶南が酒を口に運びながら隼人に教えると、隼人は確認するように聖の顔を覗き込むと、規則正しい呼吸音を奏でながら、完全に寝ていた。


  「どうすんだよ、こいつ。」


  「自分の部屋に寝かせりゃいいだろ。」


  とりあえず自分の横に倒したはいいが、聖の部屋まで運ぶのは労力がいる。


  紅蓮が適当に答えたが、それは断固として拒否したかった。


  「・・・・・・・・。廊下に寝かせても、風邪ひかねえよな?」


  「それは人としてどうかと思うけどな。」


  自業自得だと思った隼人だが、今度は叶南に咎められる。


  仕方なく、自分の部屋に聖を寝かせて、自分はソファに寝ることにした隼人。








  ―次の日


  「っくしゅ・・・。」


  鼻水をかんでいる隼人に、ケロッとした顔で現れた聖が、馬鹿にしたような表情で隼人を見ている。


  「その歳になって、自分の体調管理も出来ないのか。」


  鼻で笑いながら隼人を見た聖を、やっぱり一発殴ろうとした隼人だが、自分は大人だと言い聞かせた。


  「それにしても、なんで俺は此処で寝ていた?」


  「は?」


  何も覚えていない聖に、喧嘩する気も失せた隼人は、うなだれながら頭を抱える。


  そこに、起きてきた紅蓮が、聖と隼人に挨拶する。


  じーっと聖を観察していると、聖は不思議そうに紅蓮を見る。


  「?なんか顔についてるか?」


  「・・・・・いや。二日酔いとかは大丈夫か?」


  「そんなにヤワじゃない。」


  勝ち誇ったように、フンッと鼻をならしている聖。


  そこに、紅蓮と夜中まで晩酌してそのまま寝てしまった叶南が起きてきて、聖を見てニヤリと笑うと、肩をポンッと叩き、そのまま洗面所に向かった。


  紅蓮が、哀れむように隼人を見て、静かに頷いた。


  「(・・・なんだよ、その頷きはあぁァ!!?)」


  紅蓮の仕草に、隼人は頬を引き攣らせ、脱力してソファに寄りかかる。


  「だらしないな。あれくらいのアルコールで。」


  「・・・。」


  色々と文句を言ってやりたい隼人だが、覚えていない聖に言っても、聖は認めないだろうし、後々面倒になるのは嫌だったため、適当に『そうだな』と答えた。


  聖は早くから仕事があるということで、さっさと帰って行った。


  「・・・もうあいつとは酒呑まねえ・・・。」


  いつもの冷静で無口な聖の方がいいと、心の底から思った隼人だった・・・。






  「・・・。ビデオでも撮っときゃよかったか?」







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