おまけ①【おっさんと娘】






繊月

おまけ①【おっさんと娘】



 おまけ①【おっさんと娘】




























 「どうかなさいましたか?」


 ある日、眞戸部は斎御司に呼ばれていた。


 斎御司の部屋に入ってみると、斎御司はどんよりとした空気に包まれ、眞戸部は慌てて近づいて声をかける。


 「な、何かありましたか!?」


 こんな斎御司は見たことがないと、眞戸部は困ってしまった。


 どんな言葉をかけようかと悩んでいると、斎御司が携帯を眞戸部に見せてきた。


 これは見て良いということだろうと判断した眞戸部が斎御司の携帯を見てみると、そこには斎御司の娘からのメールが入っていた。


 「パパと結婚できません。好きな人が出来ました・・・?」


 「眞戸部、娘はな、昔から私と結婚すると言っていたんだ。それなのに、急に私と結婚ができないと言ってきたんだ。どういうことだ!?もしかして、娘は誰かに脅されているのか!?脅されてそんなことを言っているのか!?」


 「えっと・・・今お幾つでしたっけ?」


 「53だ」


 「いえ、斎御司さんではなく、娘さんです」


 「ああ、娘か。今7歳だ。小学校に入ったんだ。わかったぞ!きっと小学校で娘を誑かす男が現れたんだ!今すぐ抹殺しに行こう!」


 「落ち着いてください。きっと好きな子でも出来たんでしょう。まだ結婚するしないの判断は出来ていませんよ」


 「なら私と結婚するのか」


 「それは法律的に出来ませんし、斎御司さんキャラが崩れています」


 「キャラなどどうにでもなる。眞戸部、任務だ。娘の小学校に行って、誰が娘を誑かしているのか調べて来い」


 「いえ、それはちょっと・・・」


 「いけ!!」








 「はあー・・・まじか」


 斎御司のあまりの迫力に拒否出来なかった眞戸部は、臨時の職員ということで学校に潜入した。


 もちろん教員免許など持っておらず、知り合いに頼んで不正に作ってもらったのだ。


 「やべぇって。バレたら共倒れだ・・・」


 そう言いながらも、眞戸部は斎御司の娘の1日担任として挨拶をした。


 名簿を見てみると、そこには明らかに斎御司の娘であろう名前があった。


 「斎御司、美乃」


 「はーい!」


 元気に手を挙げながら返事をしたのは、白い肌に丸い顔、大きな目に可愛らしいワンピースを着た、二つに縛った黒髪が靡いている女の子だ。


 失礼かもしれないが、斎御司の子供とは思えないほど愛橋があって、笑顔が眩しい。


 それから1日、眞戸部は美乃のことを観察していた。


 しかし、美乃に好意を抱いている男子児童は見つかったものの、美乃が好意を抱いているような男子児童は見つけることが出来なかった。


 斎御司から連絡が入り、美乃を家まで送り届けてほしいと言われたため、美乃に事情を話して送っていくことにした。


 本当に愛想がいいため、色んな人に挨拶をし、色んな人から挨拶をされていた。


 「美乃ちゃんは、お父さんと結婚するの?」


 それとなく聞いてみると、美乃は首を横に大きく振った。


 「違うよ!美乃ね、パパより好きな人いるもん!!」


 「(これ聞いたらマジで殺しに行くな)そうなんだ。俺に内緒で教えてくれる?」


 「パパに言わない?」


 「言わないよ」


 「んーとね・・・」


 美乃は顔をあげて眞戸部を見ると、ちょいちょいと小さな手で招く素振りをする。


 眞戸部は両膝を曲げて美乃と目線を合わせると、美乃の口の近くに耳を近づける。


 「    」


 「・・・!?」








 「御苦労だったな」


 「いえ」


 「で、どうだった?」


 「照れ隠しだったみたいですよ、娘さん。本当はお父さんが一番好きだって言ってました」


 「本当か!?」


 「本当です。なので、これ以上詮索すると、逆に嫌われてしまうと思いますよ」


 「そうか。そうだな。愛娘を疑った私がいけないんだ」


 「・・・・・・」


 挨拶をして斎御司の部屋から出ると、眞戸部はふう、と安堵のため息を吐いた。


 前髪をかきあげると、ポケットに手を突っ込んだまま歩きだした。


 エレベーターに乗ると、壁に背中をつけ、ズルズルと片足を曲げた状態でかろうじて立った姿勢になる。






 『あのね、金色の目にお兄ちゃんなの』


 『金色の、目・・・!?美乃ちゃん、会ったことあるの?』


 『ないよ!この前ママとね、パパの昔の写真見てたら、そのお兄ちゃんがいたの!とってもかっこ良かった!!』


 『そう、なんだ・・・。名前とかも知らないよね?』


 『うん!ママも知らないって言ってた!』


 『写真見たこと、お父さんには言ったの?』


 『言って無いよ!パパ、昔の写真見ると怒るってママ言ってたの!だから内緒で見たの!』


 『そっか。じゃあ、そのお兄ちゃんのことが好きなんだ?』


 『うん!美乃、大きくなったらボンッ!キュッ!ボンッ!になって、あのお兄ちゃんと結婚するの!!』


 『・・・叶うといいね』


 『うん!!』






 「言えねえ・・・。言ったらマジで自衛隊動かしてでも殺しかねねぇ・・・」


 ちーん、と目的の場所に到着した扉が開くと、そこに今一番会いたくない男が立っていた。


 「何しているんです?」


 「あ?何って、改めて、鼇頭が警察組織とは別の孤立した組織ですよーっていう同意書にサインもらいに来たんだよ」


 「そうでしたか・・・。お気をつけて」


 「何に気をつけろって?」


 「え!?いえ・・・あの、失礼します」


 眞戸部の何とも言えない対応に、将烈は咥えていた煙草を落としそうになった。


 ノックをして斎御司の部屋に入ると、娘とビデオ電話している斎御司の、正直、見たくは無かったデレデレした顔を見てしまった。


 将烈が目を細めてその姿を見ていると、斎御司は少し待っていてくれと娘に頼んでいた。


 紙1枚にハンコを押すだけの間だったのだが、その短い間に、電話の向こうから聞こえた娘の声に、思わず手が止まる。


 『パパも好きだけど、王子様の方が大好き!!』


 「王子、様・・・だと!?」


 「いいから押せよおっさん」


 「今それどころじゃないだろ!!聞いたか!?娘が確かに王子様と言った!!お前も聞いただろう!?」


 「知らねえよ。白馬に跨ったかぼちゃぱんつの王子様なんて俺の知り合いにはいねぇからなぁ」


 「私は真剣に話しているんだ!!!眞戸部を呼んで来い!!もう一度潜入調査させてやる!!!」


 「おーおー、職権乱用甚だしいな。つか早く押せって。なんで押すだけの動作でそこまで時間かけられるんだよ」


 「仕方ない。お前等にこの任務を与えてやろう。私の可愛い美乃を唆し誑かし挙句の果てに結婚しようとしている不埒な奴をつきとめさせてやる」


 「もらってくれるならありがてぇじゃねえか。棄てられるよりマシだろ」


 「なんてこというんだ!!!もし美乃を弄んで棄てようものなら、私はそいつを車に縛りつけて下半身が無くなるまで引きずりまわしてやろう」


 「想像しただけで恐ろしいことを言うな。いいから押せって。なんで10秒もありゃあお釣りがくるくれぇのことが、こんなに時間かかってんだ?俺も暇じゃねえんだよ」


 「美乃!一体お前の言う王子様っていうのは誰のことなんだ!?パパよりも好きなのか!?どういうところがいいんだ!?親に会って文句言ってやる!!!」


 「・・・・・・」


 はあ、と将烈はため息をつき、斎御司の手から放れたハンコを自分で掴み、自分で押した。


 その間、斎御司は携帯を持ってずっと美乃と話をしていたのだが、将烈に背を向けて話し始めたとき、美乃が反応した。


 『美乃の王子様だ!!!』


 「「え?」」


 ぴたりと動きを止めてしまった斎御司と将烈だったが、先に動き出したのは、出口に向かって歩き出した将烈だった。


 「待て将烈」


 「なんだ?もうハンコもらったし、ここに用はねえんだけど」


 「説明してくれ。なんでお前が美乃の王子様なんだ?どういうことだ?私が王子様じゃないのか?」


 「頭おかしくなったのか。あんたも俺も王子様なんてガラじゃねえだろ」


 「鼇頭独立の話は延期にしよう。そうしよう。その書類を渡せ。今すぐシュレッダーにかけてやる」


 「知ってるか。そういうのを権力の暴走と言うんだよ。もう俺はあんたらとは上下関係に無い。よって、あんたの言う事を聞く義務はない」


 「分かってないな。その書類を出すまでがおつかいだぞ。よってまだお前は私の部下だ」


 「面倒くせぇな、なんだこのおっさん」


 「いいから渡すんだ!」


 『パパ!美乃の王子様いじめちゃダメでしょ!パパのこと嫌いになるからね!!』


 「み、美乃!!そんなこと言わないでおくれ!パパは美乃のこと大好きなんだぞ」


 『王子様!今のうちに逃げて!!パパ!美乃のお願いが聞けないの!?もう一緒に寝てあげないからね!!お風呂だって別々だからね!!』


 「美乃、パパが悪かった!!許してくれ!嫌いにならないでくれ!!!」


 斎御司が美乃とこんなやりとりをしている間に、将烈は美乃のお言葉に甘えてとんずらしていた。


 どうして美乃が自分のことを知っているのかなど分からないが、無事に鼇頭という居場所を取り戻したことに変わりは無い。


 その独りごとが聞こえたかどうかは分からないが、後日、斎御司から娘を諦めてほしいと頭を下げられたそうだ。


 諦めるも何も無いのだが、将烈が適当にあしらえばあしらうほど、斎御司は美乃が将烈のもとへ嫁に行ってしまうのではないかと心配するのだった。


 眞戸部が美乃を説得するも、美乃の心は変わらないらしく、斎御司は黒魔術という本を読みこみ始めたようだ。


 それを眞戸部が将烈に伝えたところ、将烈はただ呆れたように一言言い放ったとか。


 「あのおっさん、あほか」








 「美乃――――――!!!」





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