異世界転生するんじゃない!

化野生姜

帰還なんてロクなものじゃあない

「今日も今日とて昏睡回復」

 月曜の出勤日。


 今年で三十五歳になるアソウギはデスクにつくなりため息をつく。

 立ち上げられたパソコンには大量の報告書。


 その半数がトラックとの接触事故、入水、首吊りなどおよそ穏やからしからぬ理由で昏睡状態となった人々で現在も目を覚ます様子はないとの報告であった。


「…この連中の半数以上が、今や異世界転生者とはな」


 そう、二十一世紀である現在。異世界転生者の存在(…正確には帰還者だが)は政府間の中では当たり前のように認知されている。


 唐突に出現するトラック。

 自殺未遂により移動する意識。


 この世界に存在する、ランダムな世界線。


 現在の技術を持ってしてもその世界の観測は不可能とは言われているが、実際に帰還し、能力を持ち帰った人間がいる以上、事実として認めざるおえないのが政府としての見解であった。


 ついで、アソウギの社用スマホに着信が入り、みれば【観察課かんさつか】に様子を見に行っていたシギからの着信。


「…もしもし」


『あ、アソちゃん?もうすぐ帰還者が出そうなんだけど、そっち行けそう?』


「わかった。地下の駐車場で落ち合おう」


『オッケー』


 通話を切ると、アソウギは半ばため息をつきながら卓上のタブレットとカバンを手に取り、立ち上がる。


 【観察課】はこの場所から数キロ離れた県庁に存在する。

 では、そこまでどうやっていくかといえば…


「アプリ・オン…【移動魔法】で県庁地下まで移動」


 短くそう唱えると、タブレット端末が点き『音声、認証しました』との声。

 

「お、キタキタ」


 目の前には上着を肩に引っかけただけのラフなパンツスタイルのシギの姿。


「やっぱ、移動魔法は便利だよね。これが転生者のスキルをアプリに落とし込んだ結果だっていうんだから、テクノロジーってすげえよ」


 茶髪の短い髪を揺らし、年相応にキャッキャと笑うシギに「いいから、さっさと病院に行こう」とアソウギはため息をつく。


「目覚めて、いきなり何かの能力を使われては面倒だ。必要ならばこちらで抑える必要もあるからな」


 それにシギは「へいへい、真面目さん」と言いながらアソウギと同じ庁内タブレットをタップする。


「アプリ・オン…【移動魔法】、県庁病院503号室」


 着くなり、目の前にあるのは病院のベッド。


 帰還者であることはすでに病院側に報せてあるため医師や看護師の姿はなく、生命維持装置の類も外されている。


 寝かされているのは「ヤスダ・マホロ」と名前の書かれた一人の女性。

 ついで、彼女のまぶたが動き出し、目を開けると開口一番こう言った。


「…ここは?」


 そう語る彼女にシギは静かに近づき、こう続ける。


「こちらがわかりますか?アナタは数日前にトラックに轢かれて生死の境をさまよっていたんですよ」


 それに女性は「え、じゃあ今までのことは」と目を見開き、その仕草にシギはアソウギに目配せし、こう続ける。


「では、確認をさせてください。体を起こして復唱していただけますか?」

 

 ついで、シギは片手をあげてこう言った。


「ステータス、表示」

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