第48話

「あはは、でもさ、どうせ彼女さんと一緒にお昼ご飯を食べるんだったら、もっと良い場所で食べたら良かったのにー」

「えっ? ど、どういう事ですか?」

「いやだってさ、お昼休みに教室からこの部室棟に移動するだけでも大変じゃない? 部室棟まで行くだけで結構時間取られるでしょ?」

「ま、まぁそれは確かにそうですね」

「だよね? せっかく彼女さんとお昼デート(?)するんだったらちょっと勿体なくないかな? それだったら屋上とか校庭のベンチとかの方がすぐに行けるしさ、そっちの方が良かったんじゃないかなって思ってね」

「あ、あぁ……それは確かにそうですよね」


 先輩の言う事はもっともだ。 でも水瀬さんとのお付き合いは一応秘密という事にしているので、出来る限り人目につかないようにしないといけないんだ。 だから屋上とか校庭のベンチとかでお昼ご飯を食べるのは流石に無理だった。 あと今の時期はまだ若干寒いから外で食べたくはないってのもあるけど。


「……あっ! わかったよ! ちょっと矢内君!」

「えっ? な、なんですか??」


 俺はそんな事を思っていたら、突然先輩が大きな声を出しながら俺の方に詰め寄ってきた。 俺は何事かと思って不思議な顔をしながら先輩に尋ね返してみると……


「あれでしょ! 彼女さんと“えっちぃ事”をするためにこの部室を使ってたんでしょ!!」

「ぶはっ!?」


 何事かと思ったら小山内先輩があまりにもすぎる発言をしてきたので俺は噴き出してしまった。


「な、な、何言ってるんすか!? そんな事をするわけないでしょ!!」

「あはは、嘘だよ嘘ー」

「えっ?? う、うそって……?」

「あはは、ちょっとからかってみただけだよ。 というか真面目で本好きな矢内君が部室を使ってそんな事をするわけないでしょー」

「い、いや冗談だって言うならもう少しわかりやすく言ってくださいよ……もう。 迫真の演技過ぎですって」

「あはは、ごめんごめんってー」


 小山内先輩は笑いながらそう謝ってきた。 迫真の演技だったので俺はかなり焦ってしまったのだけど……でもまぁ小山内先輩の冗談だとわかって俺はホッとした。


「それでそれで? 結局彼女さんはどんな感じの子なのかな? やっぱり矢内君と同じで本が好きな子なのかな?」

「え? いや、どうなんですかね? あ、でも……」

「でも?」


 小山内先輩にそう尋ねられて俺はとある事を思い出した。 なのでその事を小山内先輩に伝えてみた。


「でもそういえば……先輩が買ってきた絵本を読んでましたよ」

「あ、そうなんだ! へぇ、それは何だか嬉しいなー! ひょっとしてその彼女さんも子供が好きなのかな?」

「あー、もしかしたらそうかもしれないですね。 彼女はとても優しい子ですし」

「ふぅん? とても優しい子なんだね? ふふ」

「え? ……あ」


 俺は無意識にそう言ってしまった。 何だか物凄く恥ずかしい事を口走ってしまった気がしてちょっと顔が赤くなってしまった。


 まぁでも水瀬さんと一緒にいる事が増えてきて何となくわかってきたんだけど、彼女が優しい子だというのは紛れもない事実だと思う。


「うん、まぁそれじゃあ別にいいかなー」

「え? な、何がですか?」


 そんな顔を赤くしている俺の様子を見ながら、小山内先輩はふふっと笑いながらそう言ってきた。


「本当は色々と根掘り葉掘り聞いてみたいけどさ……でも矢内君が凄く信頼している子だってのは伝わってきたから、もうこれ以上とやかく聞くのは野暮かなーって思っただけだよ」

「せ、先輩……」


 先輩はどうやら俺の挙動不審な態度から色々と察してくれていたようだ。 本当に先輩には頭が上がらないよ。


「あはは、だから彼女さんとはこれからも仲良くしなよー? まぁもし何かあったらいつでも相談に乗ってあげるからさ、そん時はいつでも頼ってね!」

「……はい、わかりました。 ありがとうございます!」


 そう言う先輩の表情はいつもの柔和でとても優しい笑みだった。 時々今日みたいに冗談めいた事をしてきたりする事もあるけど……でも何だかんだいって先輩はいつも優しくて頼りになる人だなと改めてそう思った。


 という事でその日は先輩に合格祈願のお守りを渡し、その後は先輩と一緒に駅まで歩いて帰った。

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