第24話

 何だか恥ずかしい感じにもなったけど、とりあえず気を取り直して俺は水瀬さんとの会話に戻る事にした。


「えっと、まぁそれじゃあ早速だけど話そうよ。 え、水瀬さんはさっきまで何してたの?」

『うーん、普通にご飯食べてお風呂に入ってた所だよ。 あ、ちなみに今はペディキュア塗ってる所ー』

「あ、そうなんだ。 水瀬さんってペディキュアしてるんだね」

『うんうん、してるよー。 手の方はバイトのせいで弄れないから、せめて足だけでもってね、あははー』


 水瀬さんは笑いながら俺にそう教えてきてくれた。 ペディキュアとは足の爪をオシャレな色に塗る行為の事だ。


「あ、なるほどー。 確かに仕事の関係上マニキュアとか出来ない女性の人もいるだろうから、足だけでもオシャレにするって女性も多そうだね」

『うん、そうだねー。 アタシの従姉妹は医療関係のお仕事してるんだけどさ、やっぱり手のマニキュアとかネイルは絶対にNGだから、その代わりに足だけ超オシャレにしてたりするんだー』

「へぇ、そうなんだね」


 という事で俺は水瀬さんと雑談を開始していった。 俺の当初の目的は水瀬さんの好きな物や事についてを探る事だったんだけど、でもそんな事よりも……


(うーん、水瀬さんのペディキュアを施した足を生で見てみたいなぁ……)


 そんな事よりも水瀬さんの素足が見たくてたまらない状態となってしまっていた。 仕方ないじゃん、思春期男子なんて皆そんなもんだよ。


 でも水瀬さんのペディキュアを施した足が見たいと思った所で、学校は制服だから女子の足指を見れる機会なんてほぼ100%無いし、そもそも今は冬場だから素足の状態になる事なんて自宅にいる時くらいしかないよな。


(せめて夏場だったらワンチャン見れる場面もあったかもしれないけど)


 でも流石にこの寒い時期にわざわざ学生靴と靴下を脱いで素足にするなんて場面はないしな。 だからまぁ残念だけど水瀬さんの足を見るのは諦めよう。 ……なんかここだけ切り取るとただの変態にしか見えないな。


『あれ、どうかした? いきなり黙っちゃったけど?』

「……えっ!? あ、あぁ、いや……えっと、水瀬さんは今どんな色のペディキュアを塗ってるのかなーって思ってさ」

『んー? ふふ、いいよ。 いつかちゃんと矢内君にも見してあげるからさ、それまで楽しみにしておきなよ、あはは』

「えっ!? あ、は、はい、ありがとうございます……」


 あれおかしいな? 俺はとっさに誤魔化してみたんだけど、でも水瀬さんには余裕で俺の考えていた事はバレバレだったらしい。 いやめっちゃ恥ずかしいんだけど。


『あ、じゃあさ。 矢内君的にはさ、どんな色のペディキュアがアタシに似合いそうとかある?』

「え? 水瀬さんに似合いそうな色? う、うーん……まぁ、やっぱり赤色とかは水瀬さんに似合いそうな気がするけど」

『ほうほう、赤色かー! うん、了解! じゃあ今度は赤色にしてみるよ』

「あ、う、うん。 その、えぇっと、楽しみにしてます!」

『あはは、わかったわかった。 楽しみにしときなー!』


 という感じでその後もしばらくの間は水瀬さんと他愛ない雑談を続けていった。 それからしばらくして、ふと水瀬さんは何かを思い出して俺に話しかけてきた。


『あ、そういえばさ』

「うん? そういえばって?」

『うん、明日なんだけど放課後すぐにバイトあるんだ。 だからごめんだけど明日もアタシ一足先に帰るね』

「あぁ、うんわかったよ。 こっちは全然大丈夫だから、水瀬さんもバイト頑張ってね!」

『うん、ありがと。 そんでさ、最近は矢内君と一緒に過ごせてないよね? だからさ、良かったら明日は一緒にお昼ご飯食べない?』

「うん……って、え!? 水瀬さんと一緒に? そ、そんなのもちろん全然良いよ!」


 まさかすぎる提案が水瀬さんから飛んできたので、俺はかなりビックリとしてしまった。 というか水瀬さんからそういう提案をしてきてくれたのは初めてかもしれないな。 俺は嬉しくなって二つ返事で了承した。


「えっと、場所はどうしよっか? 前と同じで文芸部の部室でいいかな?」

『うん、いいよー。 じゃあ前と同じ感じで昼休みになったら文芸部に行くねー』

「う、うん、わかった! じゃあ明日はその、よ、よろしくっ!」


 という事でかなり突然だったけど、明日は久々に水瀬さんとお昼ご飯を食べる事が決定したのであった。

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