第21話

 その日の夜。 俺は自分の部屋で学校の宿題をしている所だった。


「……ふぅ」


 俺は宿題を一通りやり終え一息つきながら時計を確認してみた。 時刻は夜10時を過ぎた所だった。


「うーん、今日はもう疲れたしさっさと寝ようかな」


 それに額にたんこぶも出来て少し痛いし、今日は早めに寝て体力回復に務めるのも悪く無いよな。 そう思った俺は勉強道具をさっさと片付けて、そのままベッドの中へと入っていった。


「……」


 俺はベッドの中に入ったけど、いつもよりも寝る時間が早いのですぐには眠りにはつけそうもなかった。 なので俺は目を瞑りながらこの数週間の出来事を思い出していった。 もちろんその出来事とは水瀬さんとのお付き合い(嘘)についての事だった。


 水瀬さんとお付き合いを始めてから、一緒にお昼ご飯を食べたり、放課後に一緒に帰ったり、元カレとの修羅場を目撃したり、さらには膝まくらをしてもらったりと、本当に色々な事を体験させて貰ったし、それになんだか怒涛な数週間だった気もする。


「ふぁ……」


 俺は欠伸をしながら今日起きた出来事も思い出していった。 いや今日のブチギレた水瀬さんは相当に怖かったな……今思い出すだけでも背筋が相当寒くなるもん。 まぁあれは水瀬さんを怒らせたあの男が完全に悪いんだけどさ。 でも普段とても明るい陽キャなギャルがブチギレるのってマジで怖いから、俺も水瀬さんの事だけは怒らせないようにしないとな。


(……ってか、あれが水瀬さんの元カレだったんだなぁ……)


 家に帰って一人になって改めて思い返してみたけど、やっぱりあの元カレかなりのイケメンだったよなぁ。 普通にアイドルとか俳優さんとか言われても違和感無いレベルで凄かったし。 やっぱり水瀬さんもああいうカッコ良い感じの男の人がタイプなのかな? それだったら俺みたいな平凡な男と付き合わせちゃって申し訳ないよな……


「うーん……」


 俺は目を瞑りながら自分の顔を弄ってみた。 俺の顔自体は決して悪いわけではない。 いや良いわけでも決してないんだけどさ。 俺もあのイケメン男みたいな最高の顔を持って生まれてみたかったなぁ。


「……ま、ないものねだりしてもしょうがないか。 ふぁあ……」


 俺は自分の顔を弄るのを止めてもう一度大きな欠伸をした。 “俺の顔があまりにも平凡過ぎる”という変えようのない事実をいくら考え直した所で結果は変わらないんだからさ。 そんな事よりも何か楽しい事を考えてた方が絶対に良いわ。 という事で今日も俺は水瀬さんと一緒にやりたい事を考えていく事にした。


(うーん、水瀬さんと一緒にやりたい事かぁ……あっ)


 俺は水瀬さんとやりたい事を考えてみたんだけど、案外すぐに見つける事が出来た。 まぁかなりベタなんだけどさ、水瀬さんと私服デートとかしてみたいな。 いや正直に言っちゃうけど、もうこんなん俺が水瀬さんの私服姿を見てみたいっていうだけなんだけどさ。 だからもちろんだけど、水瀬さんとのデートの内容なんて何も思いついていない。


(デート……デートかぁ……)


 俺は無い知恵を振り絞って水瀬さんとのデートのシュミレーションをしてみようとしたけど、俺の頭では何も思いつけなかった。 そういえば昨日もそんな事を考えたけど、でも結局水瀬さんとどんな所に行けばいいのかわからなくて断念してたっけ。


「うーん、どうしたもんかなぁ……」


 俺は瞑っていた目を一旦開けて、近くに置いてあったスマホを手に取って検索を開いた。 そして“高校生 デートスポット”と打ちこんで検索結果を見てみた。


「どれどれ……なるほどなるほど」


 プラネタリウム、水族館、動物園、遊園地、映画館などなど、王道なデートスポットが色々とヒットした。 デートという行為をまだ一回もした事がない俺にとっては何処に行けても凄く楽しそうだなと思った。 でも水瀬さん的にはどうなんだろう? というか水瀬さんは普段どんなデートをしてたんだろ……って、いやちょっと待って、ってかそもそもだけどさ……


「……水瀬さんの好きなものって……何だ??」


 今更になって俺は水瀬さんの好きな物をあまり知らない事に気が付いた。 水瀬さんは指輪が好きなのは知ってるけど……でも他についてはあんまり知らないな……


 もし歌が好きならカラオケとか、ドラマや映画とかが好きなら映画館とか、アトラクションとかが好きなら遊園地とか、水瀬さんの好きな物を知っていたらそれに合わせたデートとかを考えられると思うんだけど……いや、そもそもだけど俺が水瀬さんをデートに誘ったとしてオッケーしてくれるのかな?


「う、うーん……流石にそれは微妙そうか」


 ただでさえ嘘のお付き合いをさせて貰ってるだけなんだし、さらにあんな最強レベルのイケメンな元カレを見てしまったら……俺みたいな凡人男がこれ以上水瀬さんに要求するのは流石に申し訳ないレベルだよな。


 まぁでも、デートの件は抜きにしても、水瀬さんの好きな物をちゃんと把握しておく位はしておいても良いよな。 今後水瀬さんとの雑談の幅も広がると思うしさ。


「……うん、そうだな。 明日は水瀬さんの話を聞いてみようっと」


 という事で明日の水瀬さんとの話のネタを考え終えた俺は、安心してそのまますぐに眠りについた。

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