第2話

 これは俺がギャル達の嘘告白の話を盗み聞きしたその日よりも少しだけ前の出来事だ。 その日のお昼休みは友達と一緒に学食でお昼ご飯を食べていた。


「あー、彼女欲しいなぁ……」

「……どうしたの、急に?」


 俺はご飯を食べながらそんな事を呟いた。 すると一緒にお昼ご飯を食べていた友達の朝倉達也が怪訝そうな顔でこちらを見てきた。


「いやだってさぁ、俺達が高校生になってからもう半年以上経ってるんだぜ? 高校生になったら彼女が出来てデートとか色々と青春が出来るって思ってたのにさぁ……それなのに出会いが全然無いんだけど? 一体どうなってるの??」

「いやまぁ、僕達の学校は中高一貫だからねぇ。 新しい出会いってのは中々に難しいんじゃない?」


 俺がそう嘆くと達也は冷静にそんな事を言ってきた。 俺達が通っているこの学校は都内にある中高一貫の進学校だ。 俺も達也も中学からこの学校に通っているため、達也とはもうこれで三年以上もの付き合いになる。


 もちろん高校からこの学校に入学してきた生徒もいるけど、大多数は中学からのエスカレーター式に進学してきた生徒ばかりなので、新しい出会いというのはあんまり無かった。


「はぁ……なんか中学生の頃はさ、高校生って凄く大人だなーって感じなかったか?」

「あ、うん、その気持ちは何となくわかるよ」

「だよな? だから俺も高校生になったらすぐに彼女が出来てさ、その彼女と一緒にデートしたりご飯食べたりとか、色々な事が出来ると思ってたんだけどなぁ……」

「いやそれは大人になる事とは全く関係無いと思うんだけど? まぁ要は楽しい青春が送りたいって事かな?」

「そうそう! 青春だよ青春! いいよなぁ……山田の奴。 今頃彼女と二人でご飯でも食ってんだろうなぁ」

「あぁうん、そうだろうね。 山田君は今が一番楽しい時期だろうしね」


 山田正孝は俺と達也と同じく中学からこの学校に通っている同級生で、中学一年の頃からずっとつるんできた友達の一人だ。 そんな山田につい最近、初めての彼女が出来てしまったのだ。


「くそう……あんの裏切者めぇ……」

「はは、怨嗟の声が凄いね」


 俺のそんな悪態をついた様子を見て達也はケラケラと笑ってきた。


「はぁ……でもどうやって彼女作ったんだアイツ? 俺にも彼女の作り方教えてほしいわ」

「んー、何か趣味が同じだったらしいよ。 お互いに料理が好きらしくて、そこから話が広がっていったんだってさ」

「へぇ、なるほどなー。 あ、じゃあ俺も趣味を見つければワンチャンあるって事かな??」

「うーん、どうだろうねぇ? まぁでも、圭吾には勉強っていう立派な趣味があるでしょ」

「え、えぇ……いやそれは趣味じゃねぇよ……」

「いやでも圭吾の学年成績は上位5位以内に常に入ってるじゃん。 それだけ勉強出来るんだから、もうそれは立派な趣味って事でいいんじゃない?」


 達也が言ったように、俺は成績は中学の頃からずっと上位5位以内に入っていた。 そしてそれは高校に進学した後も変わらず、俺は上位5位以内の成績を維持し続けていた。


「う、うーん……いやでもさ、勉強なんて時間かければ誰だって出来るだろ? そんなのを趣味って言ってもいいのか?」

「いやいや、大多数の人は圭吾みたいに好き好んで勉強なんてしないからね。 皆行きたい大学があるとか、将来の夢があるからとか、何かしらの目的があって勉強してるだけだからね。 それなのに圭吾はさ……どうして勉強してるんだっけ?」

「え……そ、それは……何ていうか、面白いから?」


 そう、俺は別に何か目標があって勉強をしてる訳じゃないんだ。 めっちゃ難しい大学に行きたいとか、将来の夢のために勉強を……とか、そんな立派な目標は何もない。 ただ単純に問題を解くのが面白いから勉強をしてるだけだった。 そしてそんな軽い気持ちで勉強を続けて行ったら、常に上位の成績が取れるようになっていたというだけの話だった。


「あはは、それだけ勉強を面白いって言えるだけで立派な趣味でしょ」

「う、うーん、そうなのかなぁ……いやでもこんな趣味でどうやって彼女作るんだよ?」


 いや違う違う、忘れてた、俺は彼女が欲しいって話をしてたんだった。 趣味を見つけたいって話じゃねぇよ。


「あはは、まぁいつかは圭吾にも良い人が出来るんじゃない?」

「いつかっていつだよ……はぁ……俺も彼女欲しいよ……」


 という事でその日は彼女が欲しいという話を達也としていた。 そしてそれからわずか数日後に噓告白の話を聞く事になるとは思いもしなかった。

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