第4話おまけ①ダイエット






フレア・フロウ

おまけ①ダイエット


 おまけ①【ダイエット】




























 「・・・・・・」


 クノ一、風雅は悩みがあった。


 「ふ、太った・・・」


 久しぶりに体重計というものに乗ってみたら、以前よりも体重が増えていたのだ。


 確かに、最近ちょっと脂っこいものを多く食べているかもしれない。


 はあ、と大きなため息を吐いていると、銀魔に声をかけられた。


 「風雅、どうした?そんなにでかいため息吐いて」


 「・・・銀魔さん、それが・・・」


 太ったことを正直に話すと、銀魔は笑いを堪えていた。


 「銀魔さん!私本気でショックなんですからね!!!」


 「っっ・・・ああ、そうだよな。っく」


 笑いが止まらないのか、銀魔は堪えきれずに腹を抱えていた。


 それを見て風雅は怒りを露わにしていると、涙目になりながらもまだ笑っている銀魔が、こんな提案をしていた。


 「飛闇と一緒に運動すればいいだろ?結構キツい運動してるみたいだから、すぐ痩せるんじゃねぇか?」


 「なるほど・・・そうですね!良い考えです!!」


 言われた通り、風雅はすぐに飛闇のところへ向かうと、飛闇はもうすでに鍛錬していた。


 何度か名前を呼ぶが、飛闇はなかなか返事をしないため、風雅は足元に落ちていた、少し大きめの石を飛闇に向かって投げた。


 こちらなど全く見ていないのに、飛闇はそれを簡単に払いのけると、風雅の方を睨みつけてきた。


 「なんだ」


 「ねえ、ちょっと一緒にやっていい?邪魔しないから」


 「勝手にしろ」


 飛闇は太い木の枝に両足をかけ、身体をぶらんと逆さにすると、そこから腹筋をしていた。


 それが終われば、今度は同じ枝に両腕を掴み、懸垂を始める。


 風雅もそれを見て、同じように枝に捕まって懸垂を始める。


 女の中でも結構出来る方だと思っていたが、50回が限度だった。


 ちらっと飛闇の方を見れば、風雅よりも速いペースでやっているから、もう軽く100は越えているだろう。


 負けじとやっていると、飛闇は目標数終わったのか、続いての鍛錬に入ってしまう。


 飛闇は木に登ると、風が吹いた途端、素早く10メートルほど離れた木へと一瞬にして移動した。


 風雅も同じようにやったが、同じようにやっているはずなのに、飛闇には傷一つついていないが、風雅は腕や足に少し切り傷がついた。


 それが終われば拳術、太く長めの枝を持っての棒術、とにかくほぼ一日、そんな鍛錬をしたあと、また最後に腹筋背筋、腕立てに瞑想と、なんだか忙しい一日だった。


 体力にはそれなりに自信があった風雅だが、さすがに休憩なしでこの密な内容をこなしたためか、疲れ切っていた。


 「はあ、はあ・・・。飛闇、あんたよく疲れないわね」


 「これくらいで疲れたのか。お前もまだまだだな」


 「うっさいわね!・・・って何処行くのよ?まさかまだ鍛錬する心算じゃないでしょうね?」


 「お前は馬鹿か」


 「はい!?」


 飛闇の言葉にカチンときた風雅だったが、飛闇は鍛錬の時よりも真剣な面持ちだった。


 「あ」


 そうだった、と風雅はこの時思った。


 いつも野生の動物たちを捕まえてきたのは飛闇だったと。


 こんなハードな鍛錬をしたあとに、自分達のご飯まで捕まえてきてくれていたのだ。


 飛闇曰く、野生の動物を捕まえるよりも、鍛錬をしている方が楽だとか。


 それは、鍛錬ならば辛い、きついと思ったときに止めることが出来るが、野生の動物は待ってはくれない。


 逃げるか戦うかしないと、あちらだって生きるか死ぬかなのだから仕方ないのだが、思う通りには動いてくれないものだ。


 「ねえ」


 「しっ。静かにしろ」


 「・・・・・・」


 着いてきたのは良いが、じっとしているのも疲れるのだと風雅は知った。


 そして茂みから姿を見せたのは、大型の熊だった。


 ほえー、と感心していると、飛闇はゆっくりと熊に近づいていった。


 「ちょっと!」


 コソコソと話すが、もう飛闇の耳には届いていないだろう。


 飛闇よりも倍以上大きい熊、それも野生の熊を、どうやって捕まえる心算なのだろうか。


 これまでにも、飛闇が熊を捕まえてくることはあったが、どうやって捕まえるのかを見るのは初めてだ。


 熊が飛闇に背を向けた瞬間、飛闇は茂みから飛び出してしった。


 「!!!」


 熊も飛闇に気付いたが、こちらを向くよりも先に、飛闇が熊の背中に一撃を入れた。


 しかし、それだけでは熊は怯まず、飛闇の方に向かって雄叫びをあげた。


 これを見ていた風雅は、両手を合わせてただ祈ることしか出来なかった。


 熊が右手を大きく振りかぶると、飛闇は右手側に走り込み、脇を蹴飛ばした。


 少しバランスを崩した熊だが、すぐに左手で飛闇を叩きつける。


 それにくじけず、飛闇は熊の後頭部を蹴飛ばすと、連続で足元を蹴ってバランスを崩し、後ろに仰け反ったところで顔面にパンチを入れる。


 大人しくなったかと思ったが、熊は両腕を動かして飛闇を捕えた。


 「!!!」


 やばい、助けないと、と思った風雅はその場に立ちあがったが、熊が上半身を起こしたのを見て、飛闇は頭突きを喰らわせた。


 それが想像以上に効いたようで、熊は飛闇を解放して額を摩る。


 その隙に飛闇は熊の腕ごと、一緒に顔面を蹴飛ばした。


 風雅には一体全体、良く分からない攻防戦が続いたあと、飛闇は鍛錬以上にボロボロになって熊を捕獲した。


 熊の両手両足をそれぞれ縛ると、自分の首の後ろに回して担ぐ。


 「・・・・・・」


 そんな後姿を見て、風雅は思った。


 この男は、何の為に鍛錬をしているのだろうと。


 飛闇が捕まえた熊を調理して、いつものように食事をする。


 その時、銀魔が風雅に話しかけてきた。


 「そういや風雅、ダイエットは成功したのか?」


 「・・・ダイエット?」


 そういえば飛闇には言っていなかったと、風雅はなぜいきなり飛闇の鍛錬に参加したのかを白状した。


 「ま、気長にやるこったな。上手い飯を喰わないってのも、酷だからな」


 「やっぱり食事も制限しないとダメですよね・・・。ていうか」


 「ん?」


 「銀魔さんは寝て食べて寝て食べてなのに、なんで太らないんですか?」


 飛闇が太らない理由は良く分かったし、強い理由も良く分かった。


 だがしかし、鍛錬している様子もなければ、これといって運動をしている様子もない。


 肉体を見たことはないが、見ている限りだらしない肉体ではないことは分かっている。


 「あ?俺か?」


 「もしかして意外とお腹ぼてっとしてるわけじゃないですよね?」


 「お前なぁ、この俺の身体がんな情けないことになってると思うか?」


 「思いません。思いませんけど、だから不思議なんです!私だけ太るなんて理不尽です!納得出来ない!」


 なんだそりゃ、と言いながら、銀魔はずずっと茶碗に入ったそれを平らげた。


 そして、風雅の気持ちなどまったく気にせず寝てしまった。


 「・・・納得いかないわ」


 「風雅、お前の見張りの番だぞ」


 「はいはい」


 茶碗を片づけたあと、風雅は木の上に向かって見張りを開始する。


 焚火を軸に、銀魔と向かい合う様にして座った飛闇は、まだ起きているだろう銀魔に声をかけた。


 「寝た振りは下手ですね」


 「・・・上達してきたと思うんだけどな」


 ぱちっと目を開けた銀魔は、ふあああ、と眠そうに欠伸をする。


 「俺よりトレーニングしてるって言えば済むと思うんですけど」


 「言ったところで、あいつはぁ納得しねぇよ」


 「そうでしょうか」


 「だってよ、あいつ太ったって騒いでたけど、何キロ太ったか聞いたか?」


 「いえ」


 「それがよ・・・」








 翌日、風雅はまた飛闇の鍛錬を一緒にやろうと思っていた。


 「ねえ、今日も一緒にやっていいでしょ?」


 「・・・風雅」


 「何?」


 すごく真面目な顔つきで、飛闇が風雅の方をじっと見てきた。


 ちょっとドキッとしてしまった風雅だったが、次の飛闇の言葉を聞くと、きっとそんな感情一瞬で消し去ってしまうことだろう。


 「500グラムなんて、太ったうちに入らないし、用をたせばすぐ減るぞ」


 「・・・・・・」


 「まあ、鍛錬自体は悪い事じゃないからな。やりたいなら勝手にやればいい」


 「・・・・・・」


 「?風雅?」


 下を向いてしまった風雅を不思議に思い、飛闇は声をかけるが、風雅は拳を握ってワナワナと震えていた。


 「ば・・・ば・・・」


 「ば?」


 「ばっかやろーーーーーー!!!!」


 そう叫びながら、風雅は何処かへと勢いよく走って行ってしまった。


 飛闇は首を傾げていたが、戻ってきた風雅は、走ってきたお陰か体重が減っていたことで、飛闇に言われたことなどすぐ忘れるのだった。


 「・・・女ってのは難しいな」



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