第7話おまけ①「依頼者」
死者請負人
おまけ①「依頼者」
おまけ①【依頼者】
「私にご依頼、ですか?」
「ああ、死んだらなんでもやってくれるっていうの、あんただろ?」
「何かの勘違いされているのでは?」
「いや!絶対あんただ!!上下黒のスーツの怪しい男がいるって聞いて、絶対あんただと思ったんだ!!」
「上下黒のスーツ姿の男なんて、沢山いるではありませんか。それに、あなたの言い分ですと、私が怪しく見えたということでしょうか」
「とにかく!!俺が死んだら、やってほしいことがあるんだよ!!なあ!!頼むよぉオオ!!」
「ですから、何か勘違いされていると思います」
「なんだよ!!こんなに頭下げてるのによおお!お高く止まりやがって!!もういい!!」
ずんずんと店を出ていってしまった男を見届けてから、一応後をつけてみる。
そもそも頭など下げてもらってもいないのだが、どうしてそこまで男が依頼をしてくるのか気になった。
すると、男は別の店で誰かと待ち合わせをしていたようで、店に入るとすぐ手をあげて端の方の席に座った。
「誰だ?」
待ち合わせしている人物の顔は見えないが、その相手から金が入った封筒を受け取ると、男は店から出てきた。
「・・・臭うな」
尾行を続けていると、男は携帯で誰かと話をしていた。
そしてまた待ち合わせなのか、男は変な白菜みたいな銅像の前で待っていると、そこへ、1人の男がやってきた。
「・・・え?」
驚いたことに、そこにきた男は、尾行していた男と顔がそっくりだったのだ。
もしかして双子なのか、それともただのそっくりさんなのか、わけがわからずにじっと見ていると、2人は居酒屋に入ってしまった。
店の奥の方に入っていったため、同じように居酒屋に入って出口近くに座ると、店主に声をかける。
「あの、あそこの2人って、双子なんですか?顔そっくりですよね」
「ああ、あいつらか。さあねえ、どうなんだろう。でも、兄弟じゃねえって言ってたな。あれだけ似てる他人がいるなんて、気味が悪いよな。で、兄ちゃん、注文は?」
「あ、じゃあ、軟骨とウーロン茶」
それからすっかり空は暗くなり、別に怪しいところもなかったため、気にはなったがそのまま帰ろうとした。
「!!!」
振り返ったその時、まったく気配など感じなかったのに、そこには若い男がにこにこ笑いながら立っていた。
「驚かせるな」
「すみません。それより、何をしていらっしゃったんですか?」
「いや、あそこにいる男が、俺に依頼をしたいっていきなり声かけてきて」
「依頼、ですか?」
「ああ。なんでも自分が死んだら、遺品整理をしてほしいってことなんだが、どうも妙でな」
「妙とは?」
「遺品整理を、家族にバレないようにしてくれって。だから、見られたくない物があるなら先に処分するなり、もし仮に整理中に何か見つけたとしても、家族にも口外はしないって言ったのに、何処に何かあるか分からないから頼んでるんだっていきなりキレて」
「ご家族にバレないように、ですか。何かわけがあるんでしょうね」
「ああ、それより、お前と俺を間違えるってどういう・・・って、もういねぇし」
スタスタと歩いて行くと、男が1人になったところで、声をかけてみた。
一通りの紹介をすると、男は先程会ったのは間違いだったのかと気付き、申し訳なさそうにしていた。
そんなことは気にしなくて良いと言うと、男は事情を話してくれた。
「実は、もともと女なんです」
「・・・はい?」
耳を疑った。はい、耳を疑いました。
しかし、男は至って真面目のようだ。
「性同一性障害というやつで、女だった身体も顔も、整形して男にしたんです。だから、昔の女ものの制服とかもまだあるし、その頃の写真も・・・。親には中学生の頃にカミングアウトしていたんですけど、今の嫁にはそのこと言っていなくて・・・」
「そういうことでしたか。では、家族に内緒で、の家族というのは」
「嫁のことです」
「なるほど。昔の女だった頃の自分の姿を見られるわけにはいかないということですね。それにしても、なぜ先程の方と同じような顔立ちなのですか?」
「ああ、それは、整形するとき、あいつに似せてくれって頼んだんです。男なら、ああいう顔になりたいなって思ってたから」
「そうでしたか。全て話していただいて、ありがとうございます」
そう言うと、黒い鞄から白い紙を取り出し、差し出した。
「お気持ち、確かにお受け取りしました。ご契約していただければ、私が責任もって、ご希望通り、遂行させていただきます」
「じゃあ・・・!!」
「お客様のその依頼、私、氏海音がしっかりとお受けいたします」
「あ、ありがとうございます!!」
「結局受けたのか」
「ええ、それが私の仕事ですから」
「・・・別に今すぐ死ぬわけじゃないんだろ?なんでわざわざお前のところに」
「さあ・・・。しかし、備えあれば憂いなしということでしょう。それより、私と間違われて不愉快そうな顔をされてましたが、それは私も同じですので、あしからず」
「お前、昔より意地が悪くなったか?」
「そんなことありませんよ?私は何も変わっておりません。私を変わったと思うのであればきっと、それは、あなたが変わったからでしょうね」
「俺が、ねぇ・・・」
「では、失礼します」
氏海音が去って行く背中を見ていると、耳につけていたインカムで名前を呼ばれた。
《修さん!今どこ!?おっさんが修さん連れて来いって!!》
「ああ、凛か。すぐ向かう」
次に目を向けたときには、氏海音の姿は見えなくなっていた。
「・・・放浪癖は昔通り、か」
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