第245話 ゴミ漁りと邂逅
「ドーバーナ」
「何ですか、メラニー」
「飽きた。戦いたい」
「まったく。まあ、確かにああやって戦いに向かう姿を、眺めるばかりだからね」
ドーベルマン風コボルドのドーバーナと白ポメコボルドのメラニーは、作業の手を止め、遠目に見える、新たなダンジョン攻略に出撃していくガチョウ騎乗兵を見送っていた。
今回の叙勲を頂けなかった二人は、基本的に待機となっていた。
しかしそんな暇をしていた二人にも作業が割り当てられ、最近はそれに従事している。
「全軍での物資不足は深刻みたいよ」
「知ってる。でも、暇は暇」
「そうね。せめて外部との交易部門でしたらよかったんだけど。粗悪でもダンジョン
次に二人の近くを通っていくのは、人の上半身とザリガニの体をした新参の混沌たち。
彼女たちは、ザリガニ部分に専用の背負子をつけて大量の荷物を運搬していた。
かつて人のすむ街だったここらは、虹の地平となった事ですっかり悪路と化していた。
しかしザリガニ娘たちはそんな悪路を苦にした様子もなく、整然と通りすぎていく。
「──話すのは、や」
「メラニーは、そうよね。さあ、じゃあ仕方ないしさ、ここを終わらせてしまおう」
二人が従事しているのは簡単に言えばゴミ漁りだった。
コボルド達の陥っている物資不足は、人との交易では必要な物品が賄えないものも多いのだ。
特に、新参の渾沌たちだ。彼ら彼女らにはダンジョンやその周辺に生じる専用の物品が、生存に必要だった。
ダンジョンから漏れる魔素により天然の栽培ハウスとなっている元、民家を漁る作業を、ドーバーナとメラニーは主に行っていた。
「理解できない。これが必須物資だなんて」
「まあまあ。それだけ軍編成が多様化したから。偉大なるお方は何か素晴らしいお考えがあるのでしょ」
本日、十数件目の民家で元、冷蔵庫だったものを漁る二人。
中から取り出した真っ黒なものを専用のケースに詰めていく。
電気の供給が途絶えて数年間、魔素に晒されながら変性したそれは、とても危険な香りを放っていた。
鼻の鋭敏なコボルドには辛い作業だ。
それでも、これが偉大なるお方の方針に準じた作業であるという一点で堪え忍び、二人とも真面目に採取を続けていた。
そうやって作業を続けているときだった。
二人の名を呼ぶ声がする。
「あれ、そこにいるのはドーバーナにメラニー、かな?」
それは子供のダークコボルドのようだった。しかし毛の色が異なっていた。
その灰色の毛の色をしたコボルドをみた瞬間、ドーバーナは驚きのあまり、手を振り上げ後ろに倒れ込んでしまう。ドーバーナの手にもっていた、冷蔵庫から採取したばかりの危険物が宙を舞い、口を開けて唖然としていたメラニーの顔面にジャストヒットする。
鼻孔に充満する香りで、メラニーもドーバーナと同じように後ろに倒れ込んでしまった。
「あれ……? もしかして、これって俺のせい?」
倒れこんだ二人のコボルドを交互に見ながら、ユウトが操るユシのアバターは困惑の表情をしておろおろするのだった。
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