第六部 人道

第233話 第六部プロローグ

「ユウト君、昨晩はお世話になりましたです」

「ユウト、またね」

「ああ、早川も気をつけて。目黒さん、お手数をお掛けしますが、よろしくお願いします」


 一夜明け、朝食を終えた俺たち。目黒さんが早川を自宅まで車で送ったくれるとのことで、見送りに外に出ていた。


「ユウト君、ドローンの件でまたあとで来ます。……あと、ジャージと、その……制服もクリーニング終えたら……必ず──」


 話しながら、昨晩のことを思い出したのだろう。顔を真っ赤にして、それでも律儀に告げる目黒さん。

 俺も、なんと返事をするのが正解かわからず思わず固まってしまうが、何とか言葉短く返す。


「……はい」


 何故かじとっとした視線を感じる。俺はとっさに早川の方を向く。しかし、俺が早川の方を見たときには、早川はこちらを見てはいなかった。

 気のせいかと首を傾げているうちに、目黒さんがエンジンを始動して車を走らせ始める。


 あっという間に目黒さんの車は、視界から消える。


「──さて、片付けでもしますか」


 俺は独り言を呟くと、一瞬動きを止めるも、すぐに家へと戻る。

 最近は、独り言にいつもクロがコメントをくれていたのだ。気がつけば、それが習慣になってしまっていた。

 思わずクロがする、コメントを待ってしまっていた。


「……一人暮らしって、こんなに味気なかったんだっけ。はぁ、今日は学校も休みだし、片付けでもするか」


 先ほどまで居た、早川と目黒さんの痕跡。

 それを一つ一つ、片付けていく。

 朝食のお皿を洗い、二人が使用した予備の寝具を、布団と枕は干して、シーツは洗濯へ。


 そうやって無心に体を動かしていく。


 そんな諸々の家事も気がつけば、だいたい終わってしまう。


「勉強でも、するか……」


 部屋に戻って机に向かうも、なんとなく気がのらない。視界の端に見える、空っぽの充電器。

 普段はクロがそこで充電をしている台座型の充電器が、やけに目につく。

 俺は勉強をほどほどで切り上げると、ため息をついてた立ち上がる。


「ダンジョン&キングダムの続きでも、やるか……」


 それもフルダイブでガッツリやるのも何となく億劫でテレビのモニターをつける。

 たまたま、ニュースが流れていた。


「速報です。現在、世界各地で謎のダンジョン消失現象が複数、確認されております。ダンジョンボスの討伐が成されないままに、突然消失するダンジョン。現在確認されているだけでもその数は数十例を越え、関係機関からは困惑の声が上がっております。不思議なことに我が国では、今だ同様の現象は一例も確認されておらず、その一方、主要同盟国ではどの国も例外なく消失現象が観測されており、その因果関係の確認が急ぎ進められて──」


 流れていたニュースを俺は何となく見てしまう。


「ダンジョン無くなるなら、平和で良いだろうに。あ、早川は、ダンジョン配信のチャンスが減るって嘆きそうか。まあでも、外国の話しみたいだしな──」


 そんな誰からもコメントのない独り言を呟くと、俺はそのままチャンネルを外部入力にかえて、半日ぶりにダンジョン&キングダムを始めるのだった。

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