第222話 救援しよう

「なんだか、このユシの姿も久しぶりな気がするな。それにしても、ダンジョン内にこんな雪原のステージもあるのか」


 濃厚な一日のせいで久しぶりに感じるダンジョン&キングダムの感想を呟きながら、俺は周囲を見回す。一面の白銀の世界だ。

 そして横殴りの雪が体に当たる。しかし、ユシの毛皮のお陰か、特に寒くはない。


「救援クエストか──とりあえず、武器はっと」


 いつものメニュー画面を開くと、なぜか見慣れない感じに、変更されていた。


「アップデートでもあったのかな。あれ、なんだこれ──新聞紙ソードがある……」


 不思議に思いながら新聞紙ソードを装備するとユシの右手に現れる新聞紙ソード。それはとても見慣れた姿をしていた。

 試しに軽く素振りをしてみる。

 とても手に馴染む。


「不思議だ──、あ、時間制限あるんだっけ」


 俺は不思議に思いながらも、急いでマップを開く。表日されたのは、徐々に減っていく数字と、敵味方らしきアイコンだ。


「なんだか、ここも親切設計だな。まあ、吹雪のせいかいつもよりユシの鼻が効かない感じだから、助かるけど」


 俺はとりあえず一番近くの敵のアイコンに向かうことにする。


 一歩、踏み出す。そのまま、雪原を駆けるユシの体。

 最初は雪に足が取られかけるが、すぐにピコンと音がして、雪に足が沈むことなく駆けられるようになり、一気に速度があがる。


「スキル、雪上走駆さうくか。助かるけど、変な読み……」


 雪の表面に足がつくと、不思議なことにそれ以上足が沈み込まなくなっていた。快調にとばしていると、すぐさま最初の敵が見えてくる。


「ドラゴンだっ。あーでも氷で出来ているのか……」


 一瞬、ドラゴンステーキが作れるかもと、心が沸き立つも、残念なことに食べられなさそうだった。


「近くに二つ、味方ユニットのアイコンがあるけど──あれか」


 地図と見比べて、それらしきものを見つける。雪にまみれているようで、味方は詳細がよく見えない。ただ、まあアイコンがあると言うことは生きている──間に合ったのだろうと胸を撫で下ろす。


「あの雪はどうもドラゴンが吹き付けたものみたいだなー」


 ドラゴンの周囲に浮いている雪玉を見ながら俺は呟く。

 それが聞こえたのか、俺の方に向き直るドラゴン。その周囲に浮かぶ雪玉も、その動きにあわせてこちらへと狙いを定めたようだ。


 吠え声とともに、無数の雪玉が俺の方へと飛んでくる。とはいえ、大した速度ではない。


「もしかして、これはあれができる!?」


 俺は試しに先頭で飛んできた雪玉にジャンプして足をかける。

 ふわりとした感覚だが、直感的に行けると感じられ、そのまま雪玉を足場にして、再度ジャンプする。


 そのあとも、次々に飛来する雪玉を順々に足場にして跳ねていく。


 ユシの体が軽快に空を舞うようにしてどんどんドラゴンの頭の高さまで上昇していく。


「うわっ、これ、ちょっと楽しいかもっ」


 気がつけばドラゴンの顔がすぐそこだ。

 氷製のモンスターとは思えない表情豊かな顔が、ポカンとした顔をさらしている。

 どうやら俺の挙動に驚いているらしい。


 ──ふーん。随分と精巧に作られてるんだな。ダンジョン&キングダムってやっぱり凄いゲームなんだね


 そんなことを思いながら、俺は新聞紙ソードを振り下ろす。


 その一撃で氷のドラゴンの頭部が粉砕される。手応えが軽い。生じたヒビがドラゴンの全身に走ると一気に霧散していく。


「ふぅ。まずは一体。脆い敵で助かるわ。あ、時間時間。次はあっちかー」


 雪の地面に降り立つと、ちらっと味方ユニット二体の方を見るが、やはりほぼ全身が雪まるけだ。

 まあ大丈夫だろうと、俺は次の敵のアイコン目掛けて走り出すのだった。

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