第206話 最後の一振り

「抜いたどーっ」


 シロたちのわらべ歌に後押しされて、白銀の大鋏をついに引き抜く。

 両手をそれぞれの指穴のリングにかけて、大鋏を掲げるとジョキジョキと開閉させながら雄叫びをあげる白銀のシロ。


 わらべ歌を歌っていた他のシロたちが。

 ダークコボルドたちが。

 そしていぶまでもが、その雄叫びに応えるように歓声をあげている。


「新たなる七武器の担い手たる白銀のシロに、祝福を」


 そのいぶの宣言に、いっそう歓声が大きくなる。


 それに応えるように、白銀のシロが叫びかえす。


「偉大なるお方の忠実な僕たる、尊敬すべきダークコボルド達っ」

「おうっ!」

「その身を捧げ、うまれし地たるハラドバスチャンを棄てる勇敢なる者達よっ」

「うおっー!」

「白銀のシロが手にしたこの大鋏にて、君たちのハラドバスチャンとの絆を、いまここに断つ」


 そういって、大鋏を勢いよく閉じる白銀のシロ。

 ジョキンという音が広場に響き渡る。


「これで君たちは帰る場所を棄てし者となったっ。君たちは、その命が絶えるその時まで、偉大なるお方に新なる献身を捧げる、忠義者である!」


 それまでとは一線を画すほど大きな歓声が、ダークコボルドといぶから上がる。

 いつまでも続きそうな歓声も、白銀のシロが他のシロたちの元へと戻ると、ついに止んだ。

 そして逆に静寂が辺りを支配する。


 その場にいた者達の熱い視線が、最後の一振りとなった七武器──時の狭間を穿つとされる短槍へと注がれる。


 しかし先ほどとは一転して、誰も挑戦を名乗り出るものがいない。


 ただただ、無言の熱気だけがその空間に積み重なっていく。

 そしてついに、いぶが口を開く。


「イサイサよ。二振りの七武器を担う君は、最後の一振り。誰を推すかな」


 ダークコボルドたち皆の熱い視線が、イサイサへと注がれる。

 それを当たり前のように受け止め、一考の後に口を開くイサイサ。


「──人としては、唯一この場に偉大なる方よりユニークスキルを授けられた者。彼を推します」

「名を」

空白スペース、加藤しゅう

「──え、おれ?」


 ポカンとした顔をさらす加藤。


「ほら、加藤」「名指しさせたよー」「男を見せろー」「か、と、うっ」「か、と、うっ」


 口々に囃し立てるシロたち。ダークコボルドたちもつられるようにして、加藤コールに参加する。


 到底あとには引けない雰囲気に、ぎくしゃくと前に進み出す加藤。

 その肩を腰を、ダークコボルド達が気合いを入れるようにパンパンと平手で叩く。


 終わらない加藤コールのなか、ついにその目の前には、床より突き出た、七武器の最後の一振りがあった。

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