第205話 七武器の担い手
加藤たちが祭壇の間につくと、そこは異様な熱気に包まれていた。
祭壇の間の最奥に、クロと、いぶの姿が見える。
その二人の目の前で、ダークコボルドたちが次々に床に突き立てられた武器に手をかけようとしては、弾かれたように後退する、というのを繰り返していた。
──あれが、七武器か。たしか残された七武器は二つだったよな。大鋏と短槍、だったか。
加藤が見守る間にも、七武器の短槍に挑もうとダークコボルドが一人、奮闘している。何とか武器の柄に手をかける、そのダークコボルド。
それだけで周囲にひしめくダークコボルド達から歓声が上がる。しかし、結局そのダークコボルドは短槍を抜くことはできなかった。
すごすごと尻尾を丸めて下がるダークコボルド。それを迎えた別のダークコボルド達が健闘を称えるようにその毛皮をワシャワシャしている。
「イサイサ、これがさっき言ってたやつか」
「そう。あれ、シロたちもやってみる?」
イサイサが、けしかけるようにシロたちに告げる。
「やるー」「当然っ」「誰がいくー?」「こういうのは一番年長と決まっているの」「え、そう?」
十三人のシロたちが、のりのりで口々に話している。
そうして、シロのうちの一人が、前へと歩み出す。
その動きに、周りのダークコボルド達も気がついたのだろう。やんややんやと騒いでいたダークコボルド達が静かになり、ゆっくりと道を開けるように身を引いていく。
シロの前に、人垣で出来た道が開ける。
そのシロの姿を、いぶが認めたのだろう。どこか楽しそうに声をかける。
「いぶちゃんが、挑戦を認める。名を」
「イサイサが使命の子たる長子。シロ」
「シロは名ではないな。いぶちゃんが、君に名をつけてもよいかな」
「よいよ」
「よし。──君は、白銀を名乗るといい」
「白銀──白銀のシロかー。ありがとういぶちゃんさん」
白銀の名を抱いたシロが向かった七武器は、大鋏だった。絆を切断するとされるそれへ、無造作に手を伸ばす白銀のシロ。
その手が、大鋏のハンドルの先の指穴を形成するリングをすっと握り込む。
それだけで、ダークコボルド達から歓声が上がる。七武器に認められなかった者は、触れることすら叶わなかった者が多かったのだ。
ゆえに、触れられただけで歓声が上がるのも仕方のないことだった。
大鋏の指穴は、白銀のシロの握り拳より、かなり大きい。ハサミ自体の長さもシロの身長の半分はあるだろう。
白銀のシロは、力を込め、七武器を引き抜こうと踏ん張る。
ジリジリと、大鋏が動き始める。ゆっくりと引き抜かれながら、しかし、抵抗するようにぷるぷると大鋏が振動を始める。それだけで小柄なシロの体も振動してしまう。
「なんか、抵抗するんだけどこの子ー」
「頑張ってー」「もう少しだよー」「あ、みんなあれあれ」「ああ、あれね」「オッケー」
困惑したように白銀のシロが呟いた声に応えるように、残ったシロたちが顔を見合わせ、頷きあう。
そしてシロたちは、歌を歌い始めた。
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