第202話 パジャマパーティー
「お風呂でたよー。ありがとう、ユウトー」
「おう」
「すいませんです。僕まで……」
「いえ、気にしないでください」
夕食の食器の片付けをしている俺に向かって、パジャマ姿の早川と目黒さんが声をかけてくる。
早川の着ているパジャマは、目黒さんから借りたもののようだ。
少しだけ早川の方が身長が高いが、パジャマだからか、サイズ的には問題無さそうだった。
ちらりとそちらを見た俺は、すぐに視線をそらす。
視線の端に残る、ほんのりと上気した肌。
鼻先をくすぐる、微かに漂う石鹸の香り。
急に、室内の温度が上がったかのようだった。
「片付け。代わろうか? ユウトもお風呂に入ってきなよ」
「いや、もう終わるから。ああ、そっちの部屋の押し入れにさ、予備の布団があるんだ。出しといてくれる?」
「はーい」
居間の方へと去っていく早川と目黒さん。
俺はそこで、ようやくほっと息をつくのだった。
◆◇
俺が風呂を出て自室にいると、ドアがノックされる。
「ユウトー。今、大丈夫?」
「──ああ」
「一人で何してるのー?」
俺は手にしていた
「これ。やっぱり、完全に壊れちゃったみたいでさ」
決して風呂上がりの早川たちにまじるのが気がひけて、手持ち無沙汰で落ち着かなかった訳ではない。
確かに、居間の前を通った時に、とても楽しそうな二人の笑い声が廊下まで聞こえてきてはいた。本能が、この居間へ通じるドアを俺から開けてはならないと告げていただけだ。
それはさておき、ここ最近、特に害虫駆除と庭掃除の苦楽を共にしてきたクロが、何とか直らないかと知識が無いなりに頑張っていただけだ。
「あの、ユウト君」
見知った場所とばかりに気楽に部屋に入ってきた早川の後ろ。目黒さんが落ち着かない様子でキョロキョロと室内をみていた。
「そのドローンなんですが、内部のメモリが生きてれば僕のドローンにうつせるかも、です」
「え、それはさすがに悪いですよ。目黒さん」
「僕、ドローンは何体も持ってますし。──あの、例の害虫駆除を引き受けてくれたお礼です」
「本当に、いいんですか?」
「もちろんです! 明日、家に戻ったら早速試してみますね」
「わかりました。よろしく頼みます」
俺が手渡したクロを恭しげに受けとる目黒さん。
俺は全然詳しくないからわからないが、その手つきはなんだかとても頼もしく感じられた。
──目黒さんって、虫食好きでメカに強いのか……
人は見かけによらないなと思っていると、早川がいつの間にか俺の部屋を漁っていた。
「早川?」
「あ、ゲーム機あるじゃん。ユウトは今、なにやってるの? ……ダンジョン&キングダム?」
俺が最近はまっているゲームソフトを手にして、そのタイトルに不思議そうにしている早川。やりたい放題の早川に、俺は思わずため息をつく。
その俺たちの後ろでなぜか目黒さんの笑顔がこわばったことに、俺は気づいていなかった。
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