第183話 引きずり出されたもの
「イサイサ殿、これは何が起きている!?」
部屋の中を風が吹き荒れる。
その風から手で顔を庇うようにして双竜寺が隣のイサイサに尋ねる。
気がつけば、クロの身体から発せられていた銀色の光が鎖状に変化していた。
「クロさんは進化律によって唆されたクロコさんによってその機能の大半を奪われ続けているんですよ。偉大なるお方が、その御手の一振りでその縛の大部分を払われましたけど」
そこでイサイサは敬虔な僕として敬意を捧げるように手をクロスさせると、中空に向かって頭を下げる。
それは、ユウトの家のある方向だった。
「されどその根は深く、完全では無かったと聞いております」
そのタイミングで、歌を終えた幼女たちの一人が、輪を離れてクロへと近づいていく。
「そして、あの鎖は、クロコさんを経由していまだに、進化律へと繋がってます」
クロの身体から飛び出した鎖の端がスルスルとその幼女の手の中へと吸い込まれていく。
「みんなーひっぱってー」「はーい」
わらわらと集まってくる幼女たち。皆が息を合わせてクロから延びた鎖を引っ張り始める。
「それで、これから何がおきるのだ、イサイサ殿」
「お痛が過ぎたものへ、相応の罰を。そして我らが偉大なるお方を恣意的に操り、自らの闘争に利用しようとする愚かな神は、身の程を知ることになるでしょう」
ずるりと、銀色の鎖に絡みとられた何かがクロの身体から引きずり出てきた。
それは、一見すると蛇のように見える。しかもその身体は水で出来ているかのように半透明で、遠目にも液体の質感がわかる。
「残念、外れですか。まあいいです。さあ、自分の闘争には自分で対処なさい。ゆくのです、進化律の影よ」
ぎゅっとイサイサが、白羅ゆりを抱き締め、その耳元で告げる。
まるでそれは、イサイサが『空耳』のユニークスキルを支配し逆に使役しているかのようだった。
愛の虜となっている白羅ゆりは、耳元で告げられたイサイサの声に恍惚とした表情を浮かべている。
イサイサの言葉で縛られたかのように一度身を硬直させる水で出来た蛇。そこで幼女たちの手が緩み、銀色の鎖が緩む。
「あ、そこ。開けてください、空白さん」
イサイサが告げた相手は、空調ダクトの前に立つ加藤だった。
加藤が疑問を顔に浮かべながらも一歩横へとずれる。
鎖を解かれた水の蛇は、イサイサの言葉に従うようにして、その空調ダクトの入口へとその身をおしこんでいく。
すぐにその体がすっかり見えなくなる。
「これで、大穴から現れた炎のドラゴンとやらはなんとかなるはずですよ」
イサイサが双竜寺へと告げる。
その背後では、長らく眠り続けていたクロが目覚めようとしていた。
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