第178話 イケメン
時は少し遡る。
ユウトと早川が、唇を角煮の油で光らせながら、お互いの顔を見つめている時よりも、少し前。
「あだむさんっ」
「オラッ!」
緑川とあだむ対、魂の簒奪者の戦いには不思議な均衡が訪れていた。幸運に包まれた緑川とあだむ、二人の力をもってして、魂の簒奪者とちょうど実力が伯仲していた。
はたしていくらの時を、この敵と武器を交えてきたのか、緑川はすでに把握するのを諦めていた。
ただ自らの内包する幸運の赴くままに手を足を動かす。その体は縦横無尽にダンジョンの建造物を利用し、立体的に魂の簒奪者へと襲いかかる。
あだむは、そんな緑川とは対照的だ。ひたすらに堅実に堅実に、斧を振り、魂の簒奪者の体の一部でも切り取ろうと試みる。圧倒的な速度で振るわれる七武器の一たる斧が、魂の簒奪者へと肉薄を続ける。
終わらぬ闘争の時をはかるものといえば、ただ、僅かな隙に、緑川とあだむがポーションを補給することのみ。それもタイミングを見計らって。緑川とあだむが交互に、だ。
そして一口のポーションで疲労と空腹、そして睡眠を消し去ると、再び戦いへと戻ることを二人は繰り返していた。
そんな無限地獄のような時間の間も、魂の簒奪者たるサラリーマン風の生物は、一時も動きを止めることなく常に戦い続けている。
まるでこの程度の勤務など日常だ、としているブラック会社員なように。
ただ、その身にまとうスーツは感電によって発火したときのまま、不思議なことに燃え尽きることなく常に火をまとっている。
そんな均衡に、ついに変化が訪れる。
「
突如、キャンキャンと響き渡る甲高い鳴き声。
現れたのは二足歩行のポメラニアンとドーベルマン。コボルドヴィラネスのメラニーと、コボルドセイントのドーバーナだ。
緑川に先行して出発した彼女たちがようやく到着したのだ。
そのままスキル名を叫んだメラニーの足元から、幾体ものモンスターが現れる。
それは、コボルドヴィラネスのスキルによって道中メラニーにテイムされた雄のモンスターたち。もちろん、各モンスターの種族基準で、イケメン揃いだ。
それらのモンスターが、魂の簒奪者へと襲いかかった。
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