第156話 授かり物
「ああ、はじめまして。あなたが双竜寺さんですね。まずはご足労させてしまったことを謝らせて下さい」
双竜寺の目の前の小柄なコボルドがそう言って頭を下げてくる。まさか出会い頭に謝られると思わなかった双竜寺は、虚をつかれて黙り込んでしまう。
大穴観測班の簡易キャンプのすぐ脇。
大地には襲撃犯とおぼしき男達が横たわり、その周囲を大穴の観測に従事していたダンジョン公社の職員が遠巻きにしている。
見知った部下たちだ。しかしどこかみな、顔色が優れない。
「──こちらこそ、誠に申し訳ない。そこのものたちは我が国の関係者ではないが、イサイサ殿からすれば同じ人類に過ぎないだろう。貴殿にとって、大穴の外での最初の出会いが最悪のものになってしまったことを、心からお詫びする」
「そんなそんな。私も、うっかりこの子達の制御が出来なかったので」
そういって片方のイヤリングに触れるイサイサ。大剣だった方のものだ。
いつの間にか耳から垂れ下がるチェーン部分が長く伸びている。ミニチュアサイズの大剣が、イサイサの手のひらの上でまるで意思があるかのようにピョコピョコと動いている。
「インテリジェンスウェポン……!?」
双竜寺の驚きの声をスルーして話を続けるイサイサ。
「あっ。でも、皆さん父子ともに健康ですよ」
「────すまない。もう一度。良いかな?」
思わず聞き返してしまう双竜寺。彼にとってそれは、とても珍しい事だった。しかし周囲を取り巻く職員たちは誰もそんな双竜寺の反応に驚きは見せなかった。
「えっと──ちょっとこの七武器が勝手にこの男性たちをセルフ懐妊させてしまったんです。けど、匂い的にはみな健康のはずですよ。父体の方は、身体がちょっとビックリしてしまって意識が無いんですけど。それで、引き取ってもらいたくて、乱子さんに連絡してもらったんです。ほら、人間さんの妊夫にはここは少し環境が良くないでしょ? 手近な人間さんが沢山いるところまで運んでもらったんですけど。ここも、設備も無いみたいですし。それに、ほら。もうすぐ臨月ですから」
よく見ると、地面に並べられた特殊工作員らしき男達の腹部が膨らんでいる。
それもかなり大きく。
「……わかった。彼らのことは私が責任をもって引き受けよう」
「良かった。人間さんにとっても子供は大切ですものね。
「──それで、イサイサ殿はこのあとはどうされるのか、うかがっても良いかな」
「双竜寺さんが、ユニークスキルのホルダーの方を呼ばれていますよね? とりあえず彼女には会ってみますよ?」
「……どうして、それを?」
「感じるんです。匂いを」
そういって微笑むイサイサ。
礼儀正しい応対の奥に潜む、底知れなさを秘めた笑顔。いくつもの修羅場を潜り抜けてきた双竜寺ですら、思わず身震いしてしまった。
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