第146話 侵攻の始まり
今日も今日とて、俺はダンジョン&キングダムを進めていた。
ハラドキャンプはすっかり拡充され、今では小さめの要塞、と言った様子へと変貌していた。
高ランクモンスターの素材で作られた壁は、威圧感たっぷりにそそりたっている。設定上は鋼より堅いらしい。
設備も拡充され、それを使う兵隊も揃っていた。
驚いたことに、カラドボルグと『闇』の夫婦は非常に子沢山だった。
確かにコボルドは繁殖力が強いと最初の説明文にかかれていたが、ここまでとは驚きだった。
カラドボルグと『闇』の子供たちの種族はダークコボルドで、見た目は黒柴っぽいコボルドだった。
それが、数万匹。
そして今もまだ、増え続けていた。
そうして人口が増えたことがトリガーだったのだろう。名称もハラドキャンプから、ハラドバスチャンへと変わっていた。
昇格記念にMPをもらえたのだが、まだそれは温存している。
そんなダークコボルドたちが、ハラドバスチャンの各部署で今も忙しそうに働いていた。
黒柴っぽい子達がちょこまかと何かしている姿はとてもホッコリするものだった。
それが例え、どうやら軍事行動っぽくても、だ。
そう。どうもハラドバスチャンの中の様子を見ていると、近々大きな軍事作戦が始動しそうな雰囲気だった。多分だが、一気に大穴の深淵近くまで侵攻し、そこで第二拠点を作成する予定のように見えるのだ。
着々と準備されていくモンスター素材製の資材。持ち運びしやすいように梱包されているあれは、多分壁材だ。
そのとなりの壺のような物にたっぷりと注がれているのは、複数のモンスターの内蔵から取り出した、混ぜるとピンク色に固まる液体だろう。祭壇っぽい物を作るときに使っていた気がする。
保存食らしき何かのモンスターの燻製肉が次々と増産され、倉庫にしまいこまれていく。
「ダンジョン探索って、こう、ちょっとイメージと違ってた……」
本職であろう、異邦の探索者たちも、ここハラドバスチャンでの生活を続けていくなかで、かなり進歩したようだ。
スカベンジャースライムの扱いが、とても習熟している。今では、ほとんど汚れることなく、スカベンジャースライムの調整のための駆除処理をしているし、そのカスの片付けも手際が良くなっている姿が映っていた。多分、彼らも大穴の侵攻の際には、多いに活躍してくれるに違いない。その習熟した特技を活かして。
そんな少しだけ物騒な日常を眺めているときだった。
ポップアップしてくる選択画面。
それは想像していた通り、大穴深淵への侵攻の可否を問うものだった。
俺は選択肢を選ぼうとしたところで気がつく。
皆が作業の手を止めていた。
異邦の探索者たちはスカベンジャースライムに囲まれながら。
ダークコボルドたちも各々の仕事の手を止めて。
イブと互角に打ち合っていたカリオンとフロストとの訓練は、一時中断されている。
カラドボルグと『闇』は、新たな産声と共に。
そして、あだむは、真っ直ぐに真剣な瞳を向けていた。それはまるで画面越しに俺の方を見ているかのようだった。
「……選択肢を選ぶタイミングで、一時停止になっただけ、だよね?」
まるでハラドバスチャンの皆が俺の選択肢を固唾を飲んで待っているかのような錯覚に陥りながら、俺はコントローラーのスイッチを押したのだった。
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