第106話 side ??? 2

 カラフルなおもちゃが部屋中に散らばっている。


「ねぇ、パパ」


 実寸大の子馬ぐらいの大きさの木馬のおもちゃに跨がった人影。そこに別の人影が話しかける。


「どうしたんだい? アイリス」

「それは何してるの?」

「ああ、これかい。例のシンギュラリティの特異点──特異点の中の特異点たる彼を、ようやく殺せそうなんだよ」

「え、すごい。パパ! でも、どう殺るの?」

「これだよ」


 パパが手にした機器をアイリスに示す。

 ガラケーの画面に表示されていたのは、イベントの告知。古めかしいその装置はしかし未だに稼働しているようだ。


「パパ、文字が小さいよ……パパもアイリスみたいにスマホにしようよ」

「パパはこれでいいんだよ。ほら、目を凝らして」

「うーん。桜花剣章の授与式? 花鳥風月の……」


 アイリスと呼ばれた少女が目を凝らすように目尻に皺を寄せて、その小さな装置の画面を睨み、読み上げていく。


「そうだよ。そこには例の彼も出席するみたいだね」

「ええ! それはチャンスじゃない。でもどうやってわかったの?」

「ハローフューチャーは再起不能でも、彼女の部下たちはまだ少しは使えたのさ」

「自己陶酔女の部下にしてはやるじゃないっ」

「アイリス、言葉づかい」

「はーい。パパ」


 アイリスはとことこ離れながら部屋に散乱するおもちゃの一つに近づく。ビビットピンクの巨大なくまのぬいぐるみだ。それにひしっと抱きつくアイリス。

 木馬の上からビビットピンクくまの方に向かって話しかける人影。


「それで例の彼はダンジョン公社の犬たちの手配で、一般観覧に混じるみたいでね」

「あー。人の盾を使うパターン! 紛れやすいし、囮にも出来るもんね。さすが犬はやることがエグいね。それでどうするの」

「言葉づかい言葉づかい……。はぁ。とりあえずちょっと行って、まとめてぷちっとしようと思ってる」


 人影が木馬の上で両手を掲げると、パシッと打ち合わせる動きをする。不思議なことにその手にあったはずのガラケーはいつの間にか消えている。


「ぷちっと! いいね、パパ! いっぱい黒字になりそう!」

「うん、アイリス、楽しみに待っててね」


 そういって子供のような大きさの、の人影は楽しそうに笑いあっていた。

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