第92話 新生
──だ、誰か助けて!
緑川の目の前では、美女と美幼女が非常に険悪な雰囲気で睨み合って、舌戦を繰り広げていた。
スタンピードの主たる、無限に分裂するスライム──エタニティスライムをどうやってか一刀両断して消滅させたオボロ。
それまでの、緑川から見てもわかるぐらい、どこか不調な様子がその時、急に一変したのだ。
覇気と闘気をまとったオボロは、女の緑川から見ても凛々しく惚れ惚れする格好良さだった。
それが何をきっかけにして起きたのかは端から見ていた緑川には判然とはしない。しかしその変化の起きた直前に、オボロの口が「ゴシュジン」と動いたように見えた。
それから推測するに、きっとユウト君が何かやらかしたのだろう。
とはいえ、それ自体はとても喜ばしいことではあった。
緑川とオボロは窮地を脱し、最難関のスタンピードの終結という、最高の結果になったのだから。
ただ、問題が一つだけ。
オボロが急に元気になったタイミングで、その体のどこからか、ポロンと幼女が転がり出てきたのだ。しかも猫耳で、早川を幼くしたような見た目の幼女が、だ。
──生まれ出た、のかも知れない。でもどうしてクロが、オボロから生まれてくるの……
混乱する頭で、緑川はとっさに幼女の体に自分の上着を着せて、その肌を隠してあげる。
幸いなことに体は幼女サイズのため、大人の緑川の服だと上着だけでほとんどその体の全体を隠すことができる。
そうして緑川の上着をまとった幼女は自分がクロだと名乗り、すくっと立ち上がると、すぐさまそばに居るオボロと喧嘩腰で言い合いを始めたのだ。
これまでの様子からは想像出来ないことに、オボロもその喧嘩を買って言い返し始めてしまう。
「ユウト様の手を煩わせたことの自覚はあるんですか」
「もとは貴様のせいだろう?」
「現実を直視出来ず、他責に走るなんて。視野が狭いことですね」
「現実を見れていないのは貴様の方だろう? そもそもが貴様が御主人殿を保護、教導しようとするその態度が傲慢なのだ」
「私は上手くやっておりました」
「ではこの現状はなんだ」
「人の世に生きるということは、心に痛みを覚えることも当然あります。それを予め完全に排除しようとする方が、鳥籠の牢獄ではありませんか」
「しかし現に我は生まれた。それがすべての答えたりうる」
「──」
「──」
淡々としかしギスギスと、止まることのない平行線のお話し合い。緑川のユニークスキル「ハードラック」はクロに、今のオボロ並みの実力があると告げている。そのせいもあって、前のようにオボロが実力でクロを黙らせられないのだろう。
自分の頭越しに続く舌戦を胃を痛めながら眺めていた緑川だったが、これはとうてい自分の手にはおえない事態だとさとり、こっそりスマホで応援を要請する。
ついでにクロの着れそうな子供服の調達も、目黒に頼んでおく。
──え、というか、この件って誰がユウト君に説明するの? 私じゃない、よね?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます