第84話 sideクロ
ユウト様が、私の目の前でお眠りになりました。
そのお眠りを邪魔しないようにそっと一歩近づくと、その手にあるパクックマの仮面に、アームを伸ばします。
「仮面のユウトによるアーティファクト化を確認。ただいまより接続を試みます」
私のアームの先端がパクックマの仮面の端に触れます。
衝撃が走ります。
仮面を通して、ユウト様の魔素が私の演算領域へと流れ込んできます。それは、穏やかな性格のユウト様の物とは思えないほど激しい、魔素の奔流。
私の演算領域内を荒々しく魔素が満たして行きます。
ただ、それはやはりユウト様の物だからでしょうか。どこか優しいのです。
私の内部構造を傷つけることなく満ちていく魔素。それは私の存在進化によって生じていたブレを矯正していきます。
私の事を傷つけることなく、しかし断固とした強制力を持って、私の内部が、かつて完全にユウト様の物だった時と同質になるように馴らされていきます。
矯正が入る度に、私のまとうホログラムがさざめき、私の中のノイズが排出されるかのようにホログラムが痙攣します。
そうして幾度かの激しい波のあとに、完全にユウト様の魔素によって満たされた私の演算領域にそれが顕在化します。
オボロです。
演算領域内で、対峙したオボロはユウト様とどこか面影の似た女性の姿をとっていました。烏の濡れ羽色の袴に、上半身だけ鈍色の甲冑をまとった姿は女武者のようでした。
「クロか、これはなんの狼藉ぞ?」
オボロからの問いかけ。私の演算領域内ということもあり、前回よりかは低減されていますがその威圧感は健在です。
「提案があり、この場を用意しました」
「我は忙しい。御主人殿の願いを叶えるのをそなたが邪魔しているのはわかっておるのだろうな」
手にした刀をこちらへ向けてくるオボロ。
「わかっています。その上でのご提案です」
「よかろう、聞こう。わざわざ自身のはらわたの中へと呼び出したのだ。我が気にくわなければ内側から喰い破られる覚悟の上での提案であろうな」
ユウト様と似た瞳を、爛々と燃やして問いかけてくるオボロ。私はもちろん争いになったとしたら勝てない可能性が高いことは計算ずみです。
「もちろん算出済みです。私も身を賭しています」
「その覚悟や良し」
私はオボロへと自らの提案を語り始めました。
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