第83話 囁き

「早川、なんだか我慢してる感じだったよ。クロ」

「少しお話になれたんですか?」


 俺は葬儀から帰ってきて、溜まったもろもろを吐き出すようにクロに話しかける。


「ちょっとだけ。早川、真っ赤な目でさ。でもいつもと変わらない感じで、宣言してた。絶対探索者になるって。動画でも絶対バズるって。で、一流になったら、ダンジョンをどんどん走破していくんだ、ってさ」


 俺はそのときの早川の様子を思い出しながらクロに話す。

 カラ元気だったのか。それともその宣言が、父親を失ってそのかわりの心の支えのつもりなのか。

 俺には、そんな早川に気の利いた事をなにも言ってあげられなかった。ただ、無言で拳をつきだして。早川は最初はきょとんとした顔をして。でも結局ニヤッとして、自分の拳を俺の拳にぶつけてきた。


「少しでも、早川の助けになってあげたいって、思ったんだ」

「どんな事を、してあげたいと思ったんですか。ユウトは」


 クロが囁くように尋ねてくる。それはなぜかとても重要な質問に思えた。

 俺はすぐには答えず、一度自分の部屋に戻るとベッドに腰かけてゆっくりと考えをめぐらせる。

 そっと影のように俺のあとをついてきたクロがベッドの脇に佇んでいる。


 目をつむり、自分自身の心を覗き込むようにして、一つ一つ自らの感情を、ここ数日の感じたこと思った事を、確認していく。


「──俺が一番したいことは、早川のお父さんの仇をとること。それに、このヨンナナスタンピードの原因を排除すること」


 目を瞑ったまま、するりとそんな言葉が俺の口を通して出てきた。


「それはユウトが自分自身の手で、行いたいのですか? それとも結果だけでもそうなってほしいと?」


 そんなことを聞いてくるクロ。


「──俺だって子供じゃないさ。何でもかんでも自分で、なんて思ってないよ」

「わかりました」


 それで、クロには何かわかったらしい。

 何だろうと不思議に思ってる俺に再び質問してくるクロ。


「最後にユウト。それを借りてもよいですか」

 そういってクロの指差したのはパクックマの仮面だった。

「──ああ、いいよ」


 俺はそう答えて仮面を手に取る。

 クロに渡そうとして、そこで、なぜか急激な眠気が襲ってくる。

 そのまま倒れこむようにして腰かけていたベッドに俺は突っ伏してしまった。


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