第81話 ブランチ
「あれ、なにかおかしいな」
夜ご飯も食べずにいつの間にか眠っていて、しかもかなり寝坊してしまった俺は台所にきてそんな呟きをもらす。
違和感の正体をしばらく考えて、気がつく。
──ああ、いつもなら必ず一匹はいる青いゲジゲジが見当たらないんだ。まあ、そんな日もあるか。
しかし空腹ですぐにそんなことはどうでもよくなる。ちらりと時計を見ると、朝よりお昼御飯に近い時間だ。
──二食も抜かしたのか。それはお腹も空くよな。
俺は空腹に耐えかねて手早く朝食の準備をする。
──すぐに食べれる物。すぐに食べれる物っと。緑川さんからもらった冷凍のパンにするか。
いつもより多めにパンを冷凍庫から取り出し電子レンジへ。あとはお湯を沸かしてインスタントのスープだ。お湯を多めにして、ベランダのプランターから適当にハーブを千切ってきて、軽く洗い、台所鋏で細かくしておく。
「ユウト、おはようございます」
「ああ、クロ。おはよう」
俺が食べ始めるとクロが来た。
──あれ、呼び方が戻っている?
少し気になるも、目の前の食事に気をとられてあまり深くは考えない。
パンをスープに浸してかさまししながら口に詰め込んでいく。
ようやく空腹が落ち着いてくる。
その時、スマホの連絡アプリの通知がなる。学校からだ。
「……来週から授業再開か」
「近隣のスタンピードが終結したからでしょう」
「あれ、そうなんだ。いつの間に」
「昨晩のようです。ここら辺一帯はこれでかなり物流、インフラは安定すると思います」
「そっかー」
クロは時事にも詳しいなーと感心しながら軽くスマホで調べてみる。
SNSで、クマ神降臨、だの、天駆ける奇跡だのがトレンドに載っていた。なんだかすごい探索者が活躍したようだ。ふーんと流し見してスマホを閉じる。
「そうだ、クロ。今週末に早川のお父さんのお葬式なんだけどさ」
「はい」
「服とか香典とかってわかる?」
「服は学生服でよろしいかと。香典に関してはユウトが学生なので、あまり高額でも変だと思います。緑川さんに相談されては?」
「うーん。そうする」
「そういえばユウト」
「うん、なに?」
「また、庭に蟻の巣がありました。早めに駆除された方がよろしいかと?」
「あー。何個?」
「一つです」
「この前と同じやつ?」
「そうです」
「──わかった」
俺は食器を片付けると、いつもの外作業用のツナギに着替え始めた。
◆◇
「なんだか、前よりはやく終わった気がする。蟻の巣が大きくなる前だったからかな。教えてくれてありがとうクロ」
「いえ、大したことではありません」
庭の隅で応援してくれていたクロにお礼を伝える。
「さて、緑川さんとこに行ってみるかな」
ぐーと体を伸ばしたところで、ツナギのポケットに感じる固い感触。
「何か入れてたっけ──ああ、懐中時計を入れっぱなしだった」
何の気なしに取り出して蓋をあけてみる。
不思議なことにいつの間にか時計の針が四の文字を指していた。
──動いてないように見えるけど針の場所が変わってるな。壊れてるんだろうけど。
まあいいかと再びツナギのポケットにしまうと俺はそのまま緑川さんの家に向かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます