第80話 早朝

「課長、以上がクロから聞き出せた、ことの経緯です」

「……ご苦労、緑川。加藤と目黒も」

「いや、大変でした」「はいです」


 モニター越しに課長へと判明したことを告げる緑川たち。時刻はもう朝の四時だ。画面越しにうつる課長の顔も憔悴が酷い。顔色が黒ずんでいる。本社の方も相当なのだろう。


 ユウトの家からクロを連れ込んだ加藤が、あの手この手で相談に乗りながら聞き出した情報。


「パクックマの仮面。そしてオボロ、か」

「ああ。俺が聞いた感じじゃ、二重人格に近いものかと」

「いや、予断は禁物だ。その意識の由来がユウトから、とは限らない」

「では、課長はどこからだと?」


 不思議そうに問いかける加藤。


「緑川、それに目黒。色氏名しきうじなの系譜の二人なら、心当たりがあるのでは?」


 顔を見合わせる緑川と目黒。


「異界由来の者と、課長は考えていると?」


 そう答える緑川。

 ダンジョンが世界に現れる遥か以前から、異界より時たま現出していたアヤカシ、今で言うモンスターを討伐してきた存在。緑川も目黒も、その名字に色を冠するために色氏名と呼ばれる人々の血縁だった。

 課長がそこに言及すると言うことは、オボロが異界の存在の可能性を考えているということ。


「可能性だ。ただ、座視はできない可能性だと思う。とくにオボロがクロに語ったと言う、魔素によって産み出された意識の上澄みと言うフレーズが、引っ掛かる」

「とはいえ、どうするんですかい?」

「我々がよき隣人たる相手は今のところユウトと、クロの二名だ。そこにオボロも含めるのか、見極めねばならない。こちらも動きがあるのだ」


 そこで大きくため息をつく課長。


「スタンピードを一気に三つも終結させた存在がユウトに縁の者だと、すでに?」


 緑川が確認する。


「詳細は当然、誰も知らない。しかしすでにパクックマの仮面の者が複数人に目撃され、ネットにも拡散されつつある。敏いものが余計な所に吹き込むのさ」

「地方議員の先生方、です?」

「そうだ。とくに防衛対象外の県の先生方は自らの票田を守ろうと必死だからな。横やりが酷い」

「──あまり時間はない、と言うことですね」

「そうだ。申し訳ないがそちらで、専門家を招聘してくれ」

「私は本家とは疎遠で……。目黒は?」

「一人、呼べると思うです。あと一時間もすればたぶん起きるはずです。ただ──」

「どうした?」

「いやその、かなり癖のある感じの人です。いいんです?」

「かまわん。全責任は負う。それでオボロは?」

「はい、もう間もなく家に帰りつく頃かと。ようやく衛星で動きを追えるように調整がすんだです」

「エクストラスキル、か。本当に規格外のことばかりだな」

「ええ……」「まったく」「はいです」


 深々と皆がため息をつくころ、近隣のスタンピードの主を討伐し終えたオボロが、クロの待つ家へと戻ってきていた。

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