第55話 会議再び

「それでは只今より、検証を始める。まずは目黒」

「はい」


 いつぞやの深夜会議の時のメンバーが再び、ダンジョン公社支部に、緊急召集された。

 ただ、今回はその時に比べ一名、参加者が増えている。前回はダンジョン公社地下でのお勤め中だった加藤だ。


 一つのテーブルを取り囲むように立つ、七名。

 議題となるのは、そのテーブルに載せられたユウトからのお礼の手紙と、片面に押し花がつけられたしおり。


 集まった人々の中で、司会進行をつとめる双竜寺課長が、目黒に指示する。


 目黒は言われるがままにテーブルに近づくとそこに載せられた物を手に取る。

 目黒の手には、ユウトの直筆のお礼状二通と三枚のしおり。


「よし。一度おいてくれ。次は江嶋、すまないが頼む」

「はい」


 すたすたとテーブルに近づくと置かれた手紙にそっと手を伸ばす江嶋。

 次の瞬間、バチッという大きな音と共に、江嶋の手が弾かれる。


「っ!」


 弾かれた手を、反対の手でさする江嶋。


「ありがとう。では目黒、見える限りの解析の結果を頼む」

「はいです。この手紙としおりには、いわゆる所有権のようなものが発生しているみたいです。現在、二通の手紙と三枚のしおりは受け取ったのが僕なので、僕の所有となっているです」


 そういって、手紙を右手に、しおりを左手に持って会議の参加者へと見せる目黒。


「しおりは四枚ありましたです。ユウト君はしおりをそれぞれ僕と加藤先輩、緑川先輩、そして僕の友人に、と言ってたです」


 その目黒の言葉に合わせて、加藤が残り一枚のしおりを手にして、皆に示す。


「僕がそれを伝えて、加藤先輩がしおりを手にしましたです。すると、こうなりましたです」


 目黒が再び、手紙としおりをすべてテーブルに置くと、加藤の方へと歩み寄る。


 加藤の手にしたしおりに手を伸ばす目黒。

 次の瞬間、先ほどの江嶋と同じように目黒の手が弾かれる。


「ただ、問題はこれが所有権を発生している以外の事はほとんどわからないです。しおりや手紙に、他にどんな力が込められているのか。ただ、この僕宛の手紙。これだけは本当に得体の知れないものがあります。一見、内容は子供のお手伝い券、みたいにすら見えるんですが……」


 そこまで黙っていた緑川も口を開く。


「私のハードラックでも同意見です。その手紙は最大級の警戒を持って取り扱うべきかと」


 そこまで確認したところで双竜寺が告げる。


「二人ともありがとう。さて、この件に関しては一切『ゆうちゃんねる』の動画にはアップされなかった。作成風景もだ。そこからクロの意図するところを推察するに、存在をできるだけ秘匿すべしだと、私は判断する」


 そこで、ダンジョン公社の長老会の二名が口々に話し出す。


「アーティファクトだ」「その押し花はカラスノエンドウ」「花言葉は守護者なり」「黒き黒の言葉のままに、各自が携えよ」「目黒よ。そなたが二枚目を預かるのだ。しかるべき時、しかるべき者に渡すべし」「黒の影たるクロは、我らの知性を凌駕した」「「良き隣人たれ」」


 長老会の二人の言葉に静まり返る部屋。双竜寺が、その沈黙を破る。


「では、緑川も一枚、しおりを受けとりたまえ。目黒」

「はい。どうぞ、緑川先輩。ユウト君から緑川先輩にとのことです」


 そういって、目黒が緑川にしおりを手渡す。

 次の瞬間だった。三人の持つしおりから、ユウトのものと思われる魔素が溢れ出した。


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