第53話 お礼
俺は緑川さんたちの家の前で待ちながら、考え込んでいた。
──あんなにたくさんの例の奴らをすぐ、駆除してくれたなんて。本当に感謝しかない。でも死骸の処理が大変って言ってたよな、緑川さん。
ふと、俺は嫌な想像をしてしまう。
──例の奴ら、もしかしたら俺が知っているよりもいっぱいいた? うわ、想像しただけで背筋が寒くなる……。やめやめ、これは考えるのをよそう。
一瞬、床下とかに、びっしりと繁殖している光景を想像しかけて、俺は慌てて思考を止める。
──別のこと別のこと。そうだ、お礼だ。お礼はどうしよう? 何せ目黒さんの知り合いってだけで、どんな人かもわからないしな。普通は菓子折り、とか? 前は、隣駅までいけば赤8ダンジョンの周りのお土産店で、それっぽいお菓子も買えたんだけど……
そんなことを考えていると緑川さんの姿が道の先から歩いてくるのが見える。
──なんだろ。かなり土埃で汚れてるように見えるな、緑川さんの服。上下ともだ。まるで地面に腹這いになったみたいな汚れ方じゃないか。もしかして、やっぱりうちの床下にも、例の奴らがいた?
考えないようにしていた嫌な映像が再び頭を過る。
「緑川さん、今回は例の駆除、本当にありがとうございました」
出会い頭に俺は頭を下げる。俺の感謝に疲れた顔をハッとさせる緑川さん。
俺はそれをみて、もしかして緑川さんも駆除に協力してくれたのかな。それで疲れているのかな、と推測する。
「そんな、いいのよ。ユウト君。お互い様だから。それより、まだ少し片付けにかかりそうなの。良かったらうちで待つ?」
「いや、それは流石に、申し訳ないというか……」
「遠慮はいらないわ。ほらほら、どうぞどうぞ」
半ば強引に招待されて、俺は結局、上がり込んでしまう。
引っ越して少し経つとはいえ、緑川さんたちの家の中は、かなり片付いていた。大人びた内装だなーという印象だった。
そのまま言われるがままにお茶までご馳走になってしまう。少し肩身が狭い。
俺はお茶を飲んでいる間に、緑川さんは着替えてきたようだ。少しすっきりした様子。それで、俺はきいてみるかと声をかける。
「あの、緑川さん。目黒さんのお友達が駆除してくれたんですよね? お礼とか、どうしたらいいですかね」
「……そんな特に気にしなくていいと思うわよ」
なぜか少し間があった。
「いえ、そういうわけにも……。あれですかね。直接のお礼は目黒さんに何かお渡しして、目黒さんからお友達にって感じですかね」
「高校生なのに、ユウト君、しっかりしてるわね。じゃあちょっと目黒に電話してくるわ。ついでに向こうの状況もきいてみるから」
「お願いします」
スマホ片手に退室する緑川さん。
──あんまり高価なものだと手が出ないしな。帰ったらクロに相談してみるか。
こういう時のクロの回答は、俺からすると首をかしげるようなものが多いのだが、なぜか緑川さんたちには受けが良い印象だった。
そして今回のお礼の件も、クロの意見を取り入れたことで、一騒動起こることとなるのだった。
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