第4話 草刈り
「よし。装備は完璧だな」
俺は自身の体を見下ろし指差し確認をする。
まずは長靴。大きく青い染みがついているが、これは一度、例の青いゲジゲジらしき虫の残骸を片付ける時に、長靴にその欠片を落としてしまったのだ。それ以来、なぜか取れない。欠片もどこかいってしまった。まあ、模様だと思って使っている。
──そういえば新聞紙ソードも青く染まっているな
次に作業着にしているツナギ。これは買い換えたばかり。
そして軍手。こっちはすっかり草の汁で汚れて、緑に染まっている。ただ不思議と長持ちしている。
最後に、草刈りようの鎌だ。学校の近くのホームセンターで奮発して買ったものだ。いつも使ったあとは庭にある池で軽く洗って、干しているだけなのだが、これも全く切れ味が落ちないので重宝している。
何か面白いのか、クロがふよふよと俺の指差し装備確認を追うように動いている。赤いランプが空中に残像をえがく。
「本当に、クロは小動物みたいで可愛いな。何であいつは──」
俺は早川の顔を思い浮かべながら肩をすくめると、さっさと作業に取りかかることにする。
今日は少ないとはいえ宿題もあるし、ここでもたつくと、何よりも夕食が遅くなる。
片道二時間の通学をこなす身には、時間は一秒たりとも無駄には出来ないのだ。
俺はさっそく家の近くから外に向かうようにして、おいしげる草木を刈り取り始めた。
◇◆
【とあるSNSサイト】
タロマロ@tar0mar0・1時間…
|
|新しい動画だ
|今回もライブ配信か。お、ついに外だぞ
|mytuve.com/yuuchannel/542875163/98
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|◯39 ⇔323 ☆601
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回下印焔@KaikainHO・58分…
|ちっすちっす。タロマロさん
|いつ寝てるんすか
|体力お化けっすね
|今回は、庭いじりっすかね
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|◯1 ⇔2 ☆13
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タロマロ@tar0mar0・53分…
|ダンジョンでレベル上がると
|必要な睡眠時間が減るのさ
|それより見ろ。そこ、百妖樹じゃないか
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|◯1 ⇔10 ☆300
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回下印焔@KaikainHO・51分…
|うげっ
|あっちは死食い草っすよ
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|鎌一本で、まるで草刈りみたいに植物系
|モンスターを倒してるっすよ、あのパクックマ
|
|
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|◯1 ⇔9 ☆86
|
タロマロ@tar0mar0・47分…
|気づいたか?
|あの鎌、ただの鎌じゃないよな
|あれだけのモンスターを倒しているのに
|全く切れ味が落ちてないぞ
|◯1 ⇔25 ☆369
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タロマロ@tar0mar0・41分…
|長靴に死食い草の溶解液が、かかった?!
|──何で無傷なんだ?
|あり得んぞ……
|
|◯1 ⇔21 ☆100
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パクパクベアー@maru*kaziri・35分…
|どうも、装備品がそれぞれ強化されているみたい
|少なくとも鎌に、長靴。たぶんあの軍手も
|あ、倒し終わったみたい
|◯1 ⇔121 ☆500
|
パクパクベアー@maru*kaziri・18分…
|まって。鎌を洗っているあの池の水
|わずかにコバルトブルーの色味が見える
|もしかしたら高濃度の魔素が溶け込んだ
|魔素水?
|◯10 ⇔1251 ☆5009
|
タロマロ@tar0mar0・10分…
|魔素水って、さすがにそれはあり得ないだろ
|ダンジョンからの産出が希少すぎて
|オークションでいつも高値を連発している
|やつじゃないか、それ
|◯1 ⇔2 ☆10
|
パクパクベアー@maru*kaziri・5分…
|でも、それで鎌の切れ味にも説明つくよ
|あの鎌の刃、高濃度の魔素で
|コーティングされてるんじゃない?
|
|◯10 ⇔12 ☆500
|
◆◇
「ふう、なんとか日のあるうちに終わったー」
俺は大きく延びをする。長靴にいつの間にか絡み付いていた蔓を反対の足で踏むようにして外す。
──植物ってこんなに元気なもんなのかね。草木を刈る度に何かしらが絡み付いてきてる気がするわ。
俺がすべての蔓を取り除いたところでクロがやってくる。
「お、クロも応援してくれてたのか。ありがとう。もういいよー」
俺の声に反応してふよふよと上下に動くクロ。
そのまま家に戻っていく。
クロの可愛らしい挙動に、俺は笑顔で見送ると、夕飯の準備を始めようと勇んで家へと向かった。
俺の「もういいよ」を撮影完了と判断したクロは、ライブ配信2回分を編集し、ダイジェスト動画の作成に取りかかっていた。
そしてその作成したダイジェスト動画も広く拡散されていくこととなる。ダンジョン探索者のわくを越え、魔素水の供給を熱望する企業担当者にまで、届くほどに。
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