第61話 涼也は私達と混浴したくないの?

 ソフトクリームを食べ終わってしばらくして、目的地である竹林の小径に到着した。竹林の小径はその名の通り竹林が続く美しい光景がテレビなどでもおなじみの人気の観光名所だ。

 商店街などで賑わっていたメインストリートとはガラッと雰囲気が変わり、都会の喧騒から離れた落ち着いた光景が広がっている。


「テレビとかでは何度も見た事あったけど、やっぱりこの景色が良いよね」


「これぞまさに日本の風景って感じだもんな」


「落ち着く」


 さわやかな風に竹の葉が揺れ、心地のよい音と差し込んでくるやさしい木漏れ日は本当に最高だ。平安時代には貴族の別荘地だったとも言われているがこれだけの絶景なら納得出来る。

 ただやはり人気の観光地という事でかなり混雑しており人が写らないように写真を撮るのは本当に一苦労だった。綺麗な写真を撮ろうと思ったら早朝など人が少ない時間帯を狙った方がいいかもしれない。


「……そう言えば気になってたんだけどこの先って一体何があるんだ?」


「あっ、それは私も気になってた」


 竹林の小径が有名な観光地という事は知っていても具体的にどんな場所なのかを俺と玲緒奈はよく知らなかった。するとスマホで写真を撮っていた里緒奈が少し得意げな表情で口を開く。


「この先には縁結びと子宝安産の神様として信仰を集めるパワースポットで有名な野宮神社があって、更に先に進むと日本庭園の大河内山荘がある」


「へー、流石里緒奈。やっぱり詳しいね」


「来る前にしっかり予習したから」


 相変わらず里緒奈の予習は完璧だった。それから俺達は三人で雑談しながら竹林の小径をゆっくりと進んでいく。途中で野宮神社に立ち寄ったりもしたが、大体30分くらいで終点に到着した。


「歩いているだけでめちゃくちゃ楽しかったね」


「ああ、幻想的な雰囲気でここだけ異世界って感じがしたよな」


「写真とか映像で見るよりも実物は良かったから、来て正解だった」


 この景色を見れただけで今日はもう満足と言っても過言では無い。それから竹林の小径を後にした俺達は嵐山の他の観光名所を3人で巡り始めた。





◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇





「朝からずっと歩きっぱなしだったから気持ちいいね」


「だな、疲れた足に足湯はめちゃくちゃ効く」


「生き返る」


 竹林の小径を出た後もしばらく嵐山観光を続けていた俺達は帰りの電車に乗ろうとしていたが、駅のホームに足湯があったため立ち寄っていた。


「まさかこんなところに足湯があるとは思ってもみなかったから驚きだよね」


「ああ、こんなところに足湯を作る事を思いついた人はマジで天才だと思う」


「この場所なら観光帰りに利用しやすいから本当に理に適ってる」


 最初は電車を待っている間だけ入ろうとしていた俺達だったが、あまりの気持ちよさで完全に動けなくなっている。

 伏見稲荷の頂上まで登ったり、長時間嵐山の観光名所を歩き回ってさっきまで散策して疲れ切っていた体には効果抜群だった。

 まあ、ホテルに戻る最終時間まではまだかなり時間があるためもう少しここでゆっくりして行っても良いだろう。行き交う電車と町並みを感じながらのんびりと浸かる足湯は非日常感があってただそれだけで楽しめた。


「へー、ここの足湯って嵐山温泉のお湯を使ってるのか」


「泉質は弱アルカリ性で筋肉痛とか疲労回復の効果があるみたいだから今の私達にピッタリ」


 さっきまで歩き疲れてしんどそうな表情を浮かべていた里緒奈も生き生きとした表情になっている。


「これで涼也君の夢が1つ叶ったね」


「まさかこんな形で叶う事になるとは思わなかった」


「それって一体どういう意味だ?」


 ニヤニヤとした表情でそんな事を言ってくる玲緒奈の言葉の意味が理解できなかった俺はそう聞き返した。


「だって涼也君、私達と混浴できたじゃん」


「……いやいや、一緒に足湯に入る事は別に混浴って言わないだろ。そもそも玲緒奈と里緒奈と混浴する事を夢だと思った事は無いし」


 勝手に俺の夢を捏造しないで欲しい。そんな事を思っていると隣でスマホをいじっていた里緒奈が少し悲しげな表情で口を開く。


「もしかして涼也は私達と混浴したくないの?」


「別にそんな事は無いけど……」


 里緒奈からそんな顔を見せられたらそう答えるしかなくなってしまう。


「じゃあ涼也君は私達と混浴したいって思ってるんだ、そうかそうか」


「言質は取った」


「どうしてそうなるんだよ」


 ぶっちゃけ既に2人とは関係を持っているため今さら裸を見るくらいどうって事は無いが。


「じゃあ早速今夜とかどうかな? 皆んなが寝静まった後に大浴場で合流して混浴しようよ」


「そんなの無理に決まってるだろ、バレたら大目玉どころじゃ済まないぞ」


 下手したら俺が逮捕されてしまう可能性もある。そんなしょうもない事で人生を棒になんて振りたくは無い。


「まあ、今のは流石に冗談だけどまたいつか3人で混浴しようね」


「約束、絶対に守って貰うから」


「分かったよ」


 そんな会話をしながら俺達は心ゆくまで足湯を堪能し続けた。


———————————————————

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