外伝⑥ 凉也君がクラスメイトから告白された事件

 いつものように学校へ登校した俺が1時間目の準備をするために机の中から教科書を取り出していると、全く見覚えのない手紙のようなものが出てきた。


「なんだこれ……?」


 昨日帰る前に机の中をチェックした時は確かに入ってなかったはずなので、恐らく誰かが意図的に入れたものに違いない。

 手紙という事は俺に何か伝えたい事でもあるのだろうか。そんな事を思いつつとりあえず開封して中を読んでみる事にする。

 手紙には話があるから今日の昼休み屋上に来て欲しいという内容が簡潔に書かれていた。ただしそれ以外の情報に関しては何も書かれていなかったため差出人に関しては不明だ。


「……誰に呼び出されたのか分からないのは普通に怖いな」


 俺の経験上このパターンは十中八九嫌がらせな気がする。実際中学3年生の時に同じような事があったが、あの時は完全なる嫌がらせだったわけだし。

 だから行くかどうかでかなり迷ったが、万が一という可能性もあるため行く事にした。ひとまず昼休みに用事が入った事を玲緒奈に伝える。


「ちょっと用事があるから今日は先にお昼を食べててくれないか?」


「涼也君に用事って珍しいね。ひょっとして先生に呼び出されたとか?」


「まあそんなところだ」


 いちいち説明するのが面倒だった俺はそう濁した。それから昼休みになった俺は約束通り屋上へと向かう。


「八神、待ってたわよ」


「……なんだ、俺を呼んだのは白銀さんだったのか」


 屋上で俺を待っていたのは同じクラスの女子である白銀美鈴しろがねみすずだった。白銀さんはクラスで玲緒奈の次に影響力を持っている女子であり、いわゆる陽キャという奴だ。

 本来ならば俺のようなぼっちとは関わりなんてなさそうなタイプの白銀さんだったが、実はつい最近接点ができて時々話すようになっている。

 俺と白銀さんの接点が出来た理由が痴漢だった事は今でも忘れられない。先月の休日、俺は電車の中で痴漢にあっていた女の子を見つけた。

 周りの乗客が見て見ぬふりをする中、俺はどうしても黙って見過ごす事ができなかったのだ。痴漢をしていた中年の男に思いっきり顔を殴られるトラブルもあったが、なんとか取り押さえて駅員に引き渡した。

 顔を殴られた衝撃で俺は鼻血まみれになっていたが、玲緒奈と里緒奈を助けた時よりは明らかに軽傷で済んだためそこは不幸中の幸いだったと言える。

 それからすぐ女の子がお礼を言いに来たわけだが、その時に被害者がクラスメイトの白銀さんだった事に初めて気付いた。向こうもそのタイミングでようやく気付いたようで世間って意外と狭いなという話をした事は記憶に新しい。


「手紙には俺に話があるって書いてたけど、何の話なんだ?」


「その前に質問なんだけど、八神って玲緒奈か里緒奈と付き合ってるの?」


 白銀さんは突然そんな事を質問してきた。俺と玲緒奈、里緒奈が一緒に登下校をしたり昼休みを過ごしている事は割と有名になっているので気になったのかもしれない。


「いや、付き合ってないけど」


「そうなのね、なら私と付き合いなさい」


「……えっ?」


 突然の事に俺は理解が追いつかなかった。ひょっとして今俺は告白されたのか。いや、多分買い物にでも付き合えという意味だろう。そんな事を思っていると白銀さんはニヤッとした表情で口を開く。


「どうせ八神の事だから買い物とかに付き合えって意味とかだと思ってるかもしれないからはっきり言っておくわ。男として好きだから付き合えって意味よ」


「うそだろ!?」


 一瞬夢ではないかと疑う俺だったが、これは紛れもない現実だった。どうやら俺は生まれてから初めて女の子に告白されたらしい。


「それで返事は?」


「俺で良ければ」


 そんな俺達の様子を虚な目をした二人組に見られていた事に、この時の俺は全く気付いていなかった。





◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇





 今日は今までの人生で一番最悪な日に違いない。その理由は簡単で涼也君に彼女が出来てしまったからだ。なんと涼也君は美鈴から告白をされて、あろう事か受け入れてしまった。


「涼也なんで……」


「……絶対私と里緒奈に気があると思ってたのに」


 影からこっそり涼也君を監視していた私達は大きなショックを受けている。痴漢にあっていたところを涼也君に助けてもらったという話を美鈴に聞いた時から少し嫌な予感はしていた。

 もしかしたら美鈴が涼也君の事を好きになった可能性があると思っていた事は事実だ。だがまさか涼也君が告白を受け入れてしまうとは思わなかった。

 確かに私と里緒奈は涼也君と既にエッチしているためその点においては美鈴に勝っている。涼也君の童貞も私達が奪った。

 しかし美鈴に涼也君の心という一番大切なものを奪われてしまったのだ。はっきり言って心が手に入らなければ何の意味もない。だから私達は最終手段に手を出す。


「……そうだよ、別に涼也君に彼女がいても関係ないよね」


「うん、邪魔なあの子を追い出して私達が涼也の隣を奪えばいいだけ」


 私達のママはパパを手に入れるためにありとあらゆる手段を使って精神を徹底的に破壊して堕とした。そして完全に壊れたパパと最終的に結ばれたのだ。

 ママに出来たのであれば私達にだってきっと出来るはずだ。だってママの血をしっかりと受け継いでいるのだから。だから私と里緒奈は涼也君を壊す事にした。

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以上、外伝リクエスト第六弾でした!


ちなみにこの話は外伝リクエスト第一弾「玲緒奈と里緒奈に監禁される涼也の話」の前日譚となっています。

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